見出し画像

SF名作を読もう!(13) 『ニューロマンサー』

さて、久方ぶりのこのマガジンへの記事ですが、それだけ読むのに時間がかかったということです。

ということで今回取り上げる作品はウィリアム・ギブソンが、サイバーパンク、サイバースペースという新しい世界観を立ち上げた歴史的作品『ニューロマンサー』です。

https://amzn.to/47yhNEt

この作品、刊行当時に読んでいたのですが、今読んでみるとかなり印象が変わっていました。当時はその世界観にクラクラする思いだったのですが、今見てみると、かなりダークでノワールというかハードボイルド小説の印象が強いです。おそらく、サイバーパンク、サイバースペースという概念が一般化したからなのかもしれませんが、しかし、SF作品の魅力はその世界観にこそあるという点は、このNoteで何度も確認してきた通りです。その意味で、この作品は、決して色褪せない名作です。

今回読んで、改めて思ったのは、今、流行りの「メタバース」と「サイバースペース」は原則的にというか、根本的に違うものなのだということです。「メタバース」が「もう一つの世界」なのであれば、「サイバースペース」はコンピューターの神経系です。そこは言ってみれば、人間で言えば睡眠時に見ている夢の世界です。夢の中でうまく走れないように、もがいているけれどもうまく進めないように、サイバースペースでの活動は基本的にもどかしいですし、時間も空間も混乱しています。そこに乗り込むのが「カウボーイ」である主人公です。暴れ馬を乗りこなし、その時間を競うという比喩から来ているのですが、この比喩がサイバースペースにはぴったりです。「メタバース」には残念ながら、この緊張感、この不安定感はありません。そこは安全な空間です。

そして、その意味で「メタバース」の映像化に比べ、サイバースペースの映像化は難しいでしょう。ある意味、「夢」を映像化するわけですから、それはシュルレアリズム的なものとなってしまいます。そしてシュリリアリズムにおいて排除されるべきものは意味であり人の意識です。事実、この『ニューロマンサー』小説としては読みづらいというかついていけない部分があります。それは決して翻訳の問題や使われているサイバー用語のためだけではないはずです。思えば、シュルレアリストのアンドレ・ブルトンが描いた『ナジャ』はナジャという謎の女に巻き込まれるような形でパリの街が異界として立ち現れてくるような小説でした。そしてこの『ニューロマンサー』も「モリィ」という魅惑的な女によってサイバースペースに引きづり込まれる話でもあります。ただ、違いは引きづられる側も男も「カウボーイ」であったという点です。

とにかく、この『ニューロマンサー』、時代を切り拓いた作品であることは間違いありません。まだお読みでない方は、是非お読みください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?