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【枯れ木も山のにぎわい】(新釈ことわざ辞典)記事版

大学の名誉教授。会社の相談役。外郭団体への天下り官僚(これが一番始末が悪く、枯れ木にせっせと肥料をやり続けなければならない)。

3種の枯れ木を引用しましたが、かなり性格が異なります。

大学の名誉教授は、通常名誉のみ、無給の肩書で、実際には大学の賑わいにはならず、その代わり、犯罪に関与して新聞沙汰にでもならない限り無害でもあります。
その肩書を名刺に刷り込み、別の大学で教職に就いたり、学会やマスメディアに呼ばれるなど、活動を続けられるのは、『枯れ木』の側にとって幸せなことなのでしょう。
つまり、この場合、『山』は元の大学ではなく、世間です。
講演会に呼ぶ講師だって、『元教授』より『名誉教授』の方が聴衆に対して印象もいい。
退職を機にできた時間で出版など活動範囲を広げる人もいます。それがベストセラーになれば『枯れ木に花が咲く』わけで、── うん、素晴らしい!

会社の相談役とか顧問は10年ほど前から見直しの機運が高まり、元会長や元社長、その他役員だった人にタクシーチケット、ゴルフ会員権などはそのまま支給し、一定の報酬を維持するような肩書は廃止する企業が増えています。
ある人が、
「(一線を退いて)相談役になった途端、誰も相談に来なくなった
と自嘲気味に嘆いていましたが、ま、これは健全な『山』である証拠であり、引退して責任のない人にあれこれ相談に来るようでは企業として機能不全だし、不満をご注進に来る人が多ければお家騒動の火の手が上がりかねない。
けれども、元トップの『過去ネットワーク』が重要な場面もあり、やはり『経済原理』が主導するまともな企業では、正しい形での『山の賑わい』なのでしょう。
最近では有能な経営者はスッパリ後進に道を譲った後は跡を汚さず、別の企業経営だったり、スタートアップの応援に転身する人も多くなりました。
── これも、素晴らしい。

『新釈ことわざ辞典』に書きましたが、一番たちが悪い『枯れ木』が天下り官僚です。
この人たちは退官後に相当額の報酬で財団法人や公益団体などの理事職に就き、退職金を受け取ります。さらに問題なのは、それを念頭に役所在任中に天下り先を作ることです。
環境が変化してそうした天下り先が不要になった後も、自分だけでなく、先輩や後輩のためにもそうした法人・団体を潰すことはない。
『枯れ木』に水や肥料をやり続けるのです ── 公金から。
立ち枯れした木をそのまま放っておくと害虫の温床になったりしますが、この場合は『枯れ木』自体が『山(国家)』の害虫・害獣となるわけです。

スズキ自動車の鈴木修相談役が社長時代、天下り官僚について書かれたブログを引用することにします:

皆さんご承知の通り、お役所には変なシキタリがありますネ。
同じ省内で同期入社の一人がトップに登りつめていくと、みんな退官する。
退官後もそれなりに処遇しないといけないから、財団法人や公益団体など多くの天下り先を作る。まさに悪循環です。
僕は官僚の皆さんに言いたい。
天下りなんて言われるまえに、早く退官し自分を高く売りつけなさいよ。
*****〈中略〉*****
常々考えているのですが、官僚の方は45歳になったら民間へ出るほうが良いのではないでしょうか。
優秀な方々だから45歳から2年間、みっちり現場で「雑巾がけ」をすれば会社のことを覚えられます。そうすれば、20年間官僚として身につけた実力を、経営幹部として存分に発揮できるはずです。
45歳を過ぎ50歳にもなると、お役所の中で偉くなってきます。一から雑巾がけするのはなかなか難しいでしょう。大学や研究機関で活躍するなら、いくつになっても遅くないでしょうが、ビジネスの世界に飛び込むなら、45歳がひとつの目安ではないかと思います。
とにかく、優秀な人材を生かせない天下りは、国家にとって甚大な損失です。

天下りより官僚FA - 日本経済新聞 (nikkei.com)
2010年5月28日

鈴木修社長(当時)は、枯れ木になる前に外に出て活躍しなさいよ、と言っています。
でも、『雑巾がけ』したくない人はやはり出ないでしょう ── いや、役所の中での『雑巾がけ』を選ぶのでしょう。
なぜなら、雑巾をかけるその先に、確実な天下りが待っていますから。
官庁の権威が通じにくい企業の中で雑巾がけ競争するのは、あまりにリスクが高過ぎる ── そう考えているかもしれません。

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