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18. 古くても新しい、あるいは古いからこそ新しい。メビウス率いるハルモニアの名盤『De Luxe』

前回までの流れで言えば、次はブライアン・イーノの『Another Green World』(1975年)、そしてその次はクラフトワークの『アウトバーン』(1974年)を紹介せざるを得ないが、これまでの流れでもう1枚、メビウスがハルモニア時代に残した名盤『De Luxe』(1975年)を紹介しておきたい。

前回書いたようにある意味前衛的であった『クラスターⅡ 幻星』(1969年)に比べるとこちらはもう、完全にアンビエントと言っていいでしょう。リズムもメロディラインもしっかりしており聞きやすいものとなっています。なお、アンビエントといえばブライアン・イーノの『Another Green World』(1975年)の方が有名で、同年発売であるにも関わらずこちらはどうしても陰に隠れてしまいますが(個人的にはスケッチ集的なイメージの『Another Green World』よりもこちらの方が好き!)、負けず劣らずの名盤であることには間違いありません。69年(というか私の勉強不足でそれ以前にも当然存在していたはず)に生まれたテクノ/アンビエントの流れが75年になりジャンルとしても成熟したと言えるでしょう。しかし相変わらず、というか当然ながらその前衛性が失われているわけでもありません。だって、テクノ/アンビエントというジャンル自体が前衛なのですから。

さえ、私見ではありますが(当時はまだ子供でこの手の音楽は聴いていなかったため)、当時はテクノもアンビエントも少なくとも日本ではロックの下位分類的な扱いであったと思われます。あるい「フュージョン」がそうだったようにジャズの下位分類だったのかもしれません(事実、当時はあのマイルスがエレキトリック方向に走っていた時代であり、それは「フュージョン」として捉えられていました)。そしてこのアルバムもアンビエントではあるがロック的でもジャズ的でもあります。だからこそ聞きやすいし、日本のファンにも広く受け入れられたのでしょう。恐らくメビウスの名前が日本で広く(と言ってももちろん一部好事家の間ではあるが)知れ渡ったのもこの時代でしょう。そしてそこからさかのぼる形でクラスターも再発見、再評価されたのでしょう。つまり、面白いことに、時代的には古い方がむしろ新しいものとして捉えられたということになります。

ダウンロード配信時代になって、新曲、新譜というものの意味がなくなったとよく言われますが、実はそのようなことは既に70年代でも行われていました(おそらく多くのビートルズファンも過去に遡る形でアルバムを掘っていったのでしょう)。そして多くの音楽ファンが過去をさかのぼることで発見するのは、その古さではなくその新しさなののほうなのです。このマガジンでも期せずして3回に渡りメビウスの関わったアルバムを紹介してきましたが、実は古くても新しいものというのがあり、それこそがまさに「前衛」なのです。それを知っていただきたく、この記事を書きました。


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