「お前、どんどん嫌な奴になってくな」

今日も明朝3時に、隣室の男性による大きなうめき声で目を覚まし、そこから熟睡はできずぼんやりと眠った。

その間おぼろげに夢を見た。脳が眠れていない証拠なのかもしれないが、内容が私らしくて苦い気持ちになったので書き残しておく。

夢の中で私はブラッシュアップライフのように、前世の記憶を持ったまま人生をやり直していた。27年間とちょっとのしみったれた記憶と、年齢と反比例して稚拙で乏しい経験値を持って0歳から生き直している。

だが場面は急に高校時代。私は頭が悪い・素行が悪い生徒しかいないと名高い学校で3年間を過ごしたのだが、ブラッシュアップしたライフでもそこに通っていた。

とはいえ一応前世よりは賢くなりたいと、幼少期からコツコツ地道に勉学には励んでいた。入学した高校では1年生の最初の英語の授業でアルファベットの書き方から始めるような学校だったので、まともに授業を受けているだけでは学校外の同学年と同じ程度の学力は得られない。それもあって、空いた時間や家に帰ってからはしっかり参考書等でカバーしていた。

そんなふうに過ごし、シーンは高校2年の初夏になった。私は英検の資格を取ろうとしていた。そこでひょっこり、高校時代でいちばん仲が良かった、そして3年間しっかり片思いをしていた彼が机を覗いてきた。

「すごいな、そんなに毎日お勉強して」そう言われて、27年の価値観を持った夢の中の私は「ブスだからね」と返した。

「ブスだから気にすることが多いのよ、バカなブスよりは賢いブスの方が世間的にもマシでしょう」と続けると、彼は何かを言い淀んで黙った。でもこれは27年生きてきた今の私の本心だし、この見た目を変えられずに人生をやり直すなら、この信念をもとに生きていくだろう。

少し間が空いてから、彼は半ば軽蔑したような声色と目つきで「何でそんなに見た目に固執するんだよ」と言ってきた。

私は、私の顔や四肢の醜さをより深く自覚するようになったのは彼に恋をしてからだった。彼が好きだったのは、控えめで可憐という言葉がよく似合う、おしとやかで清楚な美人だった。肌も白く、サラサラでツヤのある黒髪。スッキリした顔立ちによく似合うショートカット。儚くも凛とした声色。ヤンキーとギャルだらけのクラスの中では、私から見ても、ひときわ美しかった。

全てが私とは真逆の女の子だった。だが、そこそこオタクだった彼女とは、共通の趣味で意気投合してからというもの、彼よりも私の方が仲が良かった。空き時間に話したり、進級してクラスが離れてもわざわざ会いに行って話していた。

けれどシャイな彼はたいして彼女と会話を交わす事も無かったから、多少なりとも私に対する嫉妬はあったと思う。
その嫉妬をほのかに感じ取った日、私は家に帰ってずっと泣いていた。自分が好きな人が、自分と仲が良い人が好きで、自分とその子の親密さに妬いているだなんて。16歳の思春期らしい相応の悩みだが、16年しか生きていない脳には、とても処理できる状況じゃなかった。

そして「私が美人だったら、女性でなくても顔と体躯が美しければ、もしかしたら」と思って深く自分の醜さを恨んだ。ちょうどその頃、サブカルチャーの世界では数年前から"男の娘"が市民権を得てメインストリームに上がっていた。彼はそんなに好きではなかったようだけど、好んでやっていた恋愛シュミレーションゲームに男の娘は居た。かわいい顔と体さえあれば"男の娘"になって、彼のターゲット層になれたのに。そう思っていた。
かと言って、大幅なダイエットをした訳でもないしメイクや美容に手を出した訳ではなかったのだが。

前置きが長くなったが、そんな経緯がある。それを受けてなのか、夢の中の自分はこう続けた。

「私はブスだから。ブスだから出来ることの幅は広い方がいいのよ。その為には知識が無いと。世の中にわんさかいる美人たちと対等にはなれないの。」

それを受けて彼は一言「お前、どんどん嫌な奴になってくな」と言って去っていった。

夢はそこで終わった。そのまま目覚め、しばらく動けないまま、起きた瞬間から途切れていく夢の中の出来事を思い出していた。

今となってはどうして彼のことが好きだったのか、全く分からない。強いて言えば顔のパーツが好きだったくらい。きっと思春期特有の何かだと思っているが、彼を好きだったせいでこんな私が出来上がっているのは事実である。それを10年も引き摺って。

そんなふうに生きてきた私を、夢の中とはいえ「嫌な奴になってくな」と一蹴された気がして。非常に居た堪れなくなった。

昔から「死にたい」が口癖だった私に、彼は半分呆れながら「自殺したら許さない」と言っていたけど、自殺に失敗して下半身不随になった私を知ったら何て思うんだろう。ただただ呆れるだけなのだろうか。ルッキズムに縛られて自分のことも愛せず認められず、上手に生きられないまま死ぬことすらできなかった私を「嫌な奴になったな」と評価するんだろうか。

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