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メガトロンの仕業 (64)

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 ふと幼稚園児だったの頃を思い出してみようとしたが、語れるほど憶えていないようだ。何やらリス組、トラ組、ウサギ組のように動物の名前でクラス分けされてたような記憶が若干残っているが、なにぐみに所属してたかは思い出せない。唯一憶えているのは、その月にお誕生日のある園児たちは、毎月ある集会みたいなものの時に前に呼ばれ、一人一人将来なりたいものを発表するという行事があったことだ。女の子ならお花やさんやケーキ屋さんになりたい、男の子なら消防士や警察官になりたいなどだ。筆者は恥ずかしがりやなので、目立たないようみんなのまねをしよう、もしくは隣の人と同じことを言おうと思っていたのではないかと思う。左からか右からか、とにかく並んだ順番に誕生月を迎えた園児たちが発表していく。

「おおきくなったらお花やさんになりたいです」
「ぼくはけいさつかんになりたいです」
「わたしケーキ屋さんになりたいです」

だんだんと順番が近づいてくる

「しょうぼうしさんになりたいです」
「しょうぼうしになりたいです」

前の園児のまねをする無難な園児が増えてきたし、筆者も同じようにしようと思っていただろう。よし、もうすぐ出番だ

「おおきくなったらけいさつかんになりたいです」

次の次が僕だから次の子と同じようにしよう

『ぼくはトランスフォーマーになりたいです』

えっ!!!!!トランスフォーマー!!えっあ、順番だ!

「あ、おおきくなったら、トランスフォーマーになりたいです」

トランスフォーマーは当時の男の子の憧れの対象であった。車や電車だけでもカッコ良いと思う男の子にとって、それが変形してロボットになるなんてのは、最高の夢物語である。ただ前の子の真似をしただけなのかそのトランスフォーマーに自らなる姿を一瞬頭に浮かべた結果、悪くないと思ったのか、今となってはもう全く思い出せないが、目を輝かせ自信満々に″トランスフォーマーになりたい″と言い放ったあの前の子の未来へのパワーみたいなものは、はっきりと焼き付いている。

今、トランスフォーマーでなく落語家になっている。まあいろんな役になるという点で、言いようによってはトランスフォーマーなのかもしれない。おそらくあの男の子はそんな曖昧な解釈のトランスフォーマーではなく、本物のトランスフォーマーになっているのではないだろうか。もしそうでなければ、それは『メガトロンの仕業だ』。

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この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com