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9mmが20周年ベストアルバムを「配信限定」で発売する理由と分析

皆さんは、CDかデジタル配信か、どちらで持ちたいと考えていますか。サブスク配信全盛の今日、音楽を持たず、インターネット経由で聞くことが増えました。一方、音楽をダウンロード購入して、音楽データを持ちたい人がいます。CDの売上が低下しているなか、今もコレクションとして、CDを持つ人がいます。

ブリの推しバンドである、邦楽ロックバンド、9mm Parabellum Bullet(以下9mm)は、長い活動のなかで、音楽媒体が変わってきました。従来のCD発売の一方で、デジタル配信を積極的に行っています。CDとして持つか、デジタル媒体として持つか、サブスク配信で音楽にアクセスする、どれかの形態で音楽を扱うことが増えました。ブリはある日、9mmのCDをコレクションのために探していたら、ベストアルバムを見つけました。それはバンド結成10周年記念に発売されたものでした。

9mm Parabellum Bullet『Greatest Hits』(2014年)
バンド結成10周年記念のベストアルバム

9mmは過去に、ベストアルバム1枚を発売したことがあります。バンド結成10周年である、2014年にシングル楽曲のみを収録したベストアルバムを発売しました。その年は、個人事務所の設立、10周年記念の日本武道館ライブ2日間、ベストアルバム発売と、バンドにとって転換期でした。

あれから10年後、2024年に9mmはバンド結成20周年を迎えました。今年7月31日に、20周年記念のベストアルバムを発売することを発表しました。現時点でアルバム名とジャケットデザインは決まっていません。今回のベストアルバムは、シングル楽曲のみを収録するのではなく、9mmファンの投票で収録楽曲を決める予定です。「ファンで作るベストアルバム」のような感じです。
最もブリが驚いたのは、今回のベストアルバムはCDではなく、デジタル配信限定として発売します。9mmのアルバム作品で初めて、CDを出さずに、デジタル配信のみで発売することになりました。今までにない発売方法で出すことに、一部の9mmファンは驚きました。

今までにない発売方法に驚いたブリは、このことを分析した記事を執筆したくなりました。なぜに9mmは20周年記念ベストアルバムをCDではなく、デジタル配信のみで発売するのか、理由をまとました。あくまでもブリの独自分析なので、メンバー本人の意図とは関係ありません。



★コストパフォーマンスの良い発売方法

CDは年々、売上が減少しています。1990年代に起きた、CDの高い需要と売上は二度と戻りません。9mmがバンド結成した2004年には、まだCDのミリオンセラーが続いていました。しかし、2000年代はデジタル配信の発展が少しずつ進んでいくなか、CDのミリオンセラーは出にくくなりました。2010年代はCDにおまけを付ける商法が流行して、アーティストの売上記録を伸ばしましたが、一時しのぎでした。サブスク配信が発展していき、2020年代にはサブスク配信の売上がCDの売上を超えました。CDにまつわるレンタルサービスも、再生機器も、減少しました。もはや、CDは過去の媒体として見られるようになりました。

デジタル配信が広く展開された2010年代、アーティストから配信シングル楽曲の発表が増えました。9mmは2014年に初めての配信シングル楽曲、『生命のワルツ』を発表しました。この楽曲は配信後、カップリング曲を加えて、CDで発売されました。あくまでも、「CD発売前の宣伝」としての配信でした。9mmがデジタル配信を始めてから、シングルCDの発売が減少しました。

9mm Parabellum Bullet『生命のワルツ』(2014年)
9mm初の配信シングル楽曲。CD版のジャケットが
隠れたデザインになっている。

この様子から、CDとして出すより、デジタル配信として楽曲を出すほうがコスト面、時間を考えたら、効率が良いと思っているように見えます。なぜなら、CDを作るのは本当に手間がかかります。メジャーシーンでも、インディーズシーンでも、CD1枚にかける費用は、豪華なバイキングが食べられるくらいの金額です。分かりやすく言うとそのくらいです。ジャケットデザイン、CD本体のプレス、流通と、作って売る時間がかかります。その分の費用を返せるくらい、売れないといけないので、ライブコンサートで稼ぐのです。
ここまでコストと時間がかかって、発売するまで時間がかかると困ります。特にデジタル配信時代の今、すぐに発表できないと、リスナーに注目されるタイミングを逃すからです。早めに作って、少ない費用で済ませたいアーティストにとって、配信のほうが長所が多いのです。


★デジタル媒体をファンに浸透させる

「CDを買うことが推しアーティストのため」と考えるファンが多いです。それはデジタル配信が、あくまでも「CD購入をうながす宣伝」にすぎないと思われているからです。CDを購入することによって、アーティストへの収入が大きいからです。一方、デジタル配信はCDより収入が少ないです。でも、どちらの媒体でも、アーティストへの収入になるので、購入したり、サブスク配信で聞かれるだけでも、アーティストにとって、うれしいのです。

9mmの固定ファンは主に30~40代が多く、CDで育った世代です。1990年代のCD全盛期を子供時代に見ていました。ブリもその一人です。一方、9mmを知った若い邦楽ロックファンである、20代はCDに接する機会が減少している世代です。デジタル配信に慣れています。固定ファンのなかには、「CDとして出してもらいたい」と望む意見があります。
今までの9mmの配信シングル楽曲のなかには、固定ファンのために、配信シングル楽曲のCDをライブ会場で配布したことがあります。あくまでも、ライブ会場のグッズとしての役割です。

長く活動しているアーティストは、音楽媒体の変化に対応する必要があります。アーティストだけではなく、ファンもこの変化に合わせないといけないのです。そのために、CDだけではなく、デジタル配信も展開するのです。そうすれば、新規ファンの獲得だけではなく、固定ファンにも浸透していくからです。固定ファンにデジタル配信の習慣を広めないと、楽曲を聞くことをためらうからです。音楽媒体の違いで、新規ファン、固定ファンを分断してはならないのです。9mmの配信のみのベストアルバム発売は、決して固定ファンを切り捨てるような発売方法ではないと思いました。今日の音楽環境で楽しむ新規ファンだけではなく、固定ファンのためにもなるのです。


★CDの中古流出対策

CDとして発売すれば、リスナーが購入すると思いきや、実は難しい問題があります。それは、誰かがCDを買って、用が済んだら、すぐに中古市場へ売って、中古で安く手にしたい人が集まります。つまり、リスナーが新品を買ってくれず、中古市場で売り買いされて、アーティストの売上につながらないのです。
近年、フリーマーケットサイト(以下フリマサイト)のような個人間取引が普及してから、このような問題がアーティストとレコード会社を悩ませるようになりました。ファンにとって、「アーティストの売上のためにはならない」と不満を持つ方もいます。一方で、悪質なのは、ファンではないのに新品でCDを買って、フリマサイトで高く売る行為が起きています。これは「転売」と呼ばれて、第三者の利益のために商品が買い占められて、倫理的によろしくないと思われています。

実は9mmのCDで、よくフリマサイトで高く出されたのは、ライブ会場限定のCD、イベント抽選グッズ、シングルとアルバムの初回盤とその付録です。数の少ない商品は高く売られる傾向があります。過去に転売行為が乱発したことはありませんが、このように第三者が儲かって、アーティスト本人が儲からない状況は見過ごせません。断捨離だったら良いですが、転売目的の取引は問題です。

コストをかけて、CDを出しても、新規で買ってくれなくて、中古に流出する。そして、アーティストの収入にならずに損する。このような問題があるので、コスト削減と中古流出対策のために、配信のみの発売にしたと思います。


★「ファン参加」の企画アルバムを強調

ちょっとした余談ですが、ベストアルバムといえば、アーティストがヒットしたシングル楽曲のみが収録されて、新規ファンを獲得するために、アーティストの活動の節目で発売される、企画アルバムです。一方で、ファンの中には、以下のように、否定的な姿勢でベストアルバムを買わない人がいます。

「オリジナルアルバムがあるから、また同じシングル、アルバム楽曲が入るなら買うことない」
「新曲がないなら買わない」
「レコード会社が利益を増やすためにファンに買わせようとする、心理が見えるから買う価値がない」

ベストアルバムに対して否定的なファン

これらの意見から、一部のファンは「ちっともファンのことを考えない売り方」だと、思われています。なぜなら、ファンが企画に参加している実感が、ベストアルバムに全く現れていないのです。レコード会社が一方的に売りたい姿勢が強くて、代表曲を集めただけの内容になりがちです。
以前に企画アルバムをまとめた記事で、ベストアルバムの存在意義に対して、首をかしげるツッコミを書きましたが、「気になるアーティストの代表曲を一気に聞きたい」と思う人には需要があります。

9mmの場合、10周年記念のベストアルバムの時は、レコード会社による一方的な企画で、9mmファンが介入するところはありませんでした。
10周年記念のベストアルバムは、2014年に『Greatest Hits』と題して、通常盤と初回盤の2形態で発売されました。通常盤は2007年から2013年までの9mmのシングル楽曲を集めたCD1枚です。
初回盤はシングル楽曲が収録されたCDに加えて、メンバーが厳選した歴代ライブ音源の楽曲を収録したCD1枚が入り、2枚組になっています。このベストアルバムは、9mmが個人事務所を設立してから初めての作品です。そして、ベストアルバム発売後に9mmは当時所属していたレコード会社、ユニバーサルミュージックから、現在の日本コロムビアに移籍しました。

9mm、10周年記念ベストアルバムの中身。
紙ケース付き、CD2枚組。
DISC1が代表曲収録、DISC2がメンバー厳選ライブ音源。
メンバーのライナーノーツ付き。

今回の20周年記念ベストアルバムは、10周年記念ベストアルバムとは違う企画が盛りこまれました。それは「ファン投票で収録曲を決める」、「ファンが作ったプレイリストを募集する」、これらの企画です。
ファンが9mmの20周年記念の特設サイトから、好きな3曲を選んで、投票するという流れです。代表曲だけじゃなく、アルバム楽曲、カップリング曲が入るかもしれない。9mmメンバーも、ファンも期待が最も高まる投票です。
そして、ファンが考えた、好きな楽曲のプレイリストを募集して、9mmメンバーが優れたプレイリストを選ぶという企画があります。ファンとのコミュニケーションを取るために、好きな楽曲の組み合わせを聞いてみる、おもしろい企画です。

これらの企画内容から、「ファン参加型の企画アルバム」を示して、単なるベストアルバムではないことを強調しているように思えます。


★まとめると現在の主流へ合わせるため

以上、9mmの20周年記念ベストアルバムを配信のみで出す理由と分析をまとめました。現在の主流である、デジタル配信へしっかり合わせるため、ファンにこの方法を浸透させておくのです。そして、物理媒体の中古流出によって、商品にかけたコストをムダにしないよう、コスト面と時間で効率が良い販売方法を選んだと思われます。「サブスク配信から気に入ってくれたら、配信を買ってください」と、リスナーに購入をうながすようにしています。
あと、ベストアルバムに対する否定的な姿勢を持つ、ファンに対して、「ファン参加型の企画」を強く示しています。10周年記念アルバムの二番煎じにならない内容です。
CDをめぐる環境の変化で、CD販売が減るのは避けられないでしょう。今後、邦楽ロック界では「デジタル化、脱CD」の動きが増えていくと思われますが、アーティストの表現の一つとして、CDはあえて残すと思います。

最後に、バンド結成10周年が過ぎて、19周年、20周年も迎えるとは思いませんでした。ここまで9mmが活動して、全部で130曲も作られました。ここからどんな楽曲がベストアルバムに収録されるのか、楽しみです。

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