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晴旅雨筆(エッセイ)

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これまでの人生で書き散らしてきたノートの切れ端をちぎれ絵のように張り付けたエッセイ。本を読み、山に登り、酒を呑み、街を歩く。
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2021年6月の記事一覧

人材採用エピソードと組織のその後 2 どうしてそんな話ばかりするのだろう?

一連の採用面談を終えた時、私は疲労困憊していた。 これほど精神的に疲れたことは、それまでなかった。 建物から外に出た後、その《高み》を振り仰いだ。 (自分がこの職に就いたとしても、とても長続きするとは思えない) それは、次第に確信に変わっていった。 歩道の公衆電話ボックスに入り、北九州に住む婚約者に電話した。 「この仕事には向いていない ── 進学しようと思う」 100円玉が次々と機械に呑み込まれていった。 「好きにすればいいよ」 彼女は言った。 国家公務員の志望者が激減し

人材採用エピソードと組織のその後 1 試験とジャンケン

「人は城」と信玄は言った。 採用に関わる姿勢から、組織の将来の盛衰が予見できる──とはいえ、多くは後から振り返って初めて、《そういえば、こんなことが》、とうなずくのだが。 日本の大学の多くではかつて、企業から工学部卒業者への求人は、学科事務室を介して行われていた。 以下は、私が学部4年の時のエピソードである。 ある業界で、当時常に売り上げトップを争っていた2社から、学科にそれぞれ3人ずつの求人依頼が来て、掲示板に張り出された。 本社や工場が首都圏にあるA社には、そこそこ優