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SF名作を読もう!(6) 『夏への扉』

今回お薦めするのはこちら。ロバート・A・ハインラインの傑作というか快作(とにかく気持ちの良い作品!)『夏への扉』です。

繰り返しますが、とにかく気持ちいい! もちろん主人公は過酷な状況にも置かれますが、それでも読後感が何とも気持ちいいのは、その性格(主人公のユーモアと皮肉を兼ね備えた性格)とハインラインの文体/あるいは訳者である福島正美氏の翻訳文体にあるでしょう。

厳密に言えば、このシリーズでいろいろ考察してきた観点から言えば、これはもはやSF小説ではないかもしれません。設定としてSF的なものを借りた小説なのかもしれません。しかしそれでも面白いし、魅力的! これに勝るものがあるでしょうか。なんだかんだ言ってもSF小説はエンターテイメント小説です。そしてエンターテインメント性には当然文学性も含まれます。その意味でこの作品は文学であり、SFであり、エンターテインメントです。

そして「猫」。私個人はどちらかと言えば猫派よりも犬派ですが、猫の魅力と生態というものをこれほど的確に描いた小説はあまりないでしょう。そして繰り返しますが、これはあくまでSF小説なのです。SFというジャンルは基本的にロボットやAIといった非生命体を生命体として描くところにその魅力と特徴があります。しかし、この作品は「猫」というまさに捉えどころのない生命体を捉えどころのない生命体として描いているのです。そしてそれでもなおSF小説なのです。このありえなさと凄さ、これこそがハインラインの真髄であり、ハインラインのSF小説の真髄と言えるでしょう。そう、これはもはやSFというジャンルの小説ではなく、ハインラインというジャンルの、あるいは「猫」というジャンルの小説なのです! 正直に告白しますが、これを改めて読んでやられました。SFというジャンルにこだわっていたわたしに対して、この作品は「お前のSFの定義は狭いんだよ!」という事実を突きつけてきました。この点についてはこれからより深く考えていきたいと思いますが、もしかしたらSFというのは「ジャンル」を指すものではないのかもしれません。

ということで、とにかく一度こち固まってしまった頭を殴られたい人、「夏への扉」(ここでは「可能性への扉」の比喩という意味で使われていると個人的には考えます)を開きたい、と思っている人にはおすすめの一冊です。

是非、お読みください!



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