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アメリカで人工妊娠中絶の禁止が起きている背景から見る、中絶のお話

こんにちは。プレイリー株式会社の川中琴花です。
 
このプレイリートピックスでは、皆さんに性に関する社会課題について知ってもらい、興味関心をいだいてくれることを目標にしています。
 

アメリカで広がる中絶禁止州。その実態を分かりやすく解説します!

現在アメリカでは、連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利であるとした49年前の判決を覆したことで、人工妊娠中絶の賛否を巡って対立が激化しています。
中絶を行うクリニックの前では、連日各地で論争が巻き起こっています。今後、全米のおよそ半数の州で中絶が厳しく規制される見通しとなっており、アメリカ国内の分断を招くことにもなりそうです。アメリカで女性に中絶手術を提供してきた医療団体「プランド・ペアレントフッド」の調査によると、妊娠可能年齢の約4割にあたる女性約3600万人が、今回の最高裁判決によって中絶手術を受けられなくなるといいます。

日本人である我々にはなぜアメリカでは中絶に関してこんなにも対立が激化しているのか理解しにくいかもしれません。アメリカで中絶問題が大きな議論となる理由には、キリスト教信者が過半数を占める国であるという宗教的な背景があります。そしてアメリカは先進国の中での最も「キリスト教原理主義」的な国家でもあります。
 そのため、キリスト教的な考え方や倫理そのものが「伝統的価値」になるアメリカでは、伝統的なキリスト教の立場から妊娠中絶を極めて否定的にとらえる人も少なくありません。結果として、避妊や中絶を認めない保守派と社会的公正や多様性を重視するリベラル派の対立の溝は深まりつつあります。

そもそも、アメリカの中絶法とはどんなもの?

 アメリカでは、1973年の最高裁判決にて「中絶は憲法で認められた女性の権利」として人工妊娠中絶を合憲としました。きっかけとなったのは、南部テキサス州の妊婦が起こした訴訟です。「母体の生命を保護するために必要な場合を除いて、人工妊娠中絶を禁止する」とした州の法律は女性の権利を侵害しており違憲であるとして訴えたものでした。最終的に連邦最高裁は、「胎児が子宮の外で生きられるようになるまでなら中絶は認められる」として、中絶を原則として禁止したテキサス州の法律を違憲とし、妊娠後期に入るまでの中絶を認める判断をしました。これが判例となり、以後およそ50年にわたって、「中絶は憲法で認められた女性の権利である」とされてきました。

なぜ今になってそれが再び覆されようとしているの?


その原因は、アメリカの連邦最高裁の人数比にあります。アメリカの連邦最高裁は、最高裁判官が9人で、一般的には保守派とリベラル派の比率が4:5または5:4になるように構成されています。そして、合衆国憲法にて最高裁裁判官は終身制であると定められており、最高裁裁判官は、死亡するか自ら退任した場合のみ、大統領が後任を指名することができます。現在のメンバーは、トランプ前大統領が任期中に保守派の判事3人を指名したことで、保守派6人、リベラル派3人と保守派が多数となっています。オバマ前大統領のときには、保守派4人、リベラル派4人、中道派1人でしたが、トランプ前大統領の任期中にリベラル派の2人と中道派の1人が相次いで引退したため、保守派とリベラル派のバランスが崩れてしまったのです。結果として今回の判決は、保守派判事6人とリベラル派判事3人の思想的な違いがそのまま反映されたものとなりました。

連邦最高裁の判断を受けてトランプ前大統領は声明を発表し、「きょうの判断は、私が国民に約束したとおり、高く評価されている3人を最高裁判事に指名し、承認させたからこそ実現したのだ」として、任期中に3人の保守派の判事を指名したのは、自分の功績であると強調しました。

アメリカの世論は賛成?反対?

今後およそ半数の州で中絶が規制されるアメリカですが、世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が1995年から行っている調査によると、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」と考える市民の割合が一貫して上回っています。今月発表された最新の世論調査も「合法とすべき」が61%を占め、「違法とすべき」の37%を大きく上回りました。
また、今月23日に調査会社「ギャラップ」が発表した世論調査では、連邦最高裁を「信頼している」との回答が25%にとどまり、昨年と比べ11%低下しています。

賛成派
 マリアン・ピース・センターという4000人超えのキリスト教団体の運営者、バーバラ・スミスさんとその仲間は、中絶処置を提供する建物の前で「中絶反対」を唱え、マリア像を手に賛美歌を歌い祈るイベントも行っています。彼女は、中絶に対して「たとえこの世の法律で合法であろうと、神の法の下では最大の罪です。妊娠の瞬間から私たちには産む以外のチョイスはありません。授かった命を殺す権利は誰にもないからです」と述べています。中絶反対派の多くは、受精した段階から一つの命と考えるため、中絶を「殺人」とみなします。彼らの主張は「命は神からの 賜物たまもの 」などと説くキリスト教信仰に基づくものなのです。

反対派
コロンビア大など各大学の公衆衛生専門家らが7日に中絶制限に警鐘を鳴らす最高裁宛ての書面を公開し、合法で安全な中絶の機会が失われ、女性を危険に晒すと強調しました。この書面では望まない妊娠をした女性が、中絶と比べて死亡リスクが14倍高い出産を強いられることになると指摘しています。また、書類のなかでは中絶が厳しく制限された州の女性は、他の州で中絶するために平均400キロ余計に移動しなければならないとの試算もあります。処置が遅れて合併症の危険が増すほか、中絶自体を諦めることもあり得ると懸念を示し、最高裁に「科学や公共の福祉を考慮して判断すべきだ」と訴えています。

日本への影響はあるの?

このようにアメリカ国内で対立が激化するなかで、なかには日本にも影響があるのではないかと考える人もいると思います。私が色々な状況を踏まえた上で出した結論としては、直ちに大きな影響があるわけではないですが、真剣に向き合う必要があるテーマだと思います。とはいえ、日本もアメリカと似たような未来にならないとは断定しきれないですし、近年では日本でも生理の貧困やフェムテックなど女性の抱える社会問題をキーワードにした話題が挙がるように、人工妊娠中絶の話が日本でもホット・トピックになるでしょう。

日本の人工妊娠中絶の現状は?

日本では人工妊娠中絶は母体保護法に定められた適応条件のある場合のみ指定医師の判断によって行う必要があります。人工妊娠中絶手術は、妊娠週数によって方法が大きく異なります。簡単に説明すると、初期中絶手術は子宮内容物を掻き出す・吸い出す方法であることに対して、中期中絶では出産と同様に入院し、分娩することになります。中絶は身体への負担が大きくなるだけでなく、死亡届を提出する義務があることなど女性の心身への負担も大きくなります。そんななか注目されているのが、手術を伴わない経口中絶薬です。(緊急避妊薬いわゆるアフターピルは異なるものです)日本ではまだ承認されていない方法ですが、経口中絶薬とは、その名の通り中絶に有効な作用を持つ服用薬です。2種類の薬を順番に服用することで、妊娠の継続を止め、排出させる働きがあるとされています。ですが、さまざまな理由によりまだ日本では承認されていません。経口中絶薬は従来の手術よりも安全性が高い方法であるため、女性の体への負担を減らせる理由などから2000年ごろから広く世界で普及し、現在、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オーストラリア、タイ、台湾、インドなど65カ国以上で認可され、WHOの必須医薬品に指定されています。
→日本の人工妊娠中絶のお話は次回詳しく説明します!

さらに日本は経口中絶薬が承認されていないだけでなく、中絶を行う際には、相手の方の承認を得る必要もあるなど、このように日本の人工妊娠中絶の現状も決して完璧だとはいえません。人工妊娠中絶の是非や肯定されたとしてもその条件や方法などみんなで考えていく必要がある課題はたくさん残っています。その際、私たちはきちんと問題を捉え、何が論点なのか、どう変革する必要があるのかなど考え、未来が誰にとっても暮らしやすい社会を実現する必要があるのではないでしょうか。

私の考え

今回の論点は、中絶を認めるか、否かですが、この論争の背景には宗教やアメリカの歴史などの原因が複雑に絡んでおり、また多くの人の大切な命が掛かっている問題であるため、自分は〇〇党だから、〇〇教徒だからといって、きちんとこの問題に向き合わないまま、容易に賛成派か反対派かを主張し、抗議することは少し危険だなと思いました。

調べたことを踏まえ、私の考えは中絶を認めるべきだという結論に落ち着きました。確かに、「胎児にも人権がある」という考えにも納得しますし、宗教について深く理解できていない私が頭からそのような考え方を否定することはできません。ですが、中絶は女性にとって命に関わる問題で、その後の人生にも大きな傷跡が残ります。中絶を認めることは子供の命を軽んじることに繋がるのではなく、女性にとってもしものときの「寄りどころ」を提供することになると思います。女性一人ひとりにはそれぞれ異なる人生があり、そのなかで沢山悩み、考え、中絶をするかしないかという選択を決断します。中絶をする女性もそうでない女性も、社会全体は大きな決断をした女性に寄り添い、安心で安全な医療が提供される場であってほしいと思います。

性に関する社会課題は決して他人事ではありません。今は自分に繋がりはないと思っていても、将来的に自分が、あるいは自分の子供が、また大切な友人が直面するかもしれない課題です。しかし、性について理解を深めることは、人生をより豊かに生きることができるというポジティブな側面もあります。一人一人が自分の体や心を大切にし、自らの意思で自己決定を行えることは基本的人権の一つでもあります。
だからこそ、性に関する話題はプラスの意味でもマイナスの意味でも、私たちの生活と深く関わっているとても大切なことなのです。

最後に

最後になりましたが、私たちことPlayrieの紹介です。

私たちPlayrieは福岡市に拠点を置く会社です。
「自分の性を好きになれる世界に」というビジョンを掲げ、性に関するあらゆる社会課題の解決を目指しています。

多角的な取り組みを通じて、性的なものやことが好きでも嫌いでも、どんな人を好きになってもなれなくても、世界中のあらゆる人が自分の性のあり方を好きでいられる世界を作るために様々な取り組みをおこなっています。


参考文献

米連邦最高裁 “中絶は女性の権利”だとした49年前の判断覆すhttps://www.bbc.com/japanese/61303413

アメリカで中絶権認めた判例覆す最高裁の多数意見草案、異例のリークhttps://www.bbc.com/japanese/61303413

Roe v Wade: Abortion clinics start to close after Supreme Court rulinghttps://www.bbc.com/news/world-us-canada-61933814

産婦人科医に聞く、日本の中絶医療の課題
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/247/

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