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機械学習による業績・財務分析(メルカリ・Sansan・mixiなど)

2018年6月に上場したメルカリ、2019年6月に上場したSansanなどITベンチャー企業の大型IPOが注目されていますが、財務指標の観点で、それらの企業と類似した企業は他にもあるのでしょうか?

前回のnote「マザーズ上場企業の財務分析・ランキング(売上、利益、ROE、従業員数など)」に使用した財務データ(2019年6月時点)と機械学習を使って、マザーズ上場企業について類似する企業をクラスタリングしてみました。

クラスタリングは、財務分析によく用いられる成長性、収益性、安全性の3つの観点で行ないます。具体的な特徴量は以下の通りです。

①成長性
売上成長率、ROA成長率

②収益性
営業利益率、当期純利益率、ROE、ROA

③安全性
自己資本比率、流動比率、固定比率

クラスタリングの手法としては、K-means法(k平均法)とVBGMM(Variational Bayesian Gaussian Mixture Model)を試しました。

類似する企業結果についてご興味ある方は、「成長を重視する企業クラスタ(メルカリ・Sansanなど)」からご覧ください。

K-means法でのクラスタリング数の決定

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まず、K-means法におけるクラスタリング数を決定するために、クラスタ数と歪み(クラスタ内誤差平方和)をプロットしていきます。

教科書的なサンプルデータであれば、もっと角のあるプロット線になり、最適なクラスタリング数(歪みが急降下する部分と緩やかに降下する部分の境界点)が見つかるのですが、上図では全体的に滑らかなプロット線となってしまいました。

滑らかなため境界点が曖昧になってしまうのですが、10〜15あたりのクラスタ数が良さそうでしょうか。

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次に、クラスタ数を横軸に、シルエット係数の平均値を縦軸にプロットしていきます。

シルエット係数の平均値が1であれば、良いクラスタリングと言えますが、今回の結果はあまり良い結果とは言えなさそうです。その中でもクラスタ数が15の時、もっともシルエット係数の平均値が高いため、今回のK-means法ではクラスタ数を15に設定して、クラスタリングします。

VBGMMにおけるクラスタ数の決定

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もう一つのクラスタリング手法として、VBGMM(Variational Bayesian Gaussian Mixture Model)も使ってみます。

横軸にクラスタ数、縦軸に各クラスタ数に属する確率を図示すると、クラスタ数2、5、17の確率が高いことが分かります。わずかですがクラスタ数17の確率がもっとも高かったことと、企業をある程度細かいクラスタリングで分析したかったため、VBGMMではクラスタ数を17でクラスタリングします。

t-SNEによる次元圧縮と可視化

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今回、クラスタリングに用いる特徴量は9つ(売上成長率、ROA成長率、営業利益率、当期純利益率、ROE、ROA、自己資本比率、流動比率、固定比率)あり、このままではクラスタリングした企業群を可視化(図示)できないため、t-SNEによって次元圧縮し、可視化しました。

色別に各クラスタを表示していますが、同じ色同士が近くに固まっていることが分かります。

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こちらはK-means法によってクラスタリングしたものをt-SNEによって次元圧縮および可視化した図です。VBGMMと類似したクラスタリングになっていることが分かります。

次は実際にVBGMMでクラスタリングした企業群の一部を見ていきます。

成長を重視する企業クラスタ(メルカリ・Sansanなど)

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まず、注目度の高いITベンチャー企業メルカリと同一クラスタの企業を見ていきます。

2017年9月に上場したFinteh企業のマネーフォワードや2019年6月に上場したSansanも同一クラスタに含まれる結果になっています。その他では、GA technologies(不動産Tech)、ロコンド(ファッションEC)、クラウドワークス(クラウドソーシング)、メタップス(Fintech・マーケティング支援)、カオナビ(人材管理システム)などIT系企業が多く含まれています。

このクラスタの特徴としては、当期純利益率やROEといった収益性を測る財務指標はマイナスまたは低くなっていますが、成長性を示す売上成長率は40〜125%程度あり、非常に高いと言えそうです。また、安全性の財務指標については、高過ぎたり低過ぎたりというわけでもなく、比較的安定していると考えられます。

安全性を意識しながら、現時点では利益よりも成長を重視している企業クラスタではないでしょうか。

安全性が非常に高く、収益性も高いクラスタ(ミクシィ・GameWithなど)

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モンストの人気低迷によって収益の低下が注目されがちなmixi(ミクシィ)が属するクラスタです。また、ユナイテッド(アドテック)、ユーザーローカル(WEBマーケティング支援ツール・SNS解析ツール)、GameWith(ゲーム攻略サイト運営)、Welby(ヘルスケア)などが含まれています。

このクラスタの財務指標特徴は、利益率、ROE、ROAといった収益性の高さと、自己資本比率、流動比率、固定比率など、安全性指標が非常に優れているという点が挙げられます。また、ミクシィ以外は売上も成長しており、今回の指標において、優良企業と考えられるのではないでしょうか。

成長性と収益性がマイナスになっている企業クラスタ(ドリコムなど)

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3つ目は、ドリコム(ゲーム開発)、ジーニー(アドテック)、GMO TECH(WEBマーケティング)、ホープ(広告事業)が属するクラスタです。

このクラスタ企業の特徴は、成長性の指標であるROA成長率が大きくマイナスになっていることが挙げられます。また、いずれの収益性指標もマイナスになっています。

今回の分析対象である財務指標においては、同じクラスタ内でも各社の状況はいくつか違うようです。まず、ドリコムは一部のゲームタイトルを配信停止したり、新規タイトルの売上が伸び悩み、売上が減少した結果、当期純利益(率)のマイナス額(率)が前年からさらに大きくなっています。

ジーニーは、売上は若干増加していますが、売上増加に対する原価増加の方が大きく、当期純利益がプラスからマイナスに転じた結果、ROA成長率がマイナスになっています。

GMO TECHは、アフィリエイト広告の最大手顧客の取り組み変更による影響があり、売上が下がったため、当期純利益がプラスからマイナスに変化しています。

ホープは、当期純利益率がプラスからマイナスになったため、ROA成長率もマイナスになっていますが、売上は増加しており、決算説明資料を見る限りでは計画的に人材投資などを行っているようです。

M&Aや不動産売買などによって収益性を確保し、大きな売上増加を実現したクラスタ(ユーザベースなど)

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4つ目は、ソーシャルニュースメディアNewsPicksを運営しているユーザベース、アプリ開発企業のand factoryなどが属するクラスタですが、売上成長率が非常に高く、収益性もプラスで、高成長と収益性の両立ができているように見えます。

安全性については、シェアリングテクノロジー(便利屋とユーザーのマッチングプラットフォーム)、霞ヶ関キャピタル(不動産売買・仲介・管理)、アドベンチャー(航空券販売サイト運営)の自己資本比率が低めになっており(マザーズ上場企業平均:約62%)、固定比率はユーザベース、シェアリングテクノロジー、霞ヶ関キャピタル、アドベンチャーが高くなっており(マザーズ上場企業平均:0.68)、やや安全性指標を犠牲にしながら成長性と収益性を確保しているのかもしれません。

ユーザベースは、2018年7月に米経済メディアQuartz社を買収したこともあり、大きく売上を伸ばしています(既存事業のみの売上成長率は+52%)。一方、Quartz社の売上は買収した7月から12月までの5ヶ月分のみの計上ということもあってか、総資産増加率に対する当期純利益増加率が低かったため、マイナスとなっています。また、自己資本比率や固定比率といった安全性指標も買収によって、低下させる方向へシフトしています。しかし、Quartz社はユーザベースの事業ともシナジーは高いと考えられ、今後の成長を加速させるための攻めのM&Aと言えそうです。

シェアリングテクノロジーについては、海外留学のシェアリングエコノミーサービス、電子プリントやガラスの製造・販売、不動産売買・仲介・賃貸、民泊型ホテル運営など、主力事業とのシナジーがあまり高くなさそうな企業M&Aによって、総資産も大きく増えたため(主に負債の増大による)、ROA成長率はマイナスとなり、自己資本比率も低下しています。

アドベンチャーも複数社のM&Aによって急成長を遂げており、その分、負債も増加することで自己資本比率も減少しているようです。

霞ヶ関キャピタルは、発電施設や不動産の大型案件売却によって売上やROAが増加しているようで、1つ案件の収益が大きく、一時的にこのクラスタに属している可能性がありそうです。

and factoryもアプリ開発・運営事業(ゲーム攻略掲示板、マンガアプリなど)を順調に成長させる一方で、自社開発型の宿泊施設を1店舗販売したことによって、売上と利益を大きく伸ばしています。もともと、アプリ開発・運営事業の収益性が非常に高く、その収益をもとにIoT体験型宿泊施設への投資を行なっていると考えられます。

ROAの改善率が非常に大きいクラスタ企業(オイシックス・ラ・大地など)

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5つ目のクラスタは、売上も成長していますが、特にROA成長率が非常に大きくなっています。また、安全性指標も比較的安全圏に位置する値になっています。

一方、収益性を示す指標はいずれもプラスですが、ROA自体は著しく大きいというわけではないため、もともとROAが小さかったり、マイナスからプラスに転じたと考えられます。

売上は継続的に成長させつつ、安全性も配慮しながら収益性を確保していこうとしている企業と言えるかもしれません。

まとめ

今回は、成長性(売上成長率、ROA成長率)、収益性(営業利益率、当期純利益率、ROE、ROA)、安全性(自己資本比率、流動比率、固定比率)といった特徴量を用いてクラスタリングしましたが、目的によって他の特徴量を用いても面白そうです。

また、東証一部上場企業や海外の企業を入れてみて、類似の企業を探してみたりしても面白いかもしれません。


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