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【開催レポート】『未来を実装する』(著:馬田隆明)特別ワークショップ

 テクノロジーの進歩は、同時にテクノロジーを取り巻く社会自体の進化を要求しています。
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏はこう述べています。
「私が規制にこそアップデートが必要だと気付いたのは、経済産業省でFintechを担当していた2017年頃、『イノベーションと法』勉強会を開いていたことがきっかけです。(中略)私もはじめは規制当局がおかしいのかと思っていたのですが、勉強会を一年間行って議論した結論は、当局が必死で改正しても追いつけないほど、規制の時代背景が変わってしまったのだということでした。」
 一方、フィンランドではMaaSを推進する観点から、交通関係法令を一本化するとともに、交通事業者に対し、時刻表やリアルタイムの位置情報などをオープンデータとして提供することを法律で位置づけています。

 このように、テクノロジーの実装にあっては、

「テクノロジー自体を社会にどう実装するか」
(=技術の実装)

という観点だけでなく、

「導入後の未来を描き出し、社会側もどう変わっていくか」
(=未来の実装)

の観点が重要です。

PMIは、イノベーションの社会実装を具体的に、かつ方法論も交えて解説している『未来を実装する』を題材に、特別ワークショップを開催しました。

1. イベント概要

 本イベントは、2021年3月5日(金)20:00-22:00に行われ、PMI Legal Community に参加している弁護士や弁護士を目指す学部生・ロースクール生、また、官僚の参加者(内閣府、経産省、農水省など)も多数あり、約40名で行われました。

 メインスピーカーの馬田先生は、東大卒業生・研究者向けのアクセラレータープログラム「東京大学 FoundX」のディレクターをされており、この1月にスタートアップ向けに公共や規制との向き合い方を提示した『未来を実装する』を出版されました。

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2. 馬田先生の講演

 イベントの前半では、馬田先生から470ページに及ぶ大作を、20分でぎゅぎゅっとご説明いただきました。

 著書では、電子署名、遠隔医療、加古川市の見守りカメラ、マネーフォワード、Uber、Airbnbなど、世に広がるテクノロジーとそうでないものの違いに着目し、「社会実装」を成功させる方法が紹介されていますが、講演で特に焦点が当てられたのは、「電気」の社会実装です。

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 蒸気から電気への転換には「約50年」の時を要したと言われています。その背景には技術自体の成熟だけでなく、社会側にも変化が求められたことがあります。
 例えば、出力の観点で言えば、単に蒸気から電気への置き換えによる生産性の向上は見込めません。しかし、蒸気によるエネルギーはベルトを通して伝わったため、距離があるほどエネルギーが失われるのに対し、電気は配線さえあれば摩耗することなくエネルギーを伝達できる点を活用し、工場内の機器の配置が自由になったことで、作業工程が2倍に効率化したと言われています。
 このように、新しい技術を単に置き換えるのではなく、それに合わせた周囲(社会、規制、規範など)の変化がないと、その可能性の地平は開かれません。

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 こうした事例から、著書では社会実装の成功に向けた5つの要素(デマンド、インパクト、リスク、ガバナンス、センスメイキング)は紹介されていますが、講演では特にガバナンスに焦点が当てられました。
 ここでいうガバナンスとは、ざっくり述べると、「テクノロジーと、その周囲に張り巡らされた法、制度、人間関係などの相互作用の体系により適切に調整していくプロセスそのもの」と捉えることができます。

 著書では、ガバナンスは主に4つの要素(法律、社会規範、市場、アーキテクチャ)により構成されることとしています。

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 ガバナンスはグローバル化、小さな政府の志向、そして市民参加の増大などを受け、国家以外にもその担い手が広がりつつあります。
 その結果、例えば法律であっても、国だけでなく、民間企業等が関わることで改正されたケースも多数見られるようになっています。(FinTechを踏まえた銀行法の改正など。)
 また、社会規範や市場は、政府以外のアクターにより変化することも頻繁に起こります。(講演では、卑近な例としてシャンプーの使用頻度が取り上げられました。1980年代は週に2~3回程度の使用だったのが、企業側のマーケティングにより、毎日使用することが普通となったとのことです。90年代生まれの筆者としては、かなり衝撃的でした。)
 
 では、イノベーションを踏まえて、こうしたガバナンスのあり方をどう考えるか。

イベントでは、3つの関係性が提示されました。

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 Forの視点は、イノベーションを起こすためのガバナンスですから、考え方としてはわかりやすいですね。Ofの視点も、イノベーション自体をどう適切に治めていくかという観点では、ドローンの使用範囲の規制などがこれに当たると考えられます。
 Byの視点はどうでしょうか。馬田先生曰く、「起こしたいインパクトから考えることで、テクノロジーによって新たなガバナンスが可能となっている」とのことです。

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3. ディスカッションの紹介

(※ 以下、「」で紹介している各発言については、事務局による要約です。)

 馬田先生の講演を受け、5, 6名のグループごとに、Governance for/of/by Innovationの具体例や、特にForの視点でより良いあり方がないか、議論し、全体で共有しました。ここでは幾つかの議論を紹介します。

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 まず、Governance for/of/by Innovationについては、国以外のアクターがどんどん関わっていけるよう、政府は、技術的な改正以上に、大きなデザインを描くべきではないかといった意見がありました。


参加者
「今後、データの利活用がイノベーションの基礎になることは明らかだが、政府側が規制のあり方として、例えば行動履歴をどう扱われていくのかっていう(ことを議論する必要があるのではないか)。足元では、個人情報保護法を改正されるが、より大きなデザインを描いてくれたら、基準が明確になくてそれに向けて事業社側もどんどんセンサー等を開発していくし、そうしたら生産コストも安くなったり、どんどんイノベーションが促進されていくのではないか」


 一方で、ベンチャー側が法律や制度などの規制を変えるという意識を持つことの難しさや、VC側の意識のあり方についても言及がありました。


参加者
「社会課題の解決に関するコンペを継続的に開催しているが、なかなか火種が広がっていかない。やはりインセンティブはお金しかないと思うが、どのようにすれば、社会起業への意識を高めていけるのか」

馬田先生
「若干意識は変わってきているなとは思っている。それこそアプリとかSaaSとか結構コンペティティブになってきて、アイデアを探している人も、その領域だとやっぱり難しいよねっていうふうになってきていて。ただやっぱり大きな社会課題に挑もうとすると、どうしてもその道筋がなかなか描けず、最初の一歩をすごい迷っちゃうんですよね。例えば、私の周りにも気候変動という凄く大きな社会課題に興味がある人が複数いますが、課題が大きすぎてなかなか一歩が踏み出せず、詰まってしまうみたいで。そんな状況で、しかも起業もしたいってなると、一見簡単でダイレクトなアプローチ、たとえばキュレーションメディアとかにそのまま突き進んじゃうっていうのも結構あるのかなって、見てて思う。なので、社会課題があるよねっていうのを見せるだけじゃなくて、それを細分化して手が届く問題にするのを助けるというのも大事かなと。たとえば気候変動の問題に取り組みたいんだったら、食料やセメント、エネルギー、行動変容などの要素問題に分解する。その問題の見取り図を単に与えるだけじゃなくて、個人が一歩一歩、順を追って体験しながら納得するプロセスを助けたり、まず踏み出せる意味のある一歩、みたいなヒントとか、そういう何か道筋付けをしてあげるとちょっと変わるのかなと思ってます。」

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参加者
「ありがとうございます。私も主要な業務の1つで気候変動の仕事をしているので、そういった分野でスタートアップはなかなか取り組みが少ないとか、またそもそもコンペとかしてもそのエネルギー分野はなかなか集まらず、エネルギーテックとかって5年前ぐらいに盛り上がるかと思ったんですが、結局やっぱり盛り上がりにくく、なかなか悩ましく思っています。」

馬田先生
「上場企業って四半期とか1年のスパンで考えるのが通常ですが、スタートアップはやるのであれば、10年とか15年とかのスパンで考えてやっていくべきで、そこがスタートアップが取れるアービトラージの機会だと個人的には思っています。テスラみたいに。VCも短いスパンでイグジットまでいけたソフトウェア全盛期の名残りのせいか、5年スパンとかで物事を考えているところもあるけれど、償還期限を考えると実は10年という長期間待てるし、ソフトウェア以外の領域もあるということに改めて気付き始めていると感じている。スタートアップもこの長期スパンを活かさない手はないと思います。あとはスタートアップファイナンスの仕組みをもっと発展させてさらに長期化したり、スタートアップがもっと国からの支援を得るなどして、より長いスパンで視座の高い課題に挑むみたいなところも重要になってくる気がしますね。」

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4. おわりに

いかがだったでしょうか。
馬田先生の本は、今後のイノベーションを考える思考スキームとして、非常に学びの深い本ですので、上記のディスカッションに興味がわいた人は、ぜひ著書の方も読まれるのを強くおすすめします。

PMIでは、主に弁護士・弁護士を目指す学生の方向けに、「PMI Legal Community」という会員制コミュニティを運営しており、こうしたイベントを定期的に開催しております。

▼PMI Legal Community
https://pmi.or.jp/legal/


また、官僚(OBや内定されている方も含む)の方々向けにも、「PMI Bureaucrat Community」(招待制コミュニティ)を立ち上げたところで、4月以降、定期的なイベントを開催予定です。
(現在検討中のテーマ:「公共政策学とは」、「脱成長と国家OS」)


引き続きこのような形でレポートも共有していきたいと思います。
今後もお楽しみに!

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ミレニアル世代を中心とした国家公務員、政治家、弁護士などのパブリックセクターとスタートアップや研究・教育機関のイノベーターらが協働し、日本が抱える社会課題に 対してイノベーションがどのように社会に機能・実装しうるかを考えるコミュニティ。HP: https://pmi.or.jp/