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アマゾンプライムお薦めビデオ② 77 『閉鎖病棟 それぞれの朝』

この人が出ている映画であれば間違いないという俳優がいる。韓国映画ではソン・ガンホがそうであるし、日本映画で言えば、蒼井優、大竹しのぶ、役所広司(いずれも敬称略)といったところであろうか。そして意外かもしれないが、笑福亭鶴瓶師匠もその一人である。今回紹介するのはその鶴瓶師匠主演作品『閉鎖病棟 それぞれの朝』である。

落語というのは究極の一人芝居であり、その意味で落語家さんが演技がうまいのはある意味当然であろう。柳家享太郎師匠などもその一人であるが、とにかくこの人がいるだけで映画として締まる、という落語家さんがいる。鶴瓶師匠はテレビでのバラエティの印象が強いため、映画での演技とのギャップが大きいが、ラジオDJ役としてほぼ本人そのままのキャラクターで出演した映画デビュー作である渡瀬恒彦と川谷拓三の文字通りの狂った演技が光る「狂った野獣」(1976)から始まり、メインどころに抜擢された相米慎二監督の「東京上空いらっしゃいませ」(1990)、そして初主演を張った西川美和監督の「ディア・ドクター」(2009)と翌年の山田洋二監督の「おとうと」(2010)など、そのフィルモグラフィーを見るだけでも多くの名監督に愛され、年齢を重ねるごとに落語家としてのみならず役者としても腕を磨いてきたことが確認できる。世間的には「タレント」と見なされる鶴瓶師匠であるが、「タレント」とはそもそもが「才能のある人」という意味である。その意味では、今の日本で、真打の落語家さんほどタレントの人はいないと言ってもいいであろう(上方落語には真打昇進という制度はないようだが)。

しかし、この映画、決して鶴瓶師匠一人のものではない。鶴瓶師匠以外にも「やっぱりこの人がいれば間違いない」、という人たちがしっかりと存在感を示しているし、あっ、こんな人もいるんだ、という新しい発見もある。「やっぱりこの人」、という点では、小林聡美、木野花、平岩紙、高橋和也、ベンガル、根岸季衣、片岡礼子ら(いずれも敬称略)の名を挙げれば分かってもらえるだろう。いずれもいわゆるスター俳優ではないが、単独で主役を張れる実力者たちである。そして「あっ、こんな人も」という意味ではやはり小松菜奈と綾野剛であろう。もちろん今やトップスターの二人であるが、このメンツに囲まれるとまだまだ新人ではある。しかし、演技と存在感共に決して負けてはいない。この二人が今後の「この人が出ている映画であれば間違いない」という俳優となっていくであろう。そんなことを確信させてくれる映画である。

と、俳優陣をほめたが、もちろんこの映画、映画としての出来も良い。監督は「愛を乞うひと」の平山秀幸監督であるが、平山監督と言えば忘れてはいけないのは「学校の怪談」シリーズであり、特に「学校の怪談4」は子供向け映画シリーズとしておくにはもったいない名作である。思えばここでも存在感を放っていたのはやはり落語家の故笑福亭松之助師匠であった。

ある意味年を取ればとるほど味が出るのが落語の世界であるが、それをそのまま映像の世界に持ってくるのは難しい。なぜなら、落語の場合はあくまでその話(噺)の世界にいかに引き込むか、つまりはいかに現実の世界から噺の世界に観客を持っていくかが落語家としての腕の見せ所なのに対し、映像の場合はその落語家本人の姿かたちがそのまま画面に映ってしまうからである。その意味で鶴瓶師匠や松之助師匠はやはり稀有な存在であると言えよう。スクリーンに映るのはある意味「キャラ」としてのその人の姿である。映画スターとは基本的にその「キャラ」が際立ってっている人のことを指す。しかし、落語家さんの場合は、そのキャラ自体が落語家というキャラ、つまりは複数のキャラを演じることのできる人というキャラである(事実、うまい落語家さんほど地味な顔をしていたりする)。鶴瓶師匠や松之助師匠は自身のキャラも立てつつ(=タレントとしても活動しつつ)、しかし、同時に落語家として他のキャラも演じることができる人たちである。だからこそ映画の世界でも活躍できるのであろう。この映画にはいわゆる「スター」はいない(強いて言えば綾野剛がスターだろうが、この人はスター性を隠せるスターである)。しかし「役者」は揃っている。そしてその「役者」を見事に使うことのできる監督もいる。

と、そんなことを考えさせられた映画でした。
お薦めです!是非ご覧ください。


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