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トイレで叱られた

あれは数年前、初めてひとりで行った老舗ライブハウスでのことだ。

開演までにはまだ時間があり、ドリンクを注文する前にお手洗いに行くことにした。

個室は3つあった。

一番手前はあいているようだけれど、入っているようでもあり、念のため2度ノックをして、耳をすませて確認し、そーっとドアを開けた。
もちろん中に人はおらず、入ることにした。

ところが、内側の鍵が引っかかり気味で、うまくかからない。
だから外から見た使用中のサインが、中途半端だったんだ。

少し力をこめてロックし、用を足した。
そして立ち上がった時だった。

カツカツカツ!というヒールの音が近づき、ちょっとまずいんじゃない?と思った瞬間、突然ドアがガバッと開いた。

幸い身なりを(ほぼ)整えた後だったことと、外開きのドアがすぐ閉じられて事なきを得た。

が!しかし、事件はそれで終わらなかった。

外側から、叫ぶような声でその女性に怒られた。

「ちょっと!鍵かかってないじゃないですか!
私、2回ノックしましたよね!
私はノックもしないでドアを開けるような人じゃありません!」と。

ドアを隔てて、外側から怒る女性と、内側でポカーンの私。

で…、え?悪いのは私?

そこで、

「私は鍵をかけないでトイレに入るような人じゃありません!
思い切り引っ張らなければ開かなかったと思いますよ。
それに、ノック1回もしてませんし」と・・・

反論したかったが、実際はポカーンのまま立ち尽くしていたと思う。
ドア越しの言い争いも変だし、何よりこれからライブというのに怒るのは嫌だった。


恐る恐るドアを開けると、洗面所の角で壁に向かって立っている女性がいた。

おしゃれなファッションに身を包んだ女性だった。

面と向かって怒られるのは嫌だったので、急いで手を洗って出てきた。

ライブの前というのに残念だなと思ったけれど、始まってしまえばステージとの一体感で、すっかり楽しむことができたのは、よかった。



この数日後、年上の友人にこの話をしたことがある。
笑ってくれるか、一緒に怒ってくれるかと期待したのだけれど、
「それはミタライが悪いよ」と言われた。
ちょっと予想外だった。
でも、友人はその場にいたわけじゃないし、人の話を受け止めるって難しいことなのかもしれないなと、もう一つのことを学んだ出来事でもあった。



雨の週末。
エッセイの下書きを整理している。
この原稿は世に出せないから捨てようかと思ったけれど、noteに書かせていただくことに。
(結局世に出してるやーん)

不快な思いをさせてしまったら、お許しください。
また楽しいエッセイを書いてお返しします。

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