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残念なワインの世界

ヨーロッパからの輸入ワインで星が葉っぱをかたどったマークがついたものを見かけませんか?これはEUの有機ワイン認証のマークです。有機ワインってなんでしょうか?簡単にいうと有機栽培されたブドウをつかって、2012年から新たに施行された「ワイン作りのルール」を守って作られたワインのことです。環境にたいする意識が高まっていく中で、農薬を使わない有機栽培自体は良いとはおもいますが、この「ワイン作りのルール」というやつが実は曲者で、有機ワインとそうでないワイン(普通のワインとでもしておきましょう)とではルールに大きな違いはないのです。

ワインは調整アルコール飲料?

それをビジュアル化したのが上の画像で、左から普通のワイン(黒ラベル)、そのとなりが有機ワイン(緑ラベル)、そのとなりがデメテールという機関が認証をだすビオディナミ、右端がナチュラルワインです。(今日はビオディナミとナチュラルワインについては書きません。)ボトル上の白い文字がワイン作りのルールで、簡単に言えばやって良いこと、使って良い物質が書かれています。白文字の面積が多いほど、合法的にいろんな加工や調整ができるというわけです。普通のワインと有機ワインを比べると文字の占める面積があまり変わらないですよね。そう、なんとなく聞こえがいい有機ワインですが、普通のワインと同じくらい多くの調整や加工が許されているんです。念の為2つのボトルに書かれていることを調べたところ、黒ラベル51項目にたいして緑ラベル36項目まで同じ。酸化防止剤(保存料)も同じでその添加量には3割ほど差があるだけです(赤ワインの場合。有機ワインの方が少ない)。こういうルールが生まれたのは、環境保護や健康嗜好のトレンドを感じ取って商売拡大をねらった多くの業界関係者(大手ワイン生産者など)の「涙ぐましい努力」、言い換えれば自分たちもブームに乗れるようにおこなったロビー活動、のたまものなんです。ワインはもちろんブドウが原料ですが、このワインづくりのルールが示すとおり加工と調整から生まれたワインも多くあるんです。私はこういうのは調整アルコール飲料と呼んでいます。そんな調整して作るものは味が画一化されていて個性も何もあったもんじゃない。私は20年以上この業界にいて、とくにイタリアとスペインのワイン生産者に詳しいのですが、2012年以来「有機ワインまつり」かのように多くの大手生産者が有機ワインづくりにシフトしています。その結果、ラベルに品種と産地が書いてあるからその違いが辛うじてわかるような、明らかに加工されたワインが大量に生まれています。

有機ブームの問題

畑の環境的に農薬があるからブドウが作れるみたいなエリアは数多くあります。いや、農薬なしでブドウを作れる場所というのは本当は少ないといったほうが正しいかも知れません。世界で毎日1億本以上消費されている有名なイタリア産スパークリングワイン*がありますが、そんな量のブドウをこのせまいイタリアでどうやって作れます?そのために栽培エリアを拡大し(これも格付けのルールを変えて)ブドウ作りなんて考えられなかった場所で農薬を大量にまいて作ってきたものを、有機ブームと見てとると数年かけて有機栽培の認証をとって、病気のブドウでも(環境が悪いのですから病気は出ます)なんとでも加工できるので味を調整して流行りの有機ワインを大量生産しているんです。農薬を使わないのは環境のためには良いことでしょう。しかし問題はこうしたブームに乗って作られた有機ワインは何の特徴もないので、宣伝のために「環境」だとか「持続可能」だとかという言葉を盛んに使っていること。「有機ワイン」が生まれるずっと前から、地道に環境を守り持続可能なブドウ栽培をして、加工しないで土地の味がするワインを作ってきた生産者にとっては迷惑きわまりない状況が生まれています。最近は流行り言葉をつかうだけではあきたらず、なんとかワインメーキングとかいう多少は英語の分かる私でも考えさせられるようなカタカナを使い、さらにエシカル消費とかいう、倫理観のかけらもない大量生産加工ワインに「倫理を持ち出す」という、禁じ手としか思えない宣伝も見かけるようになりました。本来は手本とされて良い生産者を攻撃するかのようなこんな傾向は、真面目な生産者を直接知っているものからすると腹立たしくてなりません。そんなに売りたいなら正直に「ブームに乗って安く作って見ました、普通にワインっぽい味はします」的な宣伝文句でも使ってなさい。酒屋さんには「加工調整有機ワインあり〼」ってお知らせでも貼ってもらってください。そのほうがよっぽど倫理的だろうと思います。さらに言えば、エシカルだなんてわかったようなわからないような言葉まで持ち出しては消費者を混乱させるだけでしょう。真っ当な生産者と素直な消費者を馬鹿にするような嘘っぱちな宣伝はすぐに改めて欲しいものです。

*もちろんこのワインの全ての生産者がそうなのでは決してありません。土地の味と環境を守ろうと頑張っている生産者たくさんいます。もともと生産エリアとして決められていたものが、世界中でブームとなり生産量を増やすために「え、こんなところまで広げて、じゃあ前までのあの規定ってなんだったの?!」と驚くべき拡大が行われました。加工調整アルコール飲料の生産者は主にそういう拡大された、本来はエリア外だった生産域に多いです。生産エリア拡大にともなって取り返しのつかない環境破壊も起きています。この点についてはまた別の機会に。

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