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羊たちの沈黙 (4)

割と私は仕事、プライベート含めて海外に行ったことのある人間だと思う。

アジアで言えば上海、香港、台湾、韓国、カンボジア、タイ、ベトナム、
ミャンマー、シンガポール、フィリピン、マレーシア

あとは、イギリス、フランス、ハワイ、グアム。

と、見ての通りアジア圏に強い男である。
実際、東南アジアが大好きだ。

それは別として
「行ってみたい国、都市はありますか?」
という質問があれば

間違いなく
スイス、ニューヨーク、スペイン、厦門(中国)

「もう一度、行ってみたい国や都市はありますか?」と聞かれたら。

ニュージーランド

(以下、NZ)

上記では書いてないが私は中学1年生の時、地元が姉妹都市を結んでるNZのオトロハンガに10日ほどホームステイした。

志願制であり、地域の3校から各男女2名。計12名が行く事ができた。

志願者は多くはなかったが、それでも自分の中学校の男子を代表する2名のうち1名に選んで頂き、私は10日間ニュージーランドに行く事ができた。

何故それに志願したのかはっきり思い出せない。

部活(野球部)を10日間休む事になるし、日本にいても普通に夏休みを過ごす事はできる。

ただなんとなく。
反抗期で親と離れていたいだけだったのかもしれない。

真夏の日本から南半球の真冬のNZへ。

オトロハンガへ着くとホームステイ先のホストファミリーの方々が迎えに来てくれていた。

ホストファミリー長らしき丸々と太られたNZ人のおばーちゃんがカタコトで我々の名字を読み上げ「○○と○○はこの方達がホストファミリーです、では車に乗ってね。」と日本出発前に決められた2人1組を手際よく割り振っていった。

目の前で友人達が次々と車に乗っていくのを見送る中、私と私とペアを組んでいたタダミチくんの名前が最後の最後まで呼ばれなかった。

ホストファミリー長の丸々太ったおばーちゃんが「さて、これでOKね」といった表情を浮かべた後

「アキラ(私の本名)、タダミチ。レッツゴーマイホーム」と満面の笑みを浮かべて、真っ赤なボロボロのハッチバックの車を指差して言った。

どうやら我々はホストファミリー長。BOSSのお宅に泊まる事になった。

ホームステイ先に向かう永遠に大自然が続く景色の道中。(大自然→牧場→羊→馬→牛の景色。)
そのおばーちゃんが鼻歌を歌いながら時速120キロで信号なき一般道をぶっ飛ばしていく。

ビビっている私達に向かって「こんなのいつもの事よ!!」と大笑いしながら言ってきた。

ホームステイ先へ着くと大柄のおじーちゃんが何故かウエルカム曲という事でチャゲアスの「YAH YAH YAH」を流しながら笑顔で迎えてくれてくれた。

大自然の中、豪邸に響き渡る「YAH YAH YAH」はどこで聴く「YAH YAH YAH」より贅沢な気がした。

東京ドーム7個分の敷地に、おじーちゃんと、おばーちゃんと、羊が150匹、牛30頭、馬10頭。そして日本人の中学生が2人。

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朝から昼まで牧場のお手伝いする。

カボチャぐらい大きな松ぼっくりがあったり、虹が「m」のように二重に掛かったり。(三重の虹もあった)

おじーちゃんが運転するトラックの荷台に乗って追いかけてく牛30頭に牧草やりをしたり。

目の前の川がとんでもなく絶景だったり。

NZが映画の撮影地として選ばれる理由がよく分かる。

思春期、反抗期の中学生の私に強烈な癒しを与えてくれた景色の数々だった。

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毎日必ずティータイムがあり、大自然と150匹の羊を眺めながら紅茶とクッキーを頂く。

羊たちは沈黙しながら見慣れないアジア人2人の青年を見つめながら餌を食べていた。

滞在中、現地の中学校に1日お邪魔する機会があり、NZ人の中学生に囲まれながら一緒に授業を受けたのだが、斜め前に座ったブロンド髪の綺麗な女の子が、ガムをクチャクチャしながら「私、ケイシー。漢字でケイシーって名前を書いて。」と美しい青い瞳で言ってきた。

既に一目惚れしていたが、とにかくケイシーという名前を漢字で書く事に頭を巡らせ、
「佳四伊」と書いてあげた。とてもケイシーっぽくない「佳四伊」だったが彼女はすごく喜んでくれたのである。

授業が終わり少しケイシーにお近づきになりたく勇気を出して話しかけようとしたらケイシーが彼氏と思わしき高身長のイケメンと

ケ「これが漢字でケイシーってんだって」
彼「ベイビー、素敵じゃないか」

みたいなやりとりをしていた。

秒で失恋したわけだが、なんとなくセンチメンタルな気持ちでいると休み時間にギターを弾き始めた青年に

「日本人、とりあえず俺のギターを聞いてけよ」と心地よいギターを聞かされた。彼は私の気持ちを察してくれたのかもしれない。

センチメンタルな気持ちを引きずりつつホームステイ先に帰りおやつを頂いている時も、羊達は沈黙しながら私を見ていた。

羊達とも中々お近づきになれないな。なんて考えている翌日、皆んなで羊の毛刈りショーを観に行った。
日本でいう日光猿軍団の羊バージョンである。

そこの羊達はショーマンとして、よくメェメェ鳴いてくれる。

羊が一匹一匹紹介されご挨拶に「メェ」と鳴く。

毛を刈られている時も「メェ」

毛を刈り終わり山羊のような状態になっても「メェ」

中学生ながら羊達のプロ根性に感動した。

エンターテイメントを堪能し大自然のホームステイ先のお宅に戻ると、いつも通り大自然の中の羊達は沈黙していた。

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先日、NZで大きな地震が起きたニュースを見た。何よりNZの方々や大自然、動物の無事を祈りたい。

しかしあの揺るぎない大自然の大地ならきっと大丈夫だと思う。

大地震が起きた時、あの羊達も驚いて
「メェ」と鳴いたかもしれないがラグビーと同じくNZの大地は強い。

いつかまたNZへ。

という、今回のお話。

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com