見出し画像

フェイクニュース (90)

世の中は嘘で溢れている。○○は安全だ、この〇〇は国産だ、健康に良い〇〇、美肌には〇〇などなど例を挙げるとキリがない。欲求やコンプレックスの数だけ嘘があり、それらの組み合わせにより無限に嘘が出来上がる。かくいう筆者も、保身のために取り繕ったり嘘をついたりもする。良い嘘や悪い嘘のように嘘も色々あるので、嘘そのものに何かを物申すつもりはない。しかし、あまりに多過ぎはしないか。なかでもネットには悪質な嘘が蔓延している。SNSや動画サイト、個人ブログなど、嘘が蔓延しているのだ。思わず某前大統領のように、「フェイクニュース!フェイクニュース!!」と叫びたくなってしまうほどである。ここで、読者の皆さまがフェイクニュースに釣られないよう、あるフェイクニュース体験をご紹介したい。筆者の実体験なので、恐怖を覚えるかもしれないが、良薬口に苦しと受け入れてもらいたい。フェイクニュースの文言は『レンジで5分、里芋の皮が簡単に剥ける』だ。

筆者は北海道生まれなので、里芋にあまり関心がない。あらゆる種類のじゃがいもがあるので、里芋を食べるという選択をする必要がない(我が家だけではないはず、、、)のだ。なので子供の頃から数えるほどしか里芋を食べた記憶がないし、調理法もあまり知らない。逆に関東では里芋がよく獲れる。里芋の煮っ転がしは、関東圏ではお袋の味(言い過ぎかもしれない)なのではないだろうか。したがって東京近辺では時期になると、スーパーマーケットに里芋が並びだしたりする。実際食べると美味しいものだし、あのネットリ感は里芋ならではのような気もする。里芋自体にはなんら不満はない。問題はフェイクニュースの話だ。

先日スーパーで里芋を購入した。調理したことがないので”里芋 下ごしらえ”でネット検索をしたところ、タワシで洗ったり乾かしたり、なんだか手間がかかる食材だと感じた。何よりあの小さい芋の皮をを一個一個包丁で剥くのが億劫だ。そこでただ”里芋 下ごしらえ”ではなく”里芋 下ごしらえ 簡単”で検索することにした。すると幾つも調理法が見つかり、その中に例のあの悪質な”レンジで5分、里芋簡単皮剥き”なるものがあった。その悪魔の如き手順はこうだ。

①里芋の泥を洗い流したら、包丁でぐるりと一周切れ目を入れる
②耐熱皿に入れて水かけ、ふんわりとラップをかけたら、レンジ(600W)
 で5分加熱します。固ければ1分ずつ加熱。
③つるんと剥ける! 注)熱いうちに剥かないと剥けなくなります

これだと思い、喜んでこの通りに調理を始めた。①は問題ない。問題なのは②と③だ。600Wで5分経ったので取り出したところ、まだ固い。言われた通り1分加熱、固い。また1分、また1分。段々と里芋が美味しく無くなる気がしてくる。レンジ加熱によりところどころ皺まで出てくる始末。固さは後で柔らかく煮れば良いと考え、③に移る。剥けない。ちっともつるんと剥けない。何より熱くて手で触ってられない。しょうがないからキッチンペーパー越しにゴリゴリと削る。熱い、剥けない、崩れる、熱い、剥けない、熱い、崩れ、熱い。結果、全部剥き終わるのに20分ほどかかってしまった。

「フェイクニュース!フェイクニュース!」

何がレンジで5分だ。正確にはレンジで8〜9分、剥くのに11〜12分、計20分だ。初めから包丁で剥いた方が速いし楽ではないか。無駄にキッチンペーパーも使っちゃったし。「フェイクニュースだ!」

別にニュースではないことは知っている。しかしあんまりではないか。こんな書き方したら簡単につるんと剥けると思うではないか。里芋の鮮度やレンジの違い、水の量や耐熱皿の差に原因があるなら、わかりやすく注意書きをして欲しい。里芋のことだけではない。動画サイトのサムネイルも大袈裟極まりない。嘘ばかりなのだ。

嘘ではない、広告なのだ。そう言われると仕方ないことではある。企業だけでなく個人でまで誇大広告をする世の中、どの情報を信じるべきか、判断するのは自分である。確かに里芋の皮剥きは思う通りに出来なかったが、その調理法を選んだのは紛れもなく己である。身になる情報もあれば、そうでもないものもある。失敗から学びながら、自らの取捨選択に責任を持っていかなくてはいけない。もう里芋は自分で買わない。


この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com