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そうだ!テンスの花を届けよう

前のおはなし

こんな場合じゃありませんでした!
と、シンイは我に返り焼けた地面を見回す。未だ煙が燻っている花畑にはそれらしきものは何も見当たらない。
「ダメだ……」と呟き、村へ帰って新たな手を考えようと提案するシンイを押し退け、ぱんこが指をさす。

「あそこ…… 光ってる」
「私には 見えませんが……」
シンイの目は節穴だから……

ぱんこは光る花の元に駆け寄り「これ!」と花を指さす。
それは紛れもなく、先ほどまで一面に咲き誇っていたテンスの花だった。

錬金で失敗続きの妹は
「きっと ここで テンスの花を見つけるのが
私の役目だったのね。お兄ちゃん 私を
ここまで連れてきてくれて ありがとう!」
とボクに感謝した。

そんなことないんやで…キミは今から…ボクのせいで…
悠久の時を彷徨う…果てのない旅に出るんやから…

覚えたばかりのリレミトで洞くつの外に出ると、やけに周りが静かだった。
ここに来るまで辺りをうろついていた魔物が1匹もいないのだ。
異変に気付いたシンイと顔を見合わせていると、空が瞬き大きな音が鳴り響く。

「い…今 カミナリが落ちた方角って……。」
「村の方角です! 急ぎましょうっ!!」

ボクらは村への帰路を急ぐのだった。

やっぱり節穴だな

目の前に広がっていたのは赤く火に飲まれた村の姿だった。
跋扈するのは、周辺で見なかった強大な魔物たち。悲鳴と怒号の飛び交う村は、先ほどまでの長閑な面影を残していない。
ふと見上げた空には大鎌を持った魔族が不吉な笑みを浮かべている。
そいつは立ち尽くすボクら――ぱんこへ火球を放つ。
危ないと駆け出し、伸ばした手から、光が妹を包み――

そして消えた。

「ぱんこさんが…… 消えた?
まさか 今のは……?」
シンイの疑問を遮るように新たな悲鳴が響く。

「テンスの花は 私が 命に代えても
必ず おばあさまに 届けます!」
こちらをチラと見、間に合わせてみせるとシンイは炎の中へ走り去っていった。

ひとり取り残され、ボクはその場にへたり込んだ。
また助けられなかった。どうしてこのチカラは自分の思う通りに使えないのだろう…

頭上で「こいつです 冥王さま!」と叫ぶ声がする。
声の主、アークデーモンの見やる方を向くと、月明かりに照らされた先ほどの魔族が此方を睨んでいる。

「だが ネズミ1匹 逃したところで
この冥王ネルゲルを 阻むことはできぬ。
冥王とは あまねく 死を統べる者。
生きとし生ける者が 死から逃れられぬように
何人たりとも 我からは 逃れられぬ」

事実を述べているだけのように淡々と冥王は語る。
「それでも…」
ボクはこれから起こる光景を思いつつ、冥王へ精一杯の悪態をついた。
「それでも天寿を全うすれば、オマエには負けたことにならないだろ?」

「いまわしき 時渡りの術者よ!
灼熱の獄炎で その身を 焼き尽くしてやろう!」

あぁ、そういえばシンイにまだ時渡りの話してないな…今度会えたら、今度こそ話さないと…そう思いながら目を瞑っても目の前は赤く、ボクの意識は途切れた。


エテーネの民 ぱんイチよ……
さあ 目を覚ましなさい。

その声に目を開くと、ボクは見知らぬ神殿にいた。
「この声はまさか…!冥王ネルゲル!」

姿の見えない声の主は、きまりが悪そうにひとつ咳払いをして続ける。

冥王のチカラにより
あなたの命は尽きましたが その魂には
まだ 果たすべき使命が あるのです。
隔絶された島で 生きてきた
あなたたち エテーネの民は
知らないでしょう……。
あなたたちの島の外には
アストルティアと呼ばれる 広大で偉大な
母なる大地が 広がっていて……
そこには あなたたち人間の他に
さまざまな姿をした種族が
今も 暮らしていることを……。

ボクはふと、シンイが言っていたことを思い出す。
いしずえの森の石碑に描かれた種族はどこに行ったのか――
清き水の洞くつの中の壁画の話が本当なら、彼らは滅びてしまったのではないか――と。
どうやらその考察は外れていたようだ。世界には人間以外の種族が普通に暮らしており、エテーネの民だけがそれを知らずに生きてきたのだ。

声の主は続ける。

これより 5人の神々が
あなたに チカラを貸してく……

「じゃあ、ピナへトさんにオナシャス」

な……話を最後まで……

声の主が何か話しているが、ボクの意識はまたここで遠のいていった。

次のおはなし


【お話の補足(蛇足)】
シンイの目は節穴
ハイライトとか何もない。冷静に設定画とか見ると怖い。
なお画像はオンライン。

こっちもツスクルの民やぞと全エルフがツッコミを入れた名シーン

この声
何の因果か「いたスト」でネルゲル役をやった近藤隆が、今後判明するこの声の主となった。なお、ドラゴンクエスト10オンラインでは当初キャラクターボイスはついておらず、いたスト(ネルゲル)→DQX(声の主)→DQX(ネルゲル)の順で実装されている。どうして……

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