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晴旅雨筆(エッセイ)

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これまでの人生で書き散らしてきたノートの切れ端をちぎれ絵のように張り付けたエッセイ。本を読み、山に登り、酒を呑み、街を歩く。
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#エッセイ部門

【急がば回れ】(新釈ことわざ辞典)記事版

「大丈夫、時間取らないから」 「すぐ済むよ」 「実はね……」 急ぎの時を狙うかのように、どうでもいい話を長々としてくる人、いますね。目的地までの直線コースに《地雷原》があれば、大きく迂回するのが得策です。 会社勤めを始めた頃、趣味で書いていた小説はまだ商業誌デビューの段階には至っていなかったが、研究者でありながら社内親睦誌にショートショートを連載していた私は『珍獣』扱いされていた。 といってもほとんどの同僚は昼休みの食堂でたまに話題にする程度だったが、少数の例外もいた。

夢と現実の境

── よく夢を見ます。 夜中に1,2度必ず目覚めるため、その直前に見た夢を反芻しますが、やはり憶えているのは朝方近くに見た最後の夢です。 夢は脳が記憶の整理をしているのだ、と読んだことがありますが、確かに、まったく現実と異なる夢を見ることはなく、過去となんらかのかかわりがある夢が多い。 かかわりのない場合は、直前に観たり読んだりしたテレビ番組や本の情景と関係している。 以前、凡筆堂さんの夢エッセイに触発されて、夢を設計する小説を書きました。 子供の頃からほぼ毎晩夢を見てい

【寄らば大樹の陰】(新釈ことわざ辞典)記事版

「就職では『大企業でも陰不足』と考え、猛勉強の末に国家公務員になりひと安心、その後はずっと陰に隠れていました。稀に木陰からでようと思うことはありましたが、日焼けが怖くて……。退職後ですか? 大樹の陰に小さな木がたくさんあるのでその陰で……」 社会人生活をほとんど大樹の陰で過ごした人の独白ですが、彼らにはオキテがあり、定年を待たずして大樹から離れなければならないことが多いとか。でも、大樹の陰にいくつもの木があって、今度はそれらの木の下に移るだけなんだそうです。しかも、以前の職

「真のアメリカ野球文化はAAA(トリプルA)にこそある」説(エッセイ)

米国から日本のプロ野球に移籍する選手は、なぜか「助っ人」と呼ばれます。 なんだか、黒駒勝蔵との「出入り」をひかえた清水の次郎長が合力を頼んだ「食客」たち ── みたいな《アナクロ臭》がします。 「助っ人」はたいてい、前シーズン、メイジャーリーグ(MLB)か、その下、マイナーリーグの中では一番上位にあたるAAA、このどちらかに所属していた選手です。 「新外国人」として紹介されるスポーツ欄の記事には、 『昨シーズンまで3年間、ヤンキース傘下の3Aでプレイ、ホームラン数は通算64

趣味に貴賤はあるか?(エッセイ)

答えはもちろん、「無い」。 他人の趣味についてとやかく言うのは、野暮であり、余計なお世話です。 けれど、趣味を尋ねられた人が、 「毎週日曜の夕方に、テレビで『サザエさん』を見ることです」 と答えたら、たぶん、 「それはそれは、── 結構なご趣味ですね」 と言われる確率は低いでしょう。 (もし言われたら、警戒した方がいいかもしれない) おそらく、多くの人が、《趣味》を測る、何らかの《指標》を持っているのです。 私も、ある時期「サザエさん」を毎週見ていましたが、時折、ダハハ