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作りながら考える、缶ビール自動発注プロダクト「STOCCA」【手元から考えるIoT 第1回】

「テクノロジーで生活者のしあわせを実装する研究所」とは、我々+tech laboのステートメントに書かれている一言。研究員たちは、各々のプロジェクトやサービスづくりを通じてその実現を目指しています。

IoTプロダクトの開発を担当する主任研究員・北村侑大も、もちろんその一人。ただ、北村が他のメンバーとちょっと違うのは「作れてしまう」ところなのです。「こんなのあったら良いかも」というモノを、実際に作ってみて試してみるちょっとした職人技。

この連載では、北村がこれまでに制作してきたIoTの試作品を紹介しています。北村が歩む手探りで手作りの道にぜひお付き合いください。

+tech laboでは、様々なIoTプロダクトの試作を行ってきました。本稿で紹介する「STOCCA:ストッカ」と「Smart Beer Storage」は、飲料の消費を把握するもの。試作の経緯や発見などについて、簡単にお話しします。

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北村侑大
豊富な紙加工の知識を有し、販促DMや店頭POP、パッケージやペーパークラフトコンテンツの設計、開発に携わる。+tech laboではその経験と開発力を活かし、IoTデバイスの開発、社会実装に取り組む。IoTに限らず、新しい技術によって人体デバイスや生活様式がアップデートされる事を願っているが、アナログな解決策も結構好き。

ユーザーの“困りごと”を改善

なぜ「STOCCA」や「Smart Beer Storage」を作り始めたのか。それは日常の困りごとを、テクノロジーを駆使して改善できないか、と考えたことがきっかけです。仕事を終え、家に帰って冷蔵庫を開けた時、ビールを買い忘れていて、あるいは補充し忘れていてへこんだ……という経験をしたことはありませんか?

その困りごとを解決してくれる装置を、と作り始めたのが「STOCCA」と「Smart Beer Storage」です。

ユーザーとしては、自動注文することでビールの買い忘れを防ぐことができるようになる。ビールメーカーとしては、いつ、何本減ったのかなど、なかなか見ることのできない家の中での行動を把握できるようになることで、その商品が家庭でどのように愛飲されているかが分かり、マーケティング活動にも活かせるようになる。この装置が介在することで双方にメリットを生むことができないか、という構想です。そこで、電通テックの社内プロダクトデザイナーのデザインモックから実装実現性を検討し、製作を始めました。

缶ビールは、通常6本入りで販売されているため、まずは6本まとめて冷やせる装置を製作。何本飲んだら自動発注するのか、メーカーはこれを活用してどのようなアプローチで売るのがよいか、といった問題もいずれ考えていくのですが、まずはレーザーカッターなどを用いて原理試作を自作し、どのトレーに缶が乗っているかをセンサーで感知できるようにしました。

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製作自体は複雑ではなく、期間は3週間ほど。費用も非常に安価なものです。開発会社に委託するより、自分で作ってしまえばコストをかけず、早く作れるのが利点です。

まずは、頭で思い描いたものを形にする。その反応を社内のチームのメンバーから、私に直接ぶつけてもらうことから始めています。トライするハードルが低く設定できるのも、利点だと考えています。

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トライ&エラーで改良を重ねる

実際に作ってみると、様々な発見もあります。形状やサイズを変えれば、缶ビール以外のほとんどのものに対応できるメリットがある一方で、デメリットも浮き彫りになります。

冷蔵庫の中で使うことを想定すると、メリットの一例として、厚みがなく、スペースを必要としない点が現実的でよい一方で、デメリットとして、手前から缶ビールを取っていくと補充の際に手間がかかることがわかりました。奥に補充するのが理想ですが、手前だけで回転していくイメージですね。また、バッテリーをどうするか、回線をどうするかなどの問題点にも気づくことができました。

その課題をクリアにするために改良したのが、こちらです。

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※北村が木製で試作後、社内CR部署と協業し、製品イメージに近づけた。家庭の冷蔵庫に置かれたイメージの解像度が上がり、新たな良い点や課題が見えてきた。

手前から取ると、次の缶が前に出てくる仕組みで、こちらもセンサーで残本数を把握できます。専用の確認画面と連動し、リアルタイムで残本数の確認ができるようになり、補充の手間をなくすことに成功しました。しかし、バッテリーや電波についてはまだ具体的な解決策に至っていません。

そこで、回線や電源問題も解決できる別アプローチとして、24缶入りのケース購入を想定したものを作りました。これは、自動発注と電源、回線の方を優先し、冷えているビールの残量をいったん横に置いたものです。

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仕組みとしてはどれも同じで、減ったことがわかれば自動発注する、という単純なもの。このようにユーザーの使用シーンや使い勝手に合わせて試行錯誤を重ね、どんどん改良していく。実際に作ってみなければ気づけなかった点も多く、トライ&エラーの重要性をあらためて感じています。

作ってみてわかった2つのメリット

メーカー側のメリットはある程度見据えていましたが、試作を繰り返すことでその解像度も更に上がりました。

一つは、先述のとおり、これまで把握できていなかった家の中での情報=いつ、どこで、どうやって消費されているかがわかるようになったこと。「意外と野球を観ながら飲む人は少ないな」、反対に「スポーツを観ている時はいっぱい飲んでいるな」ということがわかれば、スポーツに絡めたキャンペーンを打つなど、効果的な広告施策を想定しやすくなります。

そしてもう一つは、チャンスロスをつぶせるということ。メーカーとしては、自社の商品を買い続けてほしいわけですが、特にこだわりがなく、どれでもいいからビールを買って帰りたい人は、他社商品に浮気しがちです。しかし自動発注は、その人の選択に左右されずに自社商品を次々と送り続ける(購入してもらう)ことができるので、そのチャンスロスの機会をつぶせるのです。

次回は、「STOCCA」と「Smart Beer Storage」を応用してできたプロダクトについて解説していきます。

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