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スパイスミルができあがるまで。アイデアの出し方から試作、そして販売まで。

2021年秋に試作したスパイスミル。
半年経ってようやく製品化にこぎつけました。
シンプルなデザインだけど、珍しいカタチ。
オブジェのような三角形と四角形のスパイスミルです。

なぜスパイスミルを作ろうと思ったか

スパイスミルを作りたいと思った動機は至って単純で、
僕が欲しいサイズ感で、かつ、かっこいいデザインで、かつ、ミルの質がいいものがなかなか見つからなかったからです。

日本で販売されているスパイスミルの多くは
僕にとっては小さいんですよね。
握りづらい。
そしてミルの質が良いものになかなか巡り合うことができずにいました。

これいいじゃん!というデザインのものはミルの質がイマイチだったり、
これいいじゃん!というサイズのものはデザインがイマイチだったり、
これいいじゃん!というミルの質のものはサイズがイマイチだったり・・・
全てを満たすスパイスミルになかなか巡り会えませんでした。

もうこれは自分で作ったほうがいいんじゃね?と思い、
作ってみることにしました。
しかも、木工作家の人たちの間でスパイスミルを制作している人というのは
かなり数が少ないです。
ブルーオーシャンじゃね?
と思い、とりあえずデザインをいくつかスケッチしてみることにしました。

アイデアの出し方、デザインの出し方

まずはスパイスミルを制作するにあたりアイデア出し。
独立してそろそろ3年目になるので、
アイデアの出し方にも僕なりにいくつか方法を見出すことができてきました。

今回の用いた方法は「縛りプレイ法」です。
これは僕が勝手に名付けた方法です。

ちなみに僕はデザインについて学んだことはありません。
大学は工学部で土木工学を学び、
サラリーマン時代は食品メーカーで研究職として働いていました。
美術部に所属していたとかそういう経験もありません。
デッサンとかスケッチとかのやり方も知りませんし、ちゃんと学んでいません。
そんな素人がやっているアイデアやデザインの出し方です。

では縛りプレイ法について解説してきます。

そもそも縛りプレイというものはご存じでしょうか?
ゲームをする時に難易度を上げるために、
あえて自らが自分に課す禁止ルールのことです。

例えば、僕が学生時代に好きだったゲーム実況に
ポケットモンスターを金のコイキング1匹でクリアする
というものがありました。
これほどエグい縛りプレイを僕は見たことがありませんでした。
今でもこの実況を見て笑い転げていた当時を鮮明に思い出せます。

このように、縛りプレイというのは
それの自分ルールに則ってプレイ、実況することで
ショーといいますかエンターテイメントとして
新しい価値が付与されるものでもあります。

僕はこの考えを応用したものをアイデア出しに利用しています。

作りたいものがある。
そのデザインを考えるときに、
まずはじめに禁止事項を決めるんです。
例えば、
製造工程で
使ってはいけない機械
使ってはいけない道具
なんかを決めたり、
デザインで言えば
丸や球体は禁止
みたいな縛りをするんです。

これって一見めちゃくちゃ効率悪いし、
デザインの可能性を狭めているように感じると思います。

ですが、これは僕なりに理由があって縛りをしているんです。

世の中にない
全く新しいアイデアのものって出すのかなり難しいと思うんです。

既に世の中にあるものを新しい形でデザインしようと思っても、
既にあるもののイメージにどうしても引っ張られてしまうんです。

今回のスパイスミルの例で説明しましょう。

スパイスミルって既に世の中に溢れかえっていると思うんです。
スパイスミルといえば形やサイズを容易に想像できるし、
Amazonでいくらでも売っています。

ということで、
僕なりに「典型的なスパイスミルといえばこれ!」
という代表的なデザインを検索して探しました。

出典:amazon.co.jp

これに引っ張られないように縛りを設けようと思いました。

縛り項目

円柱禁止
旋盤使用禁止

この二つです。
スパイスミルといえば円柱のような形状をしています。
これは旋盤という機械で加工します。
材料を回転させながら刃物で削る加工です。
大根の桂剥きみたいなイメージをしてもらえばいいかと思います。

ものづくりをされている方だったら、
もしかしたら分かってもらえるかもしれませんが、
これって相当キツいと思いませんか?

製造の根幹を崩すみたいな感じです。
「いや、旋盤使わずにどうやってスパイスミル作るんだよ」
ってなるやつです。

ですが、その縛りをすることで、
世の中にないデザインを生み出そう
というのがこの縛りプレイ法になります。

この縛りプレイ法のメリットは、
僕みたいな個人事業主のような資本や設備の少ない事業者が
いかに限られた資本と機械で面白いものを作るか
という時に力を発揮する気がしています。

うちみたいな小さな事業者は
木工機械も革の機械も満足に持っていません。
欲しい機械は山ほどあるけどそんなお金はない。
手元にある機械だけでなんとかしよう。
もしくは、借りられる機械だけでなんとかしよう。
というのがこの縛りプレイ法の肝になります。
ちなみに先ほどの旋盤なんかも僕は持っていません。

逆に、資本と機械が整っている環境では
いかにコストを下げて大量生産するか
みたいな方向になりがちなので、
縛りプレイ法はやってもあまり意味がないような気がしています。

では、
この縛りプレイでブレインストーミングしてアイデアを出していきます。
そして良さそうなものをスケッチしていきます。

アイデアスケッチの一部

円がダメなら三角、四角、六角、八角と安直ですが描いていきました。
あと、最初はくびれはなくて丸っとしてましたね。
アイアンメイデンという謎の記述があるのはスルーしてください。

この時、加工の具体的な方法は考えていません。
デザインが固まってから方法は考えます。

1回目の試作

ざっくりとデザインが決まったら試作のための設計をします。
サイズ感、使用感、見た目の良さがここで決まります。
とりあえずなので
量産する時のことは考えずにスピーディーに制作しました。

出来上がった試作品ver.1.0がこちら
三角形と四角形も角があって丸みは少ない

写真を見ていただくとわかる通り、
めちゃくちゃ太くて、でかいです。
そして角が立ってます。

一発目の試作はこんな感じでした。

当然、周りの反応はイマイチでした。
特に女性受けは悪かったですね。
でかくて重くて太くて握りずらいということでした。

製品化にあたって、
長野県下諏訪町にある洋食をベースにした創作料理レストラン
「本田食堂」さんと
同じく下諏訪町で建築事務所と暮らしの道具を扱うお店をされている「Bappa 4.5」の宮澤さん

にご協力いただきました。

本田食堂やBappa 4.5で試作品を使っていただき、
改善点を洗い出し、ブラッシュアップして出来上がったのが
現在のスパイスミルです。

ではどんな改善をしたのか。

改善点と生産工程

まず、
全体的に細く、スッキリとしたデザインにすること。
本体の長さは少し短くし、ヘッド部分は少し長く。
全体のRをやや大きくし、中央にくびれを作り、より握りやすく。

試作品で1番多くいただいた意見は、
重くてデカい
と女性からは圧倒的に不評でした。
元々、僕が使いたいと思ったサイズ感にする
というのが当初の目的でしたが、
さすがに僕もこれはデカいし重いなと感じました。
それを改善するのが一番重要だと感じました。

あと、
胡椒を詰め替えるときにくぼみがあったほうがよい
という意見をいただいたので
円錐状に削ってくぼみを作ることにしました。

こうしてラフスケッチをもう一度し直し、設計も修正しました。
あとはどうやって加工するかです。

修正版のラフスケッチ

いろいろと悩みましたが、
独立1年目の時に講習会で見た治具を思い出し、
それを僕なりにアレンジを加えることで
加工できるのでは?
と考え、試してみることにしました。

2回目の試作

材料を用意。この段階ではかなりカクカクしい。
こちらがくびれと曲面を加工する治具。
トリマーを駆使して〇軸NCのような加工を人力でしております。
トリマーで切削した跡が残っているので南京鉋を使って仕上げ削り。
こんな感じで薄く削ってきれいな木肌に仕上げます。
スパイスミル試作ver.2.0
全体的に細くなり、かつ、くびれができたことでかなり握りやすくなりました。
すり鉢状の注ぎ口にして、スパイスの詰め替え時もこぼれにくい。

こんな感じで2回目の試作品ができあがりました。
本田食堂さんとBappa4.5さんにも使っていただき、
高評価をいただくことができました。

うちの奥さんも含め、
今回のミルは握りやすくなったと女性陣からも高評価をいただけました。

面の取り方など細部を若干変更し、
スパイスミルver2.1から販売することにしました。

ちなみに試作の様子はYouTubeにアップしています。
興味ある方はご覧ください。


初回生産

樹種もいろいろ。表情も個性的なものを用意しました。

初回ロットは
ケヤキ
カバ(スポルテッド)
クヌギ
ブラックウォールナット
の4種類を用意しました。
一本一本の表情がとても個性豊かで全て一点物です。
全部で12本。

ミルはセラミック製。

そういえば一番大事なミルについての説明を忘れていました。
デンマーク製のセラミックミルを使用しています。
メーカー保証25年というミルです。
すごい自信があるんだと思います。
塩も胡椒も両方いけます
心地よく削れるので気を付けないと
ついつい料理にかけすぎてしまう問題が発生します。

初回生産から本体下部に刻印が入っています。
整列させると我ながらなんとも美しいと感じてしまいます。
割れも美しい一本。真鍮の楔で留めています。
個性豊かな一点物がずらり12点。

おかげさまで初回生産分の在庫はだいぶ少なくなりましたが、
オンラインストアにて販売しております。
ぜひご覧ください。

ただ、モニターで見るのと実物を見るのでは
印象が結構違うと思います。
サイズ感もですし、
握った感触、
樹種によるミルの重さの違い、
などなど。

本音を言うと、実物を見てほしいところです。
もし直接ご覧になりたい方はご連絡ください。
SNSのDMでもメールでもなんでも構いません。
家に来ていただければ在庫は全てお見せできます。

ちなみにSNSはこちら

あとは時々イベントに出展することもあります。
もしお近くでしたら足を運んでいただけると嬉しいです。
イベント出展の告知なんかはSNSをご覧ください。

スパイスミルの今後

イベント出展時にいただいたお客さんの反応がとてもよかったです!
素直に本当にうれしいです。
今後もアップデートしながら作り続けていきたいと思います。

ちらほらいただいた要望に
「小さいサイズありませんか?」
というものがありました。

僕は長めで大きめのミルが使いやすいと感じ設計しましたが、
どうやら小さいのが好みだという方も多いようです。
特に女性の方に小さめの方がよいという意見が多かったです。

ということで
小さいサイズも作ります!

ミルは小さいサイズ用のものもありますが、
いろいろと各部のサイズが異なるので
小さいミル用に再設計する必要があります。
あと治具も作り直す必要が・・・

左が大サイズ。右が小サイズ。

年内の販売を目標にしてますが、具体的な時期は未定です。
こちらの動向も気になる方はぜひSNSをチェックしてください。
最新の情報をほぼ毎日アップしています。

最後に

本田食堂さんではPLYLISTのスパイスミル使っていただいています。
プロの料理人である本田さんからレビューをいただき製品化にこぎつけました。
本当にありがとうございました。

本田食堂さんの料理、めっちゃくちゃおいしいので
下諏訪町にお越しの際にはぜひお立ち寄りください。

僕たち夫婦がランチを食べに行った時の写真を
飯テロとして投下しておきます。

スパイスミル使っていただいてます。
前菜
パスタ
デザート

本田食堂さんのインスタ↓

また、暮らしの道具を扱うBappa4.5さんからもレビューをいただき、
製品化にたどり着くことができました。
本田食堂さんを紹介してくれたのもBappa4.5さん。
本当に感謝しかないです。

なんとBappa4.5さんでは
スパイスミルを店頭で取り扱っていただいています!
もし下諏訪町に遊びに行くことがあったらぜひ行くことをおすすめします。
4.5畳の空間に素敵な暮らしの道具が詰まっています。
うちのスパイスミルもぜひ手に取ってみてください。

Bappa4.5さんのインスタ↓

長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました。

僕のnoteではこんな感じで制作の打ち合わせから裏側まで、
洗いざらい書いております。
オーダーメイドのお財布やら家具やら指輪やら
いろんなものを作ってきました。
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