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オープンソースロボット「OTTO」を使った取り組み(3)

こんにちは、ファブラボ神戸のシェアメンバー(運営)として活動しております、ysです。ファブラボ神戸内では、昨年頃からOTTOというオープンソースロボットを使った取り組みを行っています。

前回の投稿では、​ファブラボ神戸のメンバーがコロナ禍で取り組んだOTTOの組立ワークショップについての経緯をご紹介しました。本投稿では、​このワークショップをきっかけにして実施できた、多拠点とのコラボレーションについてご紹介します。

ファブラボ浜松さんによる「遠隔アーティストレジデンス」

ファブラボ浜松さんは、静岡県浜松市西区で活動している、日本で指折りのファブラボです。代表の竹村氏が、御実家の農機具納屋をDIYで改造したスペースに、デジタルファブリケーションツールを設置して運営されています。郊外ゆえ、都会ではできない自由なものづくりが取り組めること、利用者や他の拠点とのネットワークが幅広くて強固な事が特徴です。私も以前はファブラボ浜松さんの内部で色々と活動させてもらっており、今でも定期的に交流があります。

そんなファブラボ浜松さんは2020年夏、タイ・バンコク在住のアーティスト、ヘンリー・タン氏を浜松に迎え、アーティストレジデンスプロジェクトを検討していました。しかし、​世界的パンデミックの発生により、タン氏の来日は残念ながら断念することになりました。
それでも、何か代替の共同プロジェクトができないかと検討を進めておられました。そこで企画されたのが、「遠隔」のアーティストレジデンスです。ネットを通じて、タン氏"自身"と浜松にある様々なプロダクトを接続し、そのプロダクトにタン氏の振る舞いと連動させることで、あたかもタン氏が浜松に滞在しているように「感じさせる」事を目指すもの。現代の技術ではリアルタイムで会議だってできますが、そうしたコミュニケーションの方向性とは違う「存在感」のようなものを意識するものです。そして、これをテーマにした展覧会が企画・開催されることになりました。
この企画が進んでいた頃、神戸ではちょうどOTTOのワークショップを行っていました。ファブラボ浜松さんと情報交流する中でOTTOを紹介した際、ファブラボ神戸からもOTTOをベースに遠隔プロジェクトに参加してみてはとお誘いを頂きました。それは、OTTOのネット接続できるように改良する、ということを意味していましたが、私としても展覧会や技術面でとても興味があったため、有り難くお誘いを受けることにしました。

OTTOへのネットワーク接続機能の実装をどうするか

OTTOをこのイベントに出展させて頂くにあたり、私と同じく、浜松とは遠方に住んでいる元メンバー氏に協力をいただき、OTTOへのネットワーク機能実装に取り組むことになりました。
過去の記事でも触れましたが、OTTOはArduino Nanoをベースとしたロボットで、標準機能ではネットワーク接続機能を持たないため、WiFiモジュール等を新たに追加しなければなりません。その一方で、Arduino IDEとの互換性を持たせる必要もありました。これは、OTTOプログラミングのプラットフォーム「OTTO Blockly」を使ったブロックプログラミング機能を維持するためです。
そこで、WiFi機能を持った別のユニットをOTTOへ追加実装し、Arduino Nanoとシリアル通信させる方針で検討を始めました。

OTTOのサイズを考慮すると、追加のWiFiモジュールにあまり選択肢は無く、すぐにM5StackシリーズのAtom Liteモジュールを使うことに決まりました。WiFiだけでなく様々な機能を搭載したマイコンなので、目的からするとオーバースペックではあるのですが、小型で安価、しかも開発環境が整っている、等といった数々の利点がありました。分担としては、私がOTTO内部のメカ設計を担当し、同じく遠方参加の元メンバー氏には電気回路とプログラミングを担当していただきました。

Atom Lite実装 メカ設計について

Atom Liteがいくら小さいWiFiモジュールとはいえ、さすがにOTTOの外形を変えずに内部へ実装するのは厳しいものがありました。せめて、あまり違和感の無い形でのみ外形変更をすることに決めて設計した結果、OTTOの背面に、OTTOを取り付ける追加ケースを取り付けられるデザインを採用しました。
ここで意識したのが、Atom LiteをOTTOへの電源供給源としても利用することです。標準型OTTOは電池駆動を前提に考えられていますが、当然ながら寿命があるため、イベント中のでもを電池駆動させ続けるのは厳しい。さらに、OTTOは4つのサーボモータを歩行用に搭載していることから、電源ON時にモータへ突入電流が走ってしまいます。これにより、Arduino Nanoへ十分な電流が供給されなくなり、CPUの動作が不安定になる傾向も確認できていました。そのため、浜松でのイベントでは有線による電源供給がしたいと考えていました。
OTTOへ有線で電源供給する場合、Arduino NanoのUSB miniコネクタへ供給することになりますが、OTTOの側面へケーブルを水平に差し込むデザインのため、ケーブルの重さによって左右方向の重心が変わってしまい、OTTOが動作中にバランスを崩す原因になっていました。単純に不格好にも見えました。そこで、OTTO背面にAtom Liteを立てて接続し、Atom Liteの垂直方向のUSB-CコネクタからOTTO全体に電源供給ができるようにすることで、ケーブルが目立たないだけでなく、バランスを崩すことも無くしました。イメージしたのは、エヴァンゲリオンのアンビリカルケーブルです。

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Atom Lite拡張ブロックの3Dデータはこちらで公開しています。

Atom Lite実装 電気設計

Atom LiteとArduino Nanoの電気回路については、遠隔メンバー氏である方に担当していただきました。メカ設計でも書いたとおり、OTTOへの電源供給をAtom Liteを経由して行う仕様としていますので、Arduino NanoとAtom Lite電気的インターフェースは、①電源供給と②シリアル通信を目的に行うことになります。
電源は割と単純です。Atom Lite側面にある5V出力端子とGND端子を、Arduino Nano側のVin端子に接続することで実現できます。一方シリアル通信は、Arduino Nanoが5Vレベル信号なのに対して、Atom Liteマイコンは3.3Vレベル信号で駆動する端子を使用します。Atom Liteからの3.3V信号をArduino Nanoは受け取ることができます。Arduino Nanoの5V信号をAtom Liteが受け取ると、Atom Liteが壊れてしまうかもしれません。そのため、Arduino Nanoの5V信号のレベル電圧を、3.3Vに落とした上でAtom Liteへ入力します。そのための追加回路を設計して頂きました。抵抗器を使って電圧を分散させるテクニックで、中学校の理科の延長で動作原理が理解できると思います。
これらの内容は、こちらのFabble記事にて詳しく解説されていますので、ぜひ覗いてみてください。

Atom Lite実装 遠隔通信

OTTOは、ヘンリー氏@タイの身体情報を遠隔で受け取って動作することになります。通信にはMQTTプロトコルを利用しています。MQTTは、IoTのような、低スペックで情報量の少ないデータをネットワーク経由で容易に通信させることに特化したプロトコルです。ファブラボ浜松さんがイベント全体用にMQTTブローカーのサービス契約をしていただいており、OTTOもそれを利用する形となりました。
Atom Liteは、Arduino Nanoとのシリアル通信と、タイとからのMQTT通信を受け取る機能を持ちます。Atom Liteも、OTTO Blocklyのようなブロックプログラミングプラットフォームが準備されています。シリアル通信ブロック、MQTTブロックを組み合わせてAtom Liteへ書き込むこととしました。

ちなみに、タイ側から送られてくるデータというのは、ヘンリー氏の脳波です。現在、脳波を読み取るヘッドセット型ガジェットがAmazon等でも市販されています。

これを使い、脳波が今どのような状態にあるのかをPCで読み込み、解析した上で4つほどの脳波状態に分類し、それを浜松側へ送信する方針を取りました。OTTO側は、その4種のステータスを受け取るごとに別の動きをするようプログラムしました。脳だけで感情を正確に予測することはできませんが、あくまで例として、4種を喜怒哀楽に見立てて動作を組み込みました。

今回のMQTT通信のベース部分を担当された方の記事についても紹介いたします。

イベントの様子

遠隔アーティストレジデンスの企画は、2020年11月1日〜14日の2週間の会期でしたが、初日にはオープニングイベントが開催されることになっており、OTTOを含む様々な遠隔作品群をお披露目することになりました。私達は当日の朝から現地での設置立ち上げに取り組み、皆様のご協力のもと無事にOTTOの遠隔動作を実現させ、無事にイベントを迎えることができました。その結果、完成したのがこちらの動画です。(後日Twitterへアップしたものです)

過去のワークショップで製作したOTTOすべてに追加改造を施し、WiFi経由で信号が届くと、一斉に動き出す様子はなかなか圧巻でした。

当日は、ファブラボ浜松さんの他の作品も多数展示されました。会場となった鴨江アートセンターさんの方で記事化されていましたので、是非御覧ください。

当日は、展示会オープニングのメインイベントとして、タイで遠隔情報システムを構築したタン氏と浜松の竹村氏らとの遠隔トークイベントが開催されました。
現場で配布されたタイのフライヤーにも、タン氏と竹村氏の対談が掲載されており、とても示唆に富む内容でした。コミュニケーションインフラの形態ごとに制約内容が異なるため、何が盛り上がるか、何が連携を取りやすいのか等、遊びの成立仮定もまた変わってくるという話は、とても興味深く拝読致しました。その制約の中、自然と形成される文化やローカルルールの紹介等が、通常のコミュニケーションでは生まれ得ないものだったそうで、私は、リモート会議やSNSで謎の暗黙ルールやマナーが生まれた事を思い出しました。

当日、私はOTTOを浜松に置いたまま神戸へ戻りました。2週間展示されたイベント中、OTTOは動作を続け、部品のあちこちガタが来つつも、なんとか無事に会期を終えることができました。まさか神戸のメンバーの小さな興味から、ここまでイベントが展開するとは思っておらず、不思議な体験をさせて頂きました。

次回の投稿では、また別方向へ展開したOTTOのプロジェクトについてご紹介致します。

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