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28. アーティストとしての「キズナアイ」:『Kizuna Ai 1st Live ”Hello world ” at Zepp Osaka Bayside(2018.12.30)

前回のこのマガジンではPerfumeの新作アルバムを紹介したが、Perfume のすごいところは人間ではできないレベルのことを人間でやってしまっているというところにあろう。人間ではできないこととは即ちAIだからこそできることである。

Perfumeが今のPefumeとして認知されたのは2007年の「ポリリズム」からであろう。そして奇しくもあのボーカロイド「初音ミク」が発売されたのも2007年であった。つまり、ある意味Perfumeは、そのオートチューンによる音声とも、併せボーカロイド的な曲を人間が歌うグループとして世に出たのである。そして逆の言い方をすれば「初音ミク」は「Perfume」的な歌声を作成できるソフトウェア―として人気を博したのである。

そして、そこから時を経て2016年に誕生したのが、いわゆるバーチャルタレントであるキズナアイである。最初はYouTuberとして活動を始めたのだが、すぐにタレントとしてCMデビュー、写真集デビュー、声優デビュー、歌手デビューとその活動の幅を広げることになる。そして2018年12月29日と30日には「バーチャルYouTuber史上初・史上最大規模の単独2daysライブ「Kizuna AI 1st Live “hello, world”」」(「 」内オフィシャルサイトから引用)を開催することになる。そしてその模様が収められているのが、2019年5月発売の1stフルアルバム「hello, world」のいわゆる「ボーナス」としてのDVDである。その後、いわゆるコロナ禍のもと、実際に人を集めてのライブ開催が難しくなったため、キズナアイもシンガーとしてのその活動の舞台をウェブ空間上に移さざるを得なくなったため、このDVDは歴史的瞬間を収めた価値あるものとなっている。

そしてこのライブDVD、一言で言えば「圧巻」である。大げさな言い方かもしれないが、生身の人間によるライブとバーチャルキャラクターによるライブが同じレベルへと引き上げられたまさにその瞬間の記録と言えるであろう。キズナアイはあくまで舞台上のスクリーンに映るキャラクターである。しかし、観衆はもはやそれをキャラクターとしては見ていない。そこに存在する人間として見ているのである。キズナアイはとにかく観客とインターアクト、コミュニケーションしている。もちろんその背後にはいわゆる「中の人」がいるのであろうが、観衆にとっては「キズナアイ」は「キズナアイ」としてそこに存在し、自分たちの声援に答えてくれている。これを「人間」と言わずして、何が人間だろうか。単に与えらえた時間で与えられた歌を歌う「人間」も多い中、「キズナアイ」はしっかりと観衆とのコミュニケーションを持とうとしているし、実際持てている。このあたりの態度と精神は「Perfume」にも通じるものである。もはやアイドルとしてではなく、我が道を行くアーティストとして十分にやっていける「Perfume」であるが、それでも「アイドル」としてのファンとのインターアクト、コミュニケーション」を忘れることはない。そして「キズナアイ」もそうである。そして、その意味で「キズナアイ」は自分がアイドルであることを十分に意識している存在であると言えよう。アイドルとはファンあってこその存在なのである。逆の言い方をすればアイドルであるためにはファンとの交流(インターアクション)が必須なのである。

そしてそれを「キズナアイ」はこなしている。これは改めて考えてみればすごいことである。なぜなら何度も言うようだが「キズナアイ」はあくまでバーチャルな存在だからである。生身の人間性、言い換えれば「中の人」性を出そうとすれば、それは「キズナアイ」が「キズナアイ」である所以の「バーチャル性」を打ち消すことになる。しかし一方で「バーチャル性」を強調すればそれは「キズナアイ」の「人間性」のほうを否定することになる。その絶妙なバランスの元、開催され、成功を収めたのがこの「Kizuna AI 1st Live “hello, world”」であったと言えよう。残念ながらその後、キズナアイのライブはコロナ禍のもと全面バーチャル化(ウェブ空間化)されてしまった。ここで提示されたその可能性は、その後検証されていない。現在活動休止中(スリープ中)のキズナアイであるが、復活後は改めてこの道のフロントランナーとして活躍してくれることを期待している。



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