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ワールドカップで想い出す《引き》の強さ!(エッセイ)

サッカー・ワールドカップが始まりました。

今から20年前、日韓主催大会の年の1月1日、同業他社の先輩研究者から年賀メールを受け取りました。
簡単な挨拶の後に以下のような依頼が:

私は1978年アルゼンチン大会以来、全てのワールドカップで決勝戦を観戦してきました。4年に1度行われている決勝戦をスタジアムで見るために4年間必死で働いてきたと言っても過言ではありません。
けれど、日本の、しかも私が住む横浜で決勝戦が行われる今回のチケットに限り、未だに入手できていません。入手できる目処めども全くたっていません。
そこでこのメールを受け取った皆様にお願いがあります。
富士通が主催する観戦チケット抽選クイズのウェブサイトで、決勝戦のペアチケットにエントリーしていただきたいのです。
そして、見事当選したあかつきには、ペアチケットの片方に私の名前を書いていただきたい。
当選され、名前を書いていただければお礼に……(以下略)

2002年元旦に受け取った依頼メールのほぼ内容

宛先に私の個人名はなく、メーリングリストでかなり多くの知人に送付していることは明らかでした。

案内されたウェブサイトに行くと、(あまり記憶が定かではないが)誰でもわかる簡単なクイズがあり、希望する試合のチケットを指定するようになっていた。

確実に日本が出場し、相手国も決まっているグループリーグの試合には人気が集まることが予想されましたが、もちろん決勝戦は相当高い倍率となるに違いありません。

クイズに答え、決勝戦チケットを選び、そのページを閉じました。そして、日常の忙しさの中に忘れ去りました。

── 3月か4月だったか、私は唐突に、

《決勝戦ペアチケット当選!》

を知らせる郵便を富士通から受け取りました。

ネットで調べると、決勝戦チケットの当選確率は500分の1以下でした。1番倍率の高かったのはグループリーグの日本対ロシアで、700倍ぐらいだったか……。

「お父さん、すごいじゃん! ……でも」
長女が言いました。
「その人にわざわざ連絡することなんてないんじゃない? だって、その人はお父さんが申し込んだこと自体も知らないし、当たるなんて思ってないだろうし、その人にチケットあげる義理なんてないじゃん。家族で行こうよ」

もっともな意見ではある。しかし、
「それは違う」とおごそかに言いました。
「オレはその年賀メールが来なければ、そもそもそんな抽選企画があるなんて知らなかった。そのメールが来なければ申し込むこともなかったし、当選することもなかった。
つまり、彼の《依頼》とお父さんの《決勝戦チケット当選》の間には、明確な《因果関係》がある
人生において、こういう『明確な《因果関係》』がある場合は、その関係性を大切にしなくてはいけない
「……ふうん」

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その年の暮れ近く、ある研究会でその人と顔を合わせました。

「今年、ウチの会社では大規模なリストラがありましてね。周りの人が退職したり、関連会社に移ったり、ボーナスなども、かなり厳しい年でした。でも」
彼は深々と頭を下げて続けた。
「Pochiさんのおかげで、とてもいい年になりました。感謝してもしきれません」

その人は、自分自身も高校時代サッカー部で、高校を出て入社した後もずっと、草サッカークラブでプレイを続けている。80歳までボールを蹴っていたい、と言うサッカー・フリークです。

「……いや、正月にあんなメールを出しましたが、正直、期待してはいなかった。
だって、あのメールを読んだ人の中で何人がわざわざサイトに行ってその通りに申し込んでくれるかわからない。そして、申し込んでくれても当選確率は非常に低い。それに、万が一当選しても、私に連絡してくれるわけがない。
でもね、アルゼンチン大会以来、6大会連続で現地に行って決勝見てるのに、7回目が横浜であるっていうのに……と思うと、諦めきれずに、藁にも縋る気持ちでメールを出したんです。
もしあの決勝チケットがなかったら……本当に最悪の年でした」

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ワールドカップ決勝チケットはかなり「できすぎ」ですが、私は子供の頃から、かなり

《引き》の強い人間

なのです。

宝くじに大当たりしたことはありませんが(そもそもほとんど買わない)、商店街やスーパーの福引でもけっこう上の方の賞を当てます。

福引クジを小さい子供に引かせたりする家族は多いことでしょう。
我が家はそうではありません。
小ネタの時は娘たちに任せましたが、

「勝ちに行く」
「取りに行く」
勝負を賭ける時は、必ず私の出番となります。

《引き》の強い私とは対照的に、妻はからっきしで、1等が駄菓子の詰め合わせというような小ネタの時ですら、たいてい《残念賞》のポケットティッシュです。

「まあ、仕方がないよ」と慰めます。
「お前は俺と結婚した時に、一生分の《運》を使い果たしてしまったんだよ」

「はあ?」敵も負けていない。
「というより、それ以来、何かに ── たぶんアンタに ── たたられているんじゃないかな」

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