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アマゾンプライムお薦めビデオ② 72『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』

この映画、あのDommuneで特集していたので気になっていたのですが、公開時には見逃してしまい、「あー」と思っていたところ、早速Amazon Prime videoにアップされていました。まずはそれだけで感激です。この数年コロナ禍のため、見たかったけど見れなかった映画も多かったと思います。それをさっそく配信で取り上げてくれることはありがたいことです。

そして、さらに感激というか改めて「スゲー」と思ったのは、Dommuneではあくまでファッションと音楽を取り上げており、映画の内容については踏み込んでいなかった点です。「こんな映画なのか!」「こう来るのか!」という映画としての衝撃を残しておいてくれる(というかこの映画はその衝撃のほうがむしろ「売り」の映画です)、しかしそれでもちゃんと2時間越えの番組を作れる、それがDommuneの恐ろしいところですと改めて思い知らされました。

と、Dommuneへの絶賛から入りましたが、とにかくこの映画、60年代のロンドンのファッションと音楽、というその表面的なスタイルと、この映画の実際の内容とのギャップこそがまずは魅力です。一見、ファッション映画、おしゃれ映画と思わせておきながら、その実はいわゆる「事故物件もの」と言われるジャンルのホラー映画だったりします。まあ、一言で言えばそのギャップでしょう、このテーマでこのスタイルでこの内容なの?というギャップ=衝撃です。そしてそのギャップが見事に効果を生んでいます。

「ジャンルレス」とか「ジャンルミックス」などいう言葉は『パラサイト 半地下の家族』で繰り返し語られた言葉であり、ある意味この映画もそのジャンルに位置づけられるのかもしれません。しかし、『パラサイト』が、ある意味意識的にそれを狙ったのに対し、こちらの方は結果的にそうなった、と言っていいでしょう。60年代と今をリンクさせようとすれば、そこには、何らかの断絶がありますし(そしてそれ=断絶を今の時代に生きる我々は、考えなければいけない)、その断絶を踏まえた上で繋げようとすれば、「ジャンル」という枠自体を一度見つめ直さなければならないからです。つまり、「ジャンル」という枠が、未だ存在していたのが60年代だとすれば、現在はもはやそうではない、そのような「枠」自体が意味をなさなくなった、ということです。そして、そうであることこそが今の時代の「おしゃれ」であり「ファッショナブル」なのです。「枠」はある意味「思想」でもあります。そしてその「思想」を薄めて「枠」だけにしたのが「ファッション」です。そしてこの映画はその「枠」を亡くしたことで、改めてその「枠」=「思想」を考えさせてくれます。言ってみれば60年代的な生き方はなんだったのか、という「思想」であり「問い」です。

さて、そしてファッションと同じことは音楽についても言えるでしょう。今の我々は60年代の音楽を単なるファッションとして聞くでしょうか。いや、そうではないはずです。我々はむしろ60年代の音楽を聴くことで、当時の「思想」を再確認しているのです。そして、その意味で60年代の音楽は決して古くはなくむしろ新しいのです。事実、この映画は「現代」から始まりますが、最初のうちは「この時代設定はどうなっているのだろう」と映画を見ている我々は戸惑います。主人公が60年代のファッションをして、60年代の音楽を聴いているからです。そしてやがてそれが「現代」であることがわかると同時に、今度はその主人公が田舎町からロンドンに出てくる時に我々は同じことを感じます。なぜなら、ロンドンという町は、とくにソーホーというエリアは表面的な部分でこそ変化はあるものの、その基本は何も変わっていないからです。これも先に「事故物件もの」という言い方をしましたが、ロンドンという町、ソーホーという町自体がそもそも「事故物件」なのです。我々がそこに(事故物件に)感じるのは禍々(まがまが)しさとともにノスタルジアです。事故物件とはある事故を境に時が止まっている場所です。そこでは「つらさ」と「なつかしさ」が同居しています。そしてある意味では、我々が住むすべての土地、場所にはこの「つらさ」と「なつかしさ」があり、その積み重ね(罪重ね)の中に、我々は生きているのです。そこの映画はその事実を、見事に映画として、映像表現として、その当たり前を当たり前に、そして斬新に描いています。

さて、この映画、監督は、あの傑作『ホット・ファズ』から、この傑作『ベイビー・ドライバー』へと見事な展開を遂げたエドガー・ライトです。個人的にはこの後でもう一度『ホット・ファズ』『ワールズ・エンド』路線へとの再展開を期待しているのですが、それこそがまさに「ジャンルレス」「ジャンルミックス」の監督としてのエドガー・ライトの真骨頂でしょう。つまり、この監督は音楽の本質と町の、都市の本質を分かっているのです。だからこそのその選曲のセンスの良さなのです。「ジャンルレス」「ジャンルミックス」とはまさにDJの仕事なのです。あの曲の後にこの曲をかけることによって、あの曲にもこの曲にも存在していた意味や思想をあぶりだし、そしてそこに新しい意味付けを与える、それこそがDJの仕事なのですから。

ということで、この映画、音楽好き、ファッション好き、映画好き、ホラー好き、60年代好きといったすべての〇〇好きの方々にこそお薦めの1本です。我々は決してあるジャンルが好きなのではない、あるジャンルが確かに好きだけど、そこには縦のつながりもあれば、横のつながりもある、時間のつながりもあれば場所のつながりもある、それを改めて確認させてくれる映画です。

と、とにかくすごい!『ホット・ファズ』『ベイビー・ドライバー』など比べると決して「傑作」ではなくあるいみ「秀作」かもしれませんが、それだけに、見て損はないお薦めの1本です。是非ご覧ください!

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