03.ある錬金術師の話

「気を取り直して」
目に見えるたんこぶを抱えた2人を集め僕は話を始めた。

「ねぇ知ってる?峰打ちって、骨折して死ぬんだよ……?」
「指輪……あと1つで完成なんです…指輪……」
いい大人がメソメソしている。

「この塔はゾーネスが神の知識を手に入れるために作ったものだということがわかりましたっ!」
語気を強めて話すと観念したかのように2人も続ける。
「疑問なのはゾーネスは不老不死の肉体に興味がないのにドン家への依頼は『千年後も残る仕事なんだよね」
「神のみわざは生命の創造。恐らくゾーネスが求めていたものはコレでしょうね」
「擬似生命……はアレだろうし」
赤髪の目線の先にはチャコロットをはじめとする数種の魔物たちがいる。
「ゾーネスは生命を生み出したかったのか…それとも、輪廻転生を自身で管理したかったのか。何度でも蘇るから拠点になる所を求めたとかさぁ」
いつになく考察を語る赤髪の前、
「えぇ……錬金術師繋がりでうちのパル転生先とかはやめてほしいぃ……おっさんじゃん……」
つい本音を漏らしてしまう。赤髪はシスコンやんと呟いていた。

「あと一つ気になったのは『錬金喜劇』という手記でしょうか」
「バルザック……伝承に残る錬金術師だね。妹ちゃんが戦ったって言ってたのもコイツだっけ?」
僕は頷く。
「超えられなかった師は誰なのか…この世界ではゾーネスなのかもしれないし、大昔の伝承どおりエドガンかもしれない」
「それに禁断の秘法って、これはきっと進化の秘法ですよね」
「他の錬金術師たちの知識と技術を食らってでも生き延びる、か。そういえばパルの話では祠を使って錬金術師を育てて食べるとか聞いたな」
「えぇ。ちょっとぉ。この塔も同じような要素なんじゃないでしょうね?冒険者を装備でおびき寄せて……やだやだもう出ようよぉ」
『究極の錬金術師』の本を閉じ、僕たちは外へ出た。
バルザックーー直接、妹から聞いたわけではないが……60年前の彼女の足跡に確かに残っていた名前だった。

***

あぁ、もう時間がないな……
パーシバルはこの時代で出会った人たちに想いを馳せる。
リリオルとの別れは済ませた。何も知らずにこの世界へ迷い込んだパーシバルにとって、彼女はどれほどに支えになってくれただろうか。
ハナちゃんは兄へテンスの花を届けられるだろうか。
幼いアバ様にも古代のエテーネに関する知識を授けて下さった。そして兄の救い方も。
「時渡りの術……」
酷い雨の降る中へ手を差し出せば、その雨粒は掌に残らずに通り抜けてしまう。
「時渡り……?」
声の方へ振り向くと、若い修道士風の男性がこちらを伺っていた。
透けた手を隠すように引っ込め、パーシバルは「雨宿りの間、私の話を聞いてくれませんか?」と男性に話しかけた。
できることなら、兄に伝わるようにと。

【お話の補足(蛇足)】
いい大人
お前らが社会人なのはわかってるんだ。普段の会話は「仕事キツい」と「給料低い」しかねぇんだからな!赤い髪の人が真面目な話をすると補足することがないので辛い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?