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15. プログレという言葉だけでは片づけられない傑作:フランク・ザッパの『Hot Rats』

さて、今回お薦めする名盤はこの度映画も公開される天才フランク・ザッパが1969年に発表した『Hot Rats』です。

ロック、ジャズ・ロック、ブラック・ミュージック、ジャズ・フュージョン、パンク/ニュー・ウェイヴ、ファンク、レゲエ(以上、ウィキペディアの記述より引用)といったジャンルを自由自在に行き来したザッパだけに、どのアルバムがベストかは人によって違うでしょうが、個人的にはこの『Hot Rats』をお勧めします。今の音楽に慣れてしまった現代人の耳で聞くとエフェクターがあまりかかっていない曲、つまりはシンセがメインの曲などは音が薄く、いわゆるゲーム音楽みたいに感じられるかもしれません。しかしそこはテクノロジーと想像力で補いましょう。DTMソフトのプラグインを使えば音を厚く加工することができます。それでも足りなければとにかくボリュームを上げましょう。そうです。ボリュームです。この時代の音をこの時代の感覚で聞くにはとにかく大音量が必要です。

さて、ザッパと聞けば、ああ、あのプログレの人ね、と答える人が多いでしょう。しかし、そもそもプログレとは何なのか。プログレ=技術と知識が高い、古典的(クラシック的)要素も理解したうえで、それをロックに取り入れている、と定義すれば確かにそうでしょう。ザッパも音楽的には知識人ですし、楽器だけでなく機材にもこだわります。しかし、プログレ、プログレッシブとは本来的には進歩的、という意味です。つまり新しいのです。そしてそこでの新しさとは音楽的なものだけではなく、むしろ生き方を刺した方がいいでしょう。つまり変化し続けるということです。技術と理論にこだわるとそこで人は歩みを止めてしまいます。深化はあっても進化はありません。

ですので、このアルバムもあくまでザッパという進化し続けた人のある一部分、ある一時代を切り取っただけのものとも言えます。しかし、だからこそそこには進化に向けての動きが記録されているのです。基本的にはインスト部分には即興が多く、その意味でジャズ的なのですが、即興とはまさに既にあるものの繰り返しではなく、常なる新しいものを作り出していくということです。例えて言えば細胞分裂のまさにその瞬間を音にしたものが即興なのです。胚としての細胞はその細胞のどの部分が分裂後どの方向に進むのかはまさに分裂して見ないと分かりません。ロック的になるのかジャズ的になるのかブルース的になるのか、まさにジャンルは後付けになります。そしてそれこそが、ジャンルが常に後付けになるというのがザッパと言う人の本質なのです。このアルバムにはその魅力が、その魅力の秘密が詰め込まれています。

ということでお薦めです。是非お聴きください。


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