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SF名作を読もう!(2) 『2010年宇宙の旅』

これを続編というべきか、完成版というべきか意見は分かれるでしょうが、個人的には完成版と言った方が適切だと思います。

前編にあたる『2001年宇宙の旅』はあくまで映画ありきの作品でした。小説版はある意味後付けでそれをカバーしたものである感は否めません。おそらく作者のアーサー・C・クラークもそれを感じていたのでしょう。小説版『2001年』でも一応の説明をしていたモノリスの役割やその背後にある生命体、そしてHALの問題行動の謎を10年以上の年月を経て改めて書き直したものがこの『2010年宇宙の旅』だと言えます。しかし、だからと言ってクラークが映画版の『2001年』に納得いっていなかったとは言えません。むしろ映画には誇りと自信を持っていたでしょう。事実この『2010年』は小説版『2001年』の続編というよりも、映画版『2001年』の続編と言えます。舞台が土星から木星にさりげなく変更されている点がそれを物語っています。

ネタバレにならないよう、本の内容には踏み込みませんが、クラークがSF界の巨匠である所以は、やはり地に足ついたその科学知識にあります。「あり得ない状況に陥った場合、人はそれに対してどう対応するか」というのがSF小説の基本設定です。そしてその際に人が(人類が)とる手段は「科学」です。この作品でもその魅力が十分に発揮されています。

その意味で、話が大きすぎにならないというのも、クラーク作品の魅力です。大きくなりすぎれはそれはもうSFの枠を超えて、むしろファンタジーとなってしまいます。この話も基本的に舞台はあくまで太陽系内の話です。なぜなら、今の(というかこの作品が描かれた1982年時点での)科学で説明できるにはせいぜいそのくらいだからです。そして、宇宙の話と並行して描かれる科学のもう一つの方向性はコンピューター、クラーク自身はその言葉を使ってはいませんが、今で言えばAIです。この『2010年』は見方を変えればAIであるHALの再生と贖罪の話でもあります。クラークは明らかにA Iを生命体として、命ある存在として描いています。そしてその生命体、命の概念はモノリスの背後にある生命体にも通じます。1982年時点で、そしてさらに言えば『2001年』執筆の1968年時点でそこまで考えていた知性が存在したことには改めて驚かされます。知性とは?命とは?生命とは?がクラークの、そしてSF小説一般のテーマでありますが、まさにクラーク自身が高いレベルの「知性」「知的生命体」です。

この作品、前回紹介した『2001年』(映画版も含む)と合わせて、お薦めです!是非読んでみてください。






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