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いったいゲーム業界で何が起きているんだ!?:2023年のゲーム業界におけるキャッシュフロー危機と、2024年の展望

去年のゲーム業界は、やはりどこかおかしかった

年末の12月だけでも、北米最大のゲーム見本市であるE3がその歴史に終わりを告げ待ち望まれていた"The Day Before"はラーンチでコケたと思ったらサービス終了しプラットフォーマーと開発者の大喧嘩の裁判の決着がつき、Creative Assemblyが開発したゲームの出来やその他諸々のことに関し謝罪し中国ではネットゲームの規制の強化が発表されるなどと、決して明るいとは言えない業界ニュースで盛りだくさんだ。

通年で見ても比較的悲しいニュースが多い。Starfields、Counter Strike 2、Cities Skyline 2、Diablo IV、Call of Duty: Modern Warfare 3、Company of Heroes 3など、固いと思われた多くの新作が、ローンチ時からそのクオリティに関し大きな批判に晒され、結果、セールスもあまり芳しくない、といった作品が多かった。

業界ニュースとしては冒頭のE3のキャンセルと、UnityがUnity税として知られることになる各ゲーム毎に適用されるランタイムフィーを発表したことが二大ニュースであったと感じる。また、個人的にはSEGA傘下のCreative Assemblyが6年、143億円をかけた新作、Hyenasの開発中止を発表したことも驚きであった。

業界全体としては、レイオフが大きなテーマとなった。Ubisoft、Unity、Epic、Amazon、Microsoftなどの大手パブリッシャーをはじめとし、Bungie、Creative assembly、Biowareなど、中堅どころの開発会社でも多くのレイオフが実行され、そして中小どころでは、有名過ぎるFntasticの例をはじめとし、Team KaijuやVolition、Free Radical Designなどのスタジオごとの閉鎖が相次いだ。結果、昨年度解雇されたゲームデベロッパーの総数は、最終的には一万人を超えることになった。ちなみにこれは、別途発表されたMicrosoftグループ全体の一万人のレイオフを含んでいない。比較までに、一昨年の解雇数は1000名程度とされており2020年頃は、86名が解雇されただけで、「大規模なレイオフだ」と囃し立てる記事が出ていた。これらは去年の数字が、明らかに異常であることを示している。

このゲーム業界に吹き荒れる嵐のような大トレンドを、日本語圏で正面から扱った記事は、正直あまり多くなかったように思える。私のアンテナが低かっただけかもしれないが、4gamerの奥谷記者のこの記事と、AutomatonのFUJIWARA記者のこの記事くらいだ。両記事とも何が起こっているかについては良く書けているとは思うが、ただ、両記者ともゲーム側から見た記事なので、正直、原因についてはあまりよくわかっておらず、故に業界体質や、コロナ特需が終わったから、といった、少しふわっとした表現になっている。

何が問題なのか?もし多少なりともゲーム会社の財務関連の経験があったりすれば、多少なりとも感覚として何が起こっているかわかると思う。おそらく、これらの会社では、キャッシュフローが崩壊したのだ。

つまり、お金の話だ。

ゲーム業界の人たちは、あまりお金の話をしたがらない。それにはある種の高潔さはあるし、デベロッパーやエンジニアとしてはいいことだと思うが、特にプロデューサーやゲームライターなどは、もっとそれらの側面も認識していても良いと思う。

ということで、今回の主題は、あまり語られないこのお金の話だ。


キャッシュフローの問題…?

簡単に言うと、キャッシュフローは上図のように、「現金の変異」を表す。この現金の値が0以下になると、所謂ゲームオーバー、倒産だ。
via Diamond.jp

会社は何時倒産するか。

この説いに対し、「借入を返済できなかった時」、あるいは、「現金がなった時」と即答した人は、きっと私と同じ教育を受けてきたのだと思う。

だいたいの場合、それがどういう時に起きるかというと、支出が収益を上回り、現金が流出し続けるから起きるのであり、どういう時に支出が収益を上回るのかというと、多くの場合は赤字の時なので、大まかなイメージとして多くの人が持っているであろう、赤字が続くと倒産してしまう、というのは、正しい。

だが、この世にはそうでない(つまり黒字である)のに借入を返済できないで発生する倒産、所謂、「黒字倒産」というものが存在する。そして、あまり知られていない(と私は思っているのだが…)ことに、ゲーム会社はこの黒字倒産が比較的発生しやすい体制にある。理由は後述するが、長期間に渡る開発期間における支出が存在するのに対し、現金獲得の機会が構造的に少ない、というのが主な理由である。

どれだけキャッシュ(現金)が残るかが重要なのである。いくら帳簿上に黒地額が溜まっていようが、それが手に入るのが銀行への返済期限の後ならば、意味がなく、倒産してしまう。

例を上げて説明したほうがいいだろう。

一般的なゲームの開発サイクル

上記は、開発期間三年、開発費三十億円のプロジェクトとなる。近年ではAAAまではいかない、日本のゲームでそこそこよく見る規模感のゲームだ。

最終年に発売された際の売上は、六十億円と、開発費の倍、会社としては、30億円の利益、ROICで言えば200%と、非常に優秀なプロジェクトとなる。しかし、実際は、このようなプロジェクトですら、会計の面にて頭痛を催す場合は少なくない。

それを感じる為には、これをより現実的なものに組み替える必要がある。

第一に、このグラフではお金はマイナスから始まっている。どのような企業であろうとも、マイナスの状態で営業することはできない為、まずは銀行からお金を借りる必要がある。本プロジェクトは、三年、三十億円だからと、毎年の五億円を返済し、最終年に残りを払う契約で四十五億円を借りたとしよう。帳簿上は、この契約でも売上を除いても最終年に五億円は現金が残るはずだ。会社はこの計画を見て、GOサインを出すことだろう。

極端な例に見えるかもしれないが、私はこれはよくある例だと思っている。

しかし、実際開発してみたところ、開発が想像より難航し、開発期間が一年伸びることになってしまったとしようだ。そうすると、現金は上記のように、2023年の開発費を支払った段階でショートすることになる。そうなると、先に述べたように、会社は現金が尽きてしまい、倒産することになる。

ここで重要なのは、ゲームタイトル自体は、未だに六十億円の売上を出す作品なことは変わっていないことである。開発費が増えた為、利率は多少は落ちたものの、これはゲーム単体として見ると、それは未だに魅力的なタイトルであり、そして会社としても、利益を出すプロジェクトなのである。しかしながら、会社は倒産の危機に瀕することになっている。

通常の会社なら、このような状況になると、まず、新株発行を行い、追加の資金調達を行うが、十分な実績がなければ、これは難しい。次に、金になる設備や不動産などを売却し、当座の現金を作ることで、問題の解決を測ることができる。しかし、ゲーム会社は構造上、売却できる設備が少ないのがかなり少ないという問題がある。これは、ゲーム業界の支出が開発費に集中し、その『開発費』というものの特殊性に由来する。

一般的な企業では、なんらかの新商品の開発・生産をする際には、それらを生産する為の設備であったり、生産する工場だったり、あるいは生産するものの材料であったりを購入する必要があり、それらを売却したり、あるいは支払いタイミングを遅らせたりすることで、このような短期的な現金の不足局面をやりくりすることができる。

しかし、ゲーム会社はそうはいかない。ゲーム会社の支出の大半は借入金の返済と開発費の支払いに集中しており、返済は言わずもかな、そして、開発費も、内訳の内情としては人件費、オフィスの借用費、PCなどのリース費用、開発キット、SDKなどのライセンス費用など固定費(毎月定額あるいはほぼ定額でかかる支出)が大半だ。また、これに加え、別途、ゲームのサーバー維持費などが発生する。端的に言うと、なんらかの現金が必要となる局面にて、手元に残り、売れるものが殆どないのだ。

もちろん、似たような業界は存在する。例えば、IT業界も支出の構造はゲーム会社とそう変わらない。しかし、IT企業の多くはその収益はサブスクのような毎月払いの形態を取っており、毎月現金が手に入る為、ゲーム会社に比べ遥かに財務上の調整が行いやすい。(いや、ゲーム業界でも毎月現金が手に入る種類のものはあるぞ、と思った方、その通りなのだが、一旦説明のためにそこは無視する。ちゃんとそこについては後々説明するので、そこまでお待ちいただければありがたい)むしろ、毎回オール・インのような賭けをしている、ゲーム業界が異端で異常なのだ。

さて、上記のグラフの状況に戻ろう。

2023年、あなたは資金ショートを起こしてしまった。どうするか、である。

一般的に、できることは二つある。

一つは、潔く倒産すること。

もう一つは、市場の反感と売上の減少を承知の上で、ひとまず現金を作るためにゲームを未完成の状態でリリースすることである。

もし倒産が嫌なのであれば、できることは、実質一択だ。

短期的情勢の変化:コロナ禍の終わりによる、好景気と過剰投資の終焉

もちろん、ゲームを未完成の状態でリリースしても、売上がどこまで伸びるかは未知数だ。もし現金が不足する可能性があるならば、売上の入金のタイミングまでに発生する支出は可能な限り減らさなければいけない。最初に減らされるのは、不要不急の出費、例えばE3への出展費などだろう。もちろん、先に述べたように、固定費の大半は人件費であるため、支出を減らすということは、大量の解雇が発生することを意味する。(ここらへんが奥谷記者が強調している、ゲーム業界の産業構造では解雇されやすいという話につながる)

ここまで現金不足がもたらすゲーム会社の対応の例を述べたが、これらが倒産リスクにまで結びつくのは同時に一作品しか開発できない中小の独立系デベロッパーだけである。大手のパブリッシャーは一個のタイトルで資金が多少ショートしたところで、基本的には大きくは揺るがない。

開発中止されたCreative Assemblyの"Hyenas"はEscape From Tarkovの成功により数多く開発された脱出型シューター(Extraction Shooter)の一つになるはずであった。
via VGC

しかし、これも、変わりつつある。一つに、昨今の開発費の高騰がある。先のSegaの150億円かかったHyenasや、300億円かかったとされるStarfields、大ヒットしたとはいえ、500億円もの開発費がかかったSpiderman 2など、この規模になると、最終的にペイしたとしても、開発するだけで、相当量の現金の流出が不可避となる。比較までに、昨年最も制作費が高かった映画Fast Xが500億円、TVシリーズ、マンダロリアンで180億円である。この規模になると、現金を用意するパブリッシャー側としては、流石に揺るがないまではいかず、開発遅延は可能な限り回避したい事象となる。また、一個のタイトルの救済のためにフリーキャッシュフローを悪化させ、株主からの評価を下げるくらいなら、利率を下げたほうがマシ、という見方も存在する。

近年のグローバルゲームマーケット。コロナ禍の二年(2020-2021)で50%の急成長を遂げるも、ここ二年間は成長が停滞していた。
via Statista

もちろん、開発費が多少高かったところで、市場が良好ならば、悩みは少ない。コロナ禍ゲーム業界は、巣ごもり需要により、空前絶後の好景気を味わった。おそらく、コロナ禍の原体験として、リングフィットアドベンチャーをやられたり、Among Usで遠方の友人と遊んだ方は少なくないだろう。このような好景気の状況では、新規株式発行を行っても、すぐに買い手がつき、資金調達も比較的しやすい状況であり、キャッシュフローはさほど気にならなかったはずだ。

しかし、その後の二年、好景気は終わりを告げ、一昨年はマイナス成長、去年はプラス成長には転じたものの、コロナ禍の水準には到底及んでいない。

この低成長の原因は幾つかある。まずは、わかりやすいものだと、コロナ禍の終焉がある。コロナ禍を通じて、鈍化していたエンタメ業界内での競争が復活し、その結果、ゲームがジャンルとして後退したというものだ。また、インフレも大きな原因だ。インフレで生活費が上昇すると、娯楽に割く金銭が削られるのはよく知られた事実だ。これらに関しては、コロナ禍、同様の好景気を味わっていたストリーミングサービスも近年、同様の苦戦を強いられていることからもわかる。また、Disney+の大ゴケも記憶に新しい。そして、実際、彼らも大規模なレイオフを実施している。ゲーム業界も彼らと同様、市場環境が変わったから大規模な解雇などを行っている、と主張することは十分に説得力があるように思える。

難しいジレンマ

会社は、現金がなくなれば、たとえ黒字であろうとも、銀行への返済ができず、倒産してしまう。なので、ゲームを不完全な状態でリリースすることは彼らの視点からは正当化される。しかし、我々消費者の視点からすると、これらは不正義以外何者でもない。

正直、このMemeは好きではないものの、言いたいことはわからないでもないやつ。
今年、発売時、極めてバグが多かったゲームの一覧的ななにか。
via PCMR on X

近年、「不完全な状態」で発売されたゲームは枚挙に暇がない。発売時から悪い/発売時から壊れている(Bad at Launch/Broken at Launch)と評されるこの種の発売に、昨年発売の新作だけでも、Starfields、Total War: Pharao、Counter Strike 2、Overwatch 2、Cities Skyline 2、Diablo IV、The Lord of the Rings Gollum、Call of Duty: Modern Warfare 3、Company of Heroes 3などが該当する。おそらく、私が知らないだけで他にも事例があるだろう。少し前まで射程にいれるなら、Warcraft III: Reforged、Anthem、No Man's Sky、Cyberpunk 2077、Battlefield 2042、Battlefield V、Fallout '76、Star Wars Battlefront 2などを入れてもいいだろう。これらのゲームが最終的にどうなかったかはともかく、発売時に基本的な要素が欠如していたり、あまりにもバグが多かったりしたことは事実であり、購入した人々の怒りに、私は共感する。そして、彼らがこれらのゲームの続編や、そのゲームへの追加コンテンツが発売することに反発するのもそれが正当な怒りであることに理解する。その反発の結果、それらを二度と買わないという選択肢を取るのも、当然の選択だと思う。すなわち、顧客信用とは、中長期的な売上である。

その結果、ゲーム会社は難しいジレンマにさらされる。

「不完全な状態でゲームをリリースし、顧客信用を落とすことを承知の上で現金を確保する」か、それとも、「顧客信用を優先し、ゲームの開発を中止し、財政状況を整理する」かである。

もちろん、ある程度以上、現金がないと後者のオプションはとれない。中小のデベロッパー、あるいは危機的な状況にあるパブリッシャーは後者の選択肢を取れない。SEGAがHyenasをキャンセルできたということは、それを取る余力があったことを意味する。一方で、現金を確保した場合。

簡単に言えば、消費者は最早、ゲーム会社を信じていないのだ。そして、これは、2023年のもう一つのトレンドからも見て取れる。

長期的原因:変化しつつある収益構造

去年、業界を通じて起こったビッグニュースは、先に紹介した解雇と業界再編が主たるものであった。しかし、幾つか、他にも重要なトレンドがあったと私は考えている。それらは個々としては小規模な為、大々的に報じられることは少なかったが、体感として、多くの人が感じているものだと思う。そのトレンドとは、すなわち、消費者がゲーム会社による彼らの財布の搾取に対して、「いい加減にしろ!」と大声を上げ始めたということだ。

先の現金獲得の話に戻るが、そもそも、ゲーム会社には、完成したゲームを売る、以外にも現金を獲得する手段がある。むしろ、これらの現金獲得の手段の開拓こそ、ここ十年のゲーム業界全体の成長を下支えしていたと言っても、過言ではない。それらの手法としては、以下のようなものがある。

◯ガチャ(ガチャやLootboxなど、報酬アイテムなどが課金後、確率で手に入る仕組み)
◯月額課金(サブスク、プレミアムアカウント、バトルパス、XboxLiveなど)
◯少額都度課金(衣装、スキンやコスメティックなどのマイクロトランザクション)
◯シーズンパスやDLCなどの追加コンテンツ

via Wikipedia

これらは、色々と良し悪しはあれど、デベロッパー側が活用することができる現金活用の手段だ。

これらの内、最も早く批判が始まったのは、ガチャだ。少ない元手にて多くのシノギが賄えるガチャは事実上、ギャンブルの射幸性のみを抽出してるもので、非常に利率が高かった一方、消費者の「燃え尽き感」を加速するものであったことに疑いなく、誰もがこれが持続可能ではないと感じていた(と私は信じている)。行政的な規制も当然、検討される結果となり、2018年にはベルギーでガチャ的システムが違法であるとの法律が制定された。その後、EAなどがガチャを当時開発中であったAnthemとBFVに実装しないと宣言するなど、業界は行政規制を回避する為の自主規制に走った。年末の中国におけるガチャ規制はその集大成のようなものであったが、一方で、その収益性も否定できず、規制の結果、テンセントを始めとするゲーム業界の時価が10兆円規模で吹き飛び、結果、中国当局は規制を撤回せざるをえなかった。近年、ガチャは休止状態にあり、発売時よりガチャを実装しているタイトルは、そのまま運営を続け、各種ソーシャルゲームや、Fortniteのガチャなどは未だに盛況であるものの、近年の作品に関しては、ガチャと同時にバトルパスなどの別の景品獲得手段も用意し、プレイヤーの燃え尽き防止策が模索されるようになった。

しかし、去年、それらの代替作に関しても、大きな批判が各所にて起こり、幾つかのゲームでは、それらは大規模なゲーマーによる反乱へと結びついた。

キャンセルされることになった、Destiny 2 Starter Packのストアページ(削除済み)のスクリーンショット。ユーザーにより、「資本主義(Capitalism)」、「犯罪(Crime)」、
「心理的ホラー(Psychological Horror)」などのタグがつけられている。
via IGN

特に、記憶に残ったのは、Destiny 2の$15のStarter Packの追加Dead by Daylight 2のゲーム内通貨の採用Runescapeのバトルパス要素の追加、そして、Total War: Pharaoの高額な事前予約特別版問題である。これらが実質的に特にゲームに新しい要素を追加せずに追加の課金を強いるものであることにコミュニティが気づくのにさほど時間はかからず、これらそれぞれのケースにて、コミュニティは様々な手法(主にRedditポストを始めとしたSNSでのネガティブキャンペーンならびにレビューボム)にて反応した。それらの結果、これまでにあまり見られなかったことに、ゲーム会社側が折れる結果となり、これらの新規施策は、撤回される、あるいは大幅にトーンダウンされる、あるいは差額が返金されることになった。

これまでにも幾つかのゲームにて、大々的なゲーミングコミュニティからゲームの新規課金要素に反発があるというのはあったし、それらが会社側の妥協を引き出す事例は存在した。しかし、それらは稀な例にしか過ぎず、また類似のケースが連鎖反応的に追従して幾つも起きることはあったが、独立したケースの発生間隔は非常に長かった、しかし、去年は、たった一年で、私が知る限り四件も完全に独立した反乱が成功した。私の記憶にある限り、このような年は初めてだったと思う。

これらの事象は、レベレッジ(相手に譲歩を強いる能力)が、ゲーム会社の側から、消費者の側へと移ってきたことを意味する。それに、最近のゲームをやってる人々なら、わかるだろう。結局のところ、私を含め、もう、我々はいろいろなゲーム内の課金要素にうんざりしていたのだ。

一方で、窮するのは、現金を必要とする、ゲーム会社の側である。彼らは開発を続ける為には、現金が必要なのだ。しかし、これらマイクロトランザクション(微量課金)を通じた現金獲得の手段を潰されると、それこそ本当にゲームを売るしか手段がない。一方で、そもそもで現金が必要になる大本の理由はゲームの完成までの道筋が長引き、開発期間が伸びたことによるものであったことを忘れてはならない。彼らのゲームは、結局、未完成なはずなのである。

それらが全て重なり合うことで、英語で言うところの、「完璧な嵐」が訪れた。債務上の問題と、マネタイゼーションスキーム構造の変動が回りに回り、多くのゲームが未完成な状態でリリースされる状況へと繋がり、そしてそれが失敗したのを見届けると、デベロッパー・パブリッシャーは速やかに人件費削減の為の大量解雇へと移っていった。それが、私の目に映る、去年のゲーム業界の惨状の実態である。

これはゲーム業界の終わりを意味するか?

いや、そうではないだろう。ゲーム業界に明るいニュースもいくつかある。

Hogwarts LegacyとBalders Gate 3は、今年、我々が予想していなかった方向から飛んできた傑作だった。
via alt/char

悪いニュースがある一方、今年にも、Balders Gate 3Hogwarts Legacyなどのヒット作がある。任天堂は相変わらず、ゼルダや、ピクミン3(とても嬉しい。ちなみにこの路線で動物番長2も出して欲しい)など、素晴らしいし、売れるゲームを出し続けている。スクエア・エニックスのFF16も概ね良いゲームだし、フロム・ソフトウェアのArmoured Core VIも、その方向性に合う合わないはあろうが、完成したゲームであった。

そもそも、日本のゲーム会社はかつてのバブル崩壊の教訓として、比較的多めに現金預金を持ち、その為、キャッシュフローの危機に直面し辛い。任天堂に至っては、創業以来、135年に渡り、無借金経営を貫いている。おそらく、SEGAが傘下Creative AssemblyのHyenasを多額の損失を出しながらもキャンセルする決断をできたのも、ここらへんの部分が大きいと考えている。

しかし、世界的なゲーム業界全体としては、コロナ禍における大流行と、過剰投資というショートトレンドと、ネット配信とマイクロトランザクションの興亡というロングトレンドの二つの谷が重なる事態となった。それでも、Statistaの予測によると、業界自体は微成長しているはずなのである

それら全てを踏まえた上で、現状がどこまで大きな問題なのか明確に評価することは、難しい。

ただ、少なくとも、夏が終わったというのは、確かだろう。

これから来るのが、小さな秋なのか、それとも、アタリショックのような本格的な冬になるのかはわからない。ちなみに、奇しくも、アタリショックで有名なアタリが連邦破産法第11条の適用を申請したのは意外にも最近の2013年のことで、それは開発費捻出に際し現金を差し押さえられない為、と、これまで述べてきたモデルケースのようなものであった。今年が、そのことの再演たるかは、まだわからない。

それに、秋だって、悪いものではない。特に今年は、秋の季語なのに夏でばかり話題になっていた西瓜が初めて秋に話題をかっさらったばかりだ。

話が逸れた。去年がどれだけ酷かったかの答え合わせは、きっと今年の前半くらいには、わかるだろう。

欧米の倒産は全てがではないが、税制の理由で多くは年初に集中する。もし、固定費削減でも船を浮かせ続けることができなかった大手がいるのであれば、この時期に倒産か、あるいは身売りが行われるかもしれない。(個人的には一番確率が高いのはUBI Softと見ている)最後に大規模なパブリッシャーの倒産が起こったのは、十年前のTHQの倒産のときだろうか。時期的にも、そろそろ次が来てもおかしくない、と、私は肌で感じている。

しかし、何れにせよ、変わってしまった産業構造に対し、時計の針を戻す手段は存在しない。果たして我々の次の十年は、未完成のゲームに流され消えていくのだろうか。

私は、そうは思わない。

サイバーパンク2077:仮初めの自由。DLCはGOTYの対象に選ばれることはないが、良いゲームであったことはたしかだ。

一つ、最後まで取っておいた、とっておきの話がある。

近年、未完成のゲームとして発売したと大きな批判に晒されたゲームの一つに、2020年に発売した、Cyberpunk 2077が存在する。

破格の宣伝に、過剰な期待。近年、「発売時より壊れている」種のゲームが持つ要素の全てがこの作品のローンチには詰まっていた。結果、例に漏れずこの作品の発売は、怒号に包まれるものとなり、PSストアでは、SONYが返金要請に応じる事態にまでなった。開発会社のCD Projektの側に一切の非がなかったとは言わない。実際、彼らもそれを認めた

ここで重要なのは、彼らは自らの非を認め、その上で、自らの非の後始末をつけることにしたことだ。彼らはマルチプレイモードの開発を中止し、そこから生まれた時間を、今あるゲームをより良くすること、そしてより楽しくすることに、注ぎ込んだ。そして、彼らはコミュニティに、ユーザーに、可能な限り真摯に向き合ってきた。結果、ゲームは徐々にバグが少なくなり、全体としてゲーム性は向上していった。

そして満を持して昨年度発売したDLC、「仮初の自由」は、500万本の売上を上げるに至った

償えない罪はない。ゲーマーは怒りやすいが、冷めやすい。Cyberpunk 2077しかり、No man's Skyしかり。彼らと真摯に向き合えば、汚名を挽回することは、不可能ではない。

「20年以上に渡り、毎回大きな盛り上がりを見せてきたE3も、いよいよお別れの時が来た。思い出をありがとう。GGWP」

E3はお別れの時、我々にGG WPと残してくれた。

結局、我々がゲームに求めていることも、この二つの単語に集約されていると、私は思う。

Good Game(良いゲーム)と、Well Played(良い体験)だ。

GTA3のチートコードで、"MONEY MONEY MONEY"を入力するのは楽しかったが、それはゲームの本質じゃない。

それさえわかっていれば、きっと春はまた訪れると、私は信じている。




付録

この記事みたいなゲーム業界のお金の話が好きなら、英語圏になるが、gamesindustry.bizBellular Newsは抑えておいて間違いない。この二つのサイトは、今回の記事を書くにあたり、大いに参考させていただいた。(ちなみに、gamesindustry.bizは日本語版もあるが、個人的にはちょっと当たり障りない記事が多くそこまでオススメ度は高くない。)日本語圏だと、やはり奥谷記者の奥谷海人のAccess Acceptedがピカ一だ。解雇の話を表立って書いた上に、今回の記事の長期化要因の部分も、少し前の記事でよく抑えていて、業界を網羅的に書く能力では、今日本語圏で彼以上の記者は存在しないと私は思ってる。

また、ゲーム業界自体の俯瞰を把握したいのであれば、多少古い記事になってしまうが、みずほ銀行産業調査部のこの記事に詳しい。

正直、私がこの記事を書くのにふさわしい人間かというと、未だにそうは思えないし、金融知識も十分であったとは思えない。そのため、記事内には基本的事実含め、間違いが少なからずあると思われる。もしなにかお気づきの点などあれば、Xまでご連絡いただければ幸いである。

2024年1月14日追記

こんな記事書いておきながらなのだが、今年になっても、レイオフの波は引かない。今年に入ってから既に、ゲームエンジンのUnityが1800名を、ゲーム配信サービスのTwitchが500名を、そして通話アプリのDiscordが170名の解雇を発表した。これらは、ゲーム会社そのものではないものの、ゲーム業界に密接した企業で、むしろ業界の不況が業界の中心会社に始まり、関連企業に広がるという構造は、多くの業界で見られる。とはいえ、1/24年が終わった段階で、既に去年の解雇累計の1/4ほどの人数に達した計算になり、今年も余談を許さない状況は続きそうだ。

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