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スケート (66)

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 昨日渋谷らくごの楽屋にて、キュレーターのサンキュータツオさんが仰った。

談吉さんは北海道産まれだけどスケートなんて滑れないでしょう」

 確かに運動神経は壊滅的に悪い、足も速くないし筋力もない。平坦な道を歩いているだけで躓くレベルのバランス感覚を持っている。そんな人間が氷の上などという不自由なところを刃の付いた不安定な靴を履いて滑るスケートなんて高度なスポーツ、出来るわけがない、そう思うのは至極当然のことだ。読者の皆様もそう思っていることだろう。しかし、答えは”否”だ。事実とは小説より奇なり、筆者はスケートを滑れるのである。

 故郷北海道の十勝地方はスピードスケートの国と言っても過言ではない。現在冬季オリンピックでメダルを荒稼ぎしている高木美帆選手は幕別町出身であるし、なんと言っても長野オリンピック金メダリストの清水宏保選手は、帯広市の生んだヒーローだ。いや、メダリストがいるからといって、筆者がスケートを滑れる理由にならないだろう、そうお思いになるかもしれないがそうではない。十勝地方にはメダリストだけでなく、老若男女スケートを滑れる理由があるのだ。

 小中学校の冬の体育というと、関東では何が主流なのだろう。やはり駅伝もあるしマラソンなのだろうか。詳しくないのでわからないが、我が故郷では冬体育はスケート(地方によってスキー授業のところもあるのでないかとも思うが)をやっていたのだ。ほっかいどうでっかいどうというくらいで学校の校庭もだだっ広く、その広さはグラウンドの端に野球のマウンドやホームベースがあったとしても、その反対側でサッカーやテニスが出来るほどだ。そんな広いグラウンドも、冬は雪が降るので野球やサッカーなどはできなくなる。ではどうするかということで教育者達が考えたのがスケートだ。グラウンドに雪でお堀や壁などを作り、夜な夜な先生達が大量の水を撒き、スケートリンクを作るのだ。今考えると大変な作業ではあるが、児童や生徒達にはそんな苦労はわからない。冬になるといつの間にかグラウンドがスケート場になっているなぁくらいの感覚である。そしてそこで、スピードスケートの授業が始まるのだ。

 筆者の地域は小学校でスピードスケート、中学校で男子はアイスホッケー、女子はフィギュアであった。最前申し上げだ通り、運動神経が抜群に悪いとはいえ、小中と義務教育で無理矢理習うので、ある程度人並みには滑ることができるようになる。つまりサンキュータツオさんの仰るところの「談吉さんはスケート滑れないでしょう」などという推測は、間違いにあたるのだ。いや、待てよ、今はどうかわからない。何せ20年以上前のことだから、もしかしたらもう滑れなくなってる可能性もある。なんだか不安になってきた。これだけ偉そうに長々と語っておきながら滑れなかったらどうしよう。でもまぁとりあえず、滑れた訳だから滑れるということにしておこう。

 最後に、女子5000メートルという大変ハードな競技で、しかもオリンピックという大舞台で見事、自己ベストを更新した押切選手と堀川選手、本当に感動しました。あっぱれ!!

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com