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アマゾンプライムお薦めビデオ② 80  『マイ・ブロークン・マリコ』

さて、今回ご紹介するのはこちら。タナダユキ監督の秀作『マイ・ブロークン・マリコ』です。

期せずして前回紹介した男の墓場プロ制作の『怪奇!! 幽霊スナック殴り込み!』で主演をしていたタナダユキ監督の作品となりましたが、この人、何を隠そうあの傑作の『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』等を撮った名監督です。

そして本作もスゴイ!90分程度の作品で恐らく監督としても軽く撮ったのでしょうが、それでもこれだけの作品が撮れてしまうのが凄い。主演の永野芽郁もいいし、ブロークンなマリコを演じた奈緒もいい。さらに言えば窪田正孝もいいし、出演時間的には短いですが、尾美としのりもいいし、吉田羊もいい。とにかく、出てくる人出てくる人全員に感情移入ができますし、同時にこれはキツイとも思わせてくれます。どちらか一つの感情だけなら簡単なのですが、このように両極端の想いをもたらせてくれる映画はなかなかありません。そしてそれ故に傑作と言えます。

ストーリーは、と言えばネタバレになるので避けますが、程度の差こそあれ、我々はブロークンな、即ちどこかが壊れている人間です。それでもなんとか社会や周りとバランスを取っていける人もいるし、そうはできない人もいる。さらに言えば、今はバランスが取れているとしても、それがいつ崩れるかは分かりません。つまりは、バランスを取るためにはある程度初めからバランスを壊しておいた方がいいのです。この映画の主人公の永野芽郁演じるシイちゃんはそれができる人ですし、それができるが故にそれができないマリコと「ダチ」の関係を続けられますし、逆に言えばマリコがいないと自分のバランスが崩れてしまうのでしょう。そして一方のマリコはそれができない人です。故に、残念な結果となり、その結果がまたシイちゃんを苦しめてしまうのですが、おそらく本人はそこまで考えられなかったのでしょう。その意味でまさに「ブロークン」なのですが、「ブロークン」なのは実はマリコ本人の性質と言うよりも、シイちゃんにとっての、シイチャンとの関係に置いてのマリコなのです。その意味でこのタイトルは「ブロークン・マリコ」ではなく「マイ・ブロークン・マリコ」なのです。シイちゃんにとっては「私のマリコ」は「ブロークン」でいてほしかったし、ある意味それで良かった。そんなマリコだから「ダチ」なのです。

なお、この映画、原作はウェブマンガだそうです。その後単行本にもなったようですが、そんな予備知識がなくても、十分楽しめるし、この映画だけでしっかりとした独立した作品になっています。原作ものを映画化するときはどうしても「要約」的なものとなってしまいますが、この作品はそうではありません。もちろん原作自体があまり長いものではないということもあるのでしょうが、小説の場合はやはり言葉でロジカルに伝えるものであるのに対し、マンガの場合はある意味エモーションをそのまま伝えるものであるからでしょうか。事実、この映画はそのエモーションをそのまま作品にしているとも言えます。「エモい」というのは即ち感情を直接的に揺さぶられるという感覚です。そして「直接的」であるとは言葉ではなく、映像で示す、ということです。それが映画ですしそれが映画の魅力です。この映画にはその「エモさ」が満ちています。

ということでお薦めです!是非、ご覧ください。


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