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新潟の長岡にある松田ペットが現代アートなので知ってほしい

ガチャガチャになりました

監修協力させていただいたカプセルトイ「例の看板」松田ペットエコバッグが遂に「日本全国で」発売となりました!企画お声掛けいただいたケンエレファントさん、快く許諾をくださった松田社長、ありがとうございます!

私はかれこれ7年以上松田ペット看板マニアをやっているのですが、昨年同じくケンエレファントさんからリリースされた「マニア豆本」ラインナップ入りに続き、単独企画としてカプセルトイ化されたことで感慨もひとしおです。
推しがメジャーデビューを果たした気持ちでやり切った感があります。

全国のガチャスタンドに並ぶことで、これまでご愛顧いただいている界隈の皆さんに加え、「なんだこれは」と興味を持ってくださるご新規さんがいるのではないかと思い、せっかくなのでビギナー向けにその魅力を解説していきます。

とはいえ、既に長岡市の公式メディアでいい感じの記事が出ていまして、大体のあらましはこちらを読んでいただければ分かるようになっております。まずはこちらをお読みいただければと思います。

真面目に、現代アートとしての価値を提唱する

じゃあこの記事は何なんだよ、と言いますと他メディアではやや控えめに主張している「松田ペット看板はガチの現代アートなんだよ」ということを全力で解説したいんです。

真面目です。

私は「ちょっと面白いローカルネタを擦ってるコミケで評論島にいるオタク」と言われればそれはそうなんですが、それとは別に現代アートの側面から松田ペット看板を真面目に評価したい人なんです。

とはいえ、学問として美術を学んだわけではない素人ですので、願わくばこのエントリーを本業美術評論家の方にお読みいただき、専門的な立場から松田ペット看板の現代アートとしての価値・希少性を評価してくださると嬉しいなァ…などと思う次第です。

評価すべき点①認知の隙を突く差分

4枚貼り小屋(反対側も2枚あります)

松田ペット看板はほとんどがこの犬3匹のフォーマットで描かれています(以下「松田三連星」と呼ぶ)
これらがすべて手描きで一つとして同じものがない、というのはもはや有名な話です。
これ、小千谷の近藤さんという看板絵師が長年描き続けているわけですが、例えば漫画家も長年やっているとだんだん画風が変わったりしますが、同じように30年の歴史の中で近藤さんの画風もびっくりするぐらい変わっています。
実際に古いものと最近のものを並べてみましょう。

左が古いタイプ、右が最近の看板です。
もはや別人の作では。

で、こうやって並べると最近松ぺに触れ始めた私なんかは「すごい違うwww」となるんですが、驚くべきことに地元では意外とこれ絵が異なっている気が付いていない人が多いのです。

この差があって気が付かない。凄くないですか。
この理由には3つの要素があると推測していて、

  1. 長年長年少しずつ差異を蓄積していったために気が付かない

  2. 数が多すぎて一つ一つ気にすることがない

  3. フォーマットが徹底している

ということだと思うんですね。広告なのでこういうと本末転倒でもあるんですが、絶妙に住民がその差を認知しない要素で構成されているわけです。
で、このすり抜けの中で数十年を過ごしてきた後で「手描きなのかよ!!」
と気が付いた時、途轍もない衝撃が走るわけです。

人は、意識をしていないものはこんなにも「見えていない」。

今まで自らの人生の片隅に存在していたいつもの風景がこんなに多様性にあふれていた。こんなに違うのに見逃していた。これまでの人生でどれだけの差異(看板)を認識せずに過ごしてきたのだろう。
この、地元住民に起こる後悔にも近いパラダイムシフトこそが松田ペット看板が現代アートであると私が提唱する最大の理由です

無意識の認知の薄さを思い知る。

このパラダイムシフトを体感できるのは、残念ながらほとんどの場合ネイティブや長く長岡で生活している人に限られているでしょう。手描き看板で全部違うんだぞ!という我々松田ペット看板マニアの触れ込みで松ぺに興味を持った人には、残念ながら一生味わえない衝撃です。ごめんね。

評価すべき点②メメントモリ

廃棄されていく看板

松田ペット社長は「看板が古いと金がない会社だと思われる」との考えから、5年を目安に看板を取り換えてしまいます。
といっても、どの看板を取り換えに行くかは社長のみぞ知るといった感じで、比較的新しいものでもササっと取り換えられてしまったり、逆に社長が忘れているのか何年も残り続けるパターンもあります。
また、設置されている建造物が潰されて看板ごと消えるパターンもよくあります。
レアなパターンとしては、小屋のペンキ塗り替えで看板を外した後ずっとそこら辺に置きっぱなしで朽ちるというのも。

数が多いのでついつい、いつでもそこにあると思っている看板が思いがけないタイミングで消えてしまう様は、まさしく芸術における普遍的なテーマ「メメントモリ(死を思え)」を体現しているのです。

今はもうない看板

いつもそこにあった風景が突然に失われるというイベントは、災害時はもとより日常生活でもたびたび起こるものです。
長岡においては、松田ペット看板という景観上のアンカーポイントが各所に存在しているおかげで、その消失の様をより明確に認識できるようになっています(※松田ペット看板に注目している人に限る)。

死を思え。いつまでもあるとおもうな推し看板。お気に入りの松田ペット看板は、見つけた時に写真に収めておきましょう。

評価すべき点③他ではなしえない、奇跡の時間的・空間的スケール

看板それぞれが唯一無二の存在であることに加え、この総体としての「松田ペット看板」という概念の存在もまた、唯一無二であるといえます。

何せ、このアートはまず時間的スケールがぶっ飛んでいます。
何事も30年続けるというのは大変なことです。
コストのかかる看板制作やめない経営努力と、協力してくれる近藤さんとの良い関係を維持する社長の人間力。
(近藤さんは「月曜から夜ふかし」で早くやめたいとか言ってたけど)

松田社長と近藤さんが人生の年月をかけて作り上げてきたこの作品は、同じことをやろうとしてもそうそうできることではありません。
長い年月でやってきたからこそ、①で解説したような認知の隙間に滑り込む芸当も可能になっているわけです。

また、その空間的なスケールも相当ぶっ飛んでいます。
詳しくは拙著「例の看板フォトグラフコレクション」でも解説している通り、松田ペット看板はエリアによって濃淡はありつつも、長岡市+見附市+小千谷市=1,124平方キロメートルという信じられないほど広大なエリアに展開しています。
1,124平方キロメートルというのは、ChatGPTに聞いたところ東京23区の約2倍だそうです。
東京23区の約2倍のエリアに、長岡市に一店舗だけ存在するペットショップの広告看板が展開されている。
マニアながら、ちょっとどうかと思うレベルです。単純な広さで言えばきぬた歯科には敵いませんけど、これを手描き看板で数百枚、社長自らバンで走って回って挨拶して看板取り付けているわけです。
いわば、東京23区の約2倍の面積をカンバスにして30年以上アートしている男たち、それが松田社長と近藤絵師ということ。
こんなこと誰もできないでしょう。世界中探してもそうそうないんじゃないでしょうか・・・

唯一無二、誰にも真似できないアートが長岡にはあるんです。

今すぐに見に来てほしい

そんなわけで二人の男が(たぶん)意図せず築いてしまった超弩級スケール奇跡の現代アート「松田ペット看板」、気になった方はぜひ長岡を訪れて本物を見てもらいたいと思います。
新幹線で東京から一本ですから、その気になれば日帰りも可能です。

松田社長と近藤絵師、お二人ともとても元気でいらっしゃいますが、なんせ高齢です。
ファンとしては末永く看板を続けてもらいたいと思いつつ、今こうしてカプセルトイが全国発売するなど最高に脂ののった状態ですから、松ぺ鑑賞ツーリズムを推奨するならもう「いつ行くの、今でしょ!」と言いたいのです。

こんな奇跡の塊みたいなアート、一部のマニアにしか知られていない状態で話題性のピークを過ぎてしまうのはあまりにも惜しいのです。

ぜひ訪れて話題にしてください。
おもしろローカルネタに留まらずアートとしての希少性を体感して下さい。
ガチの美術関係者の方も、評価をお待ちしております。

私の最終的な野望は看板のMoMA NY収録です。
(まあ、松ぺ看板は長岡にあるから現代アートなんですけどね)

良かったら同人誌も買ってください

ここまで書いてきた内容はだいたいこちらの書籍の文章部分にも記述しています。
23年5月現在、常に入手できるのはメロブ通販とJR新潟駅ぽんしゅ館クラフトマンシップのみとなっています。
その他作者の参加するコミケ等の同人誌即売会で頒布中。
貸し出し中でなければ長岡市中央図書館にもあります。

より詳しい解説が写真を交えて展開されていますので、気になるという方はぜひご一読くださいねッ!(松田ペット店頭サイネージ風)


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