あなたもこっち側だよ

何年か前、転職すべきかどうかで悩んでいた辺りだと思う。
ある友人が「あなたはどんな手段でも、何かを表現したり発信する側に居るべき人だよ」というような事を私に言った。

私はそうなれたらいいね、となあなあで返し、会話は終わったように思う。
だが、まだ若かった事もあり、その後数日経ってからTikTokってどうあげるの?とか発信するって何をどうやって?と興味津々で聞いた気もする。

友人はエンタメに従事している、いわば"表現者"である。元々器用な人で、イラストや音楽なども得意で、いまは自身や、同業者のグッズデザインなんかも手がけている。2年ほど前に本人から「私はまだぜんぜん売れてない」と聞いていたが、才能や努力の結晶を、芸事に還元して生業にしているのは事実でる。すごく立派だと思う。
その友人のことは、長い間わりと近くで見させてもらっていたと思うし、彼女がどれだけ苦労してその道を選んで進んでいるかは、本人の10分の1ぐらいは理解していると思う。

自分の中にあるものを表現する、ということの大変さや、それにまつわる様々な苦労をぼんやりと知っているが故に、なかなか軽い気持ちではそういったことを始められなかった。

もちろんその友人と同じ職業に就くほどの覚悟は無いし、何より彼女ももっと軽い気持ちで、例えば日々のメイクとかVlog的なものを発信するのを想定していただろう。思えばこのnoteも彼女の勧めで始めたと記憶している。でもnote以外は踏み出せなかった。

「表現する側にまわった方がいいよ、あなたもこっち側なんだよ」

そう言われた瞬間からしばらくはそうなのかもしれない、そうだといいなと思って自己表現の場について考えていたが、徐々に頭の片隅に彼女の言葉が追いやられていった。毎日仕事と自分の精神のバランス、私生活のトラブルや障壁に憔悴し、気づけば、こうして過去の振り返りを行わないと思い起こせないほどになっていた。何よりも私はブスだ。見目が整っていない人間の私生活や特技など誰が好んで見ようか。
確かにコスメやポップカルチャーや好きなものは多々あるけれど、何につけても先人がいる。思った事を発信する、というのも著名で人気な先人がいるのだ。

もう2度と人間には産まれたくないが、来世でまた人間になってしまったら。横浜流星みたいな綺麗な顔と体型をもって産まれてこれたら、渡辺直美のように強烈な個性とバイタリティやチャレンジ精神に溢れた素晴らしい人に産まれてこられたら。

そのときはそちら側に回るだろう。今はもう、ただ車椅子の上で死ぬのを待つだけでいい。

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