きーちゃんとの出会い(3)
前回の続きです。これで終わりです。
(※ヘッダー画像は nimojiさんによる写真ACからの写真です)
わたしが猫を買う100の方法
正直、こんなに疲れるとは思っていなかった。
この猫ちゃん買いま〜す!はい●万円です!じゃあサヨナラ〜!で猫を連れて帰れないのは子供でもわかることだけど。
「ではこちらにお座り下さい」
椅子を勧められて座ると、奥から男性が出てきて、スッと書類の束を差し出される。うわ…これ全部説明されるのか…
男性「この度はお買い上げありがとうございます。まず、セータイホショーの件なんですが」
セータイホショー…?
男性「当店でご購入後、2週間以内に猫ちゃんが亡くなった場合、同価格程度の猫ちゃんを代わりにお渡しします」
あ、生体保証…
生体保証とは、端的にいえば、あなたがこれから買う動物がすぐしんじゃったら代わりに同じくらいのお値段の子をタダであげますよということだ。
ペットショップやブリーダーさんではほぼ必ずこの制度があるらしい。保護猫でもあるところにはあるようだけど。
まあ大金を支払うんだから、そういう保証があること自体はおかしくはないのかもしれない。でも、なんとなく抵抗感があるのはわたしだけだろうか。売る側はこの説明にも慣れっこだろうけど、初めて動物を買う人の中にはショックを受ける人もいるんじゃないかと思う。
そりゃあ確率の話でいったら、いかなる生き物もすぐにしんでしまう可能性はゼロじゃない。それは理解できるけれど、うちの子にしたい!と思ったちいさな可愛らしい命がまもなく潰える可能性がある、そんなことを即時に考える人間はそうそういないだろう。
まあ、可愛いネコチャンを前にすっかり頭がお花畑になっている購入者の頭を一気に冷やすための効果は間違いなくあるだろうけども。
そんなことを考えながらも説明は続く。
猫種と性別の確認、そして特記事項について。
抱っこした時は気づかなかったのだが、この猫は生まれつきまぶたが欠けているらしい。視力等には影響がないようだが、見た目が…とのこと。自分は全く気にならなかったけれど、この欠陥(?)はこの子が売れない原因のひとつではあったのかもしれない。
ちなみに、わたしが一番気になっていた骨の病気に関する説明はなかった。必ず発病するわけでもないのにわざわざ説明されて不安を煽られたくない人も多いんだろうなあ…きっと。
まだまだまだまだ説明は続く。
具体的な猫のお世話について。猫砂の種類やフードの量、与える回数、ドライフードのふやかし方、ここであげているフードのメーカー。
もしも帰宅後に体調に異変があった場合、原則として病院にかかる前にまず購入元に連絡をしてほしいとのことで、何故?と思ったけれど、クレームを避ける為に先回りで対処出来るからじゃないか?とのちにわたしの知人が言っていた。真相はわからないけれど。
あとは、ワクチン接種歴や血統書のこと、都の条例、ペット保険の契約条件の説明等があり、ようやく猫の引き渡しとなった。
気力、体力の限界
諸々の説明に実際どれくらいの時間が経過していたのかはわからない。わたしには随分と長く感じられた。
猫を購入したことがなかったことが幸いしたのか、怠いとかめんどくさいとは思わずに済んだけれど、多頭飼いしている人たちはこれを全頭ぶん毎回聞いてるんだな…すごいなあ…とは思ってしまった。
男性「では、ワクチン費用と税を合わせまして●万円になります」
提示された金額に心臓がヒュンッとなりつつも、いそいそと現金を支払う。
さあ猫を連れて帰るぞ。
だがしかし。
わたしは成猫を見にきただけのつもりだったので、キャリーバッグも何も持っていなかった。
女性「子猫は誤嚥の危険があるのでケージに入れて頂いた方がいいんですが、おうちにありますか?」
ケージ?ああ…あの檻みたいな…
るーこは完全自由の放し飼いだったが、おかげで色々と(誤嚥とか誤嚥とか誤嚥とか網戸破壊とか障子破壊とかソファカバー破りとかカーテン破りとか)あったし、確かに最初はケージに入れるほうがお互いの為かもしれない。
コンパクトサイズのケージなら在庫があるというので、それを購入することにし、追加のお金を支払った。だが、コンパクトとは言えど、それなりに大きいし重たい。これプラス猫って…持てるのか…?
弱気になっているわたしに気付いているのかいないのか、さらにビニール袋に詰めた荷物をドーンと笑顔で渡してくれるスタッフさん。中身は、ここでトイレとして使われていたプラスチックケース、匂いのついた猫砂、いま食べているフードの残り、いま遊んでいるおもちゃ等だった。
で、肝心の猫は?と思ったら、小さなダンボール製の箱に入れてお渡ししますとのことだった。驚いたが、ここでは子猫はみんなそうしているのだという。
夫と子供達は既に近くの駅までは来ていたようだった。しかし、そこまでは、猫と、ケージと、この大量の荷物を持って、一人で歩かねばならない。
外に出ると、もうすっかり暗くなっていて、冷たい風が吹き荒んでいた。
可愛いはずの猫も、猫のためのあれこれも、全てが3倍くらいの重さに感じられる。
生き物を、命を預かるって、大変だ。
ようこそ我が家へ
もしも当初の予定通りに事が運んで保護猫を譲り受けることになっていたとしたら、今日のうちに猫を連れて帰ることもなく、出費も数万円で済むはずだった。
何がどうしてこうなったのか。
わたしのフトコロからは何倍もの枚数の諭吉が旅立って行ったし、腕も肩もめちゃくちゃに重かった。
ヨタヨタ歩いてどうにか電車に乗り込み、夫と子供達が待っている駅に着いた。
大荷物を抱えたわたしをすぐに見つけた双子が「ママなに買って来たの〜?」とバタバタ駆け寄って来た。
夫は子供達に猫のことを話していなかったらしい。
「ふふふ…この穴の中を見てごらん」
猫が入っている箱を子供達の前に差し出す。
まず双子が中を覗こうと近付いた瞬間、小さな前足が飛び出し、ギャッとなるふたり。
「子猫だよ。今日からうちの家族になるよ」
やったー!!どんなお顔?早く見たい!と一気にテンションが上がって騒ぎ出す子供達を宥めるのは、それはそれは大変だった。
とはいえ、駅の前で猫の入った箱をオープンする訳にはいかない。とにかく早く家に帰ろう。
普段ならどっちがママと手を繋ぐか?で大喧嘩になる双子も、ふたりで仲良く手を繋いでずっと上機嫌だった。いつもこうならお出かけもしんどくないんだけどね…
無事自宅に辿り着き、まずはストーブをつける。
箱をそっと開けると小さな子猫が目を丸くしてこちらを見ていた。
かわいい!!!
子供達から歓声が上がる。その横で夫は「これは随分ちっちゃいねえ」と呟いていた。
そわそわと落ち着かない子供達をとりあえずお風呂場に追いやり、夫と一緒にケージを組み立てる。
ペットシーツを敷き、もらった猫トイレ代わりのケースを置き、匂いのついた猫砂と新しい猫砂を混ぜ入れる。
もらった爪とぎ、水入れ、あとはおもちゃをセットして、再び猫が入った箱を開ける。
そっと抱き上げると、抵抗することもなくじっと腕の中に収まる子猫。
あったかい。
夫が箱の中にあったタオルを取り出してケージの中に置いてくれたので、その上にそっと猫を下ろし、ケージの扉を閉めた。
そこへ、お風呂を終えた子供達が一斉に駆け込んで来た。
えー!猫もうこの中に入れちゃうの?なんで?さわりたい!!!
そう言うと思ってたよ…
わたしはケージの上に毛布をかけ、子供達の髪の毛を拭きながら、ゆっくりと説明した。
子猫は知らないおうちに来て怖がってる、たくさんの人に撫でくり回されたことなんてないからびっくりしてごはんが食べられなくなるかもしれない、だから今日はとりあえずそっとしてあげようね。
明日から少しずつ慣れてもらおう、そしたらいっぱい遊べるよ。
この子はこれからずっとうちに居るんだから。
子供達は渋々納得し、興奮して疲れたのか、夕飯のあと全員すぐに寝てしまった。
静まり返った夜半、我慢しきれず、ケージの扉を開けてリビングをお散歩させてしまった悪い大人はわたしです。(夫も)
だって、うちについて一時間もしないうちに、おしっこして水飲んでごはんまで食べてくれたんだもの。
そして、ケージから出せって、ミーミー鳴くんだもの。
名前はわたしが決めた。
ようこそ、きーちゃん。
よろしくね。
もしも万が一サポートを頂けたら、猫のごはんやおもちゃを買います!そしてレビューを書きます!もしくは、生活が元に戻ったら双子と女子旅をしたいので、旅先でへんなものを買ってその記事を書きま(文字数)