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『Taylor Swift・evermore』アルバムレビュー【音楽】


Taylow swift

Evermore

今作は先日レビューさせて頂いたテイラーのアルバムfolkloreの続編という形をとっており、 前作の大ヒットから4ヶ月、彼女が出した答えは熱が冷めない内になるべく多くの曲をリリースすることでした。

このアルバムを制作するのにあたり彼女はインタビューでこのように述べています。

「簡潔にお伝えすると、曲を書くのがやめられなかったのです。詩的に表現するならば、Folkloreの森の境に立った私たちには、ふたつの選択肢が見えていました。ここで引き返すか、音楽の森をより深く探求するか。それで私達は、探検を続けることを選んだのです。」

今作も17曲1時間と多くのトラックにて構成されており、

前作に負けない位重厚な仕上がりで、

前作と今作が2つ合わさった時初めてこの本のような物語のチャプターの終わりが見えてきます。

また前作同様bon iver,the national、更に新たにHAIMというビッグゲストを迎え、第三者の目線で書かれた曲達はまるで一冊の物語のような、世界観がナルニア国物語のような印象を持ちました。

アルバムの全体的な印象は1曲1曲が同じような雰囲気を纏いつつも、

ベースにある大きな基盤が曲ごとに別れているので1本の同じ色なのだけれどグラデーションがついている線のようなアルバムです。

前作との違いは前作の曲達は非常に内向きでそれはテイラーの隠された日記を読むような印象に近かったのに対し、今作はもっと明るくオープンに開かれたサウンドで、もう何も隠すことはないの。

全て見てくれて構わないと言われているかのような過去作にあるポップなサウンドも紛れています。

1. "Willow"

最初のイントロで雪の降るアメリカの田舎を想起させるような懐かしい前作同様の内向きなサウンドで始まったかと思うとサビでは45度サウンドが変わり、

The more that you say, the less I know

Wherever you stray, I follow

I'm begging for you to take my hand

Wreck my plans, that's my man

というサビのハイピッチの対比が同じメロディーの中で奏でられる様は

同じ景色を違う季節に見ている見たいです。


2. "Champagne Problems"

中音域のベースでひたすらなり続けるピアノのバッキングサウンドに響き渡り婚約者を振る

Because I dropped your hand while dancing

Left you out there standing Crestfallen on the landing Champagne problems

Your mom's ring in your pocket My picture in your wallet

Your heart was glass, I dropped it Champagne problems

という切なすぎる歌詞は

悲劇をヒロインを演じ続けてきた彼女が誰かにむけたごめんねにも聞こえます。

3. "Gold Rush"

個人的にこの曲の滝のようなフローと自由なライムをこのアルバムの中で一番好きです。

良い意味で気取らずにそのままの感情を筆に走らせたような歌詞

But I don't like a gold rush, gold rush 

I don't like anticipatin' my face in a red flush 

I don't like that anyone would die to feel your touch

Everybody wants you 

Everybody wonders what it would be like to love you 

Walk past, quick brush 

I don't like slow motion, double vision in rose blush 

I don't like that falling feels like flying 'til the bone crush

 Everybody wants you 

But I don't like a gold rush

は秋の紅葉の葉を撒き散らす風のようです

6. "No Body, No Crime" (featuring Haim)

今作と前作を合わせても曲のトーンが似ている分殺風景な印象を受けた方もいるかとはいますが、そんな白黒な印象を一気に彩る6"No Body, No Crime" (featuring Haim)は構成が非常に上手に構築されていて、

最初はhaimのesteを主人公とした彼女の彼氏が不倫をしたところから

彼女が彼氏を殺害したことへと徐々に変わっていく様を

I think he did it, but I just can't prove it (He did it)

They think she did it, but they just can't prove it

という歌詞で映画的に表現する点に関しては素晴らしいですし

エミネムのstanのようなジメジメとしたシンセの音がアルバムに緩急とバラエティを同時に生み出します。

8. "Dorothea"はこのアルバムの中で一番キャッチーで前作でいうとbettyのような曲です。

ダンシングなピアノの上に付随される、都会にでて活躍する彼女を田舎で待ち続ける男の子の淡い歌詞

Hey, Dorothea, do you ever stop and think about me? 

When we were younger down in the park Honey, making a lark of the misery You got shiny friends since you left town 

A tiny screen's the only place I see you now 

And I got nothing but well wishes for ya

有名になっても覚えているかな。

女性目線の歌を書く彼女が、男性目線の曲を書くと

凄く感動的な仕上がりになるのは何故でしょう。

自分と自分の住む田舎は変わらないので、どんどんスターになっていく彼女の姿と成功を願う彼の儚さとポップな曲調の対比がより切ない気持ちを引き立てます。

個人的にアルバムの中で一番好きな曲です。

9. "Coney Island" (featuring The National)

今作もthe national のアーロンデスナーがプロデューサーとしてほとんどの曲をプロデュースしているのですが、この曲はアーロンのフィーチャリングとなっていて、

前作のエグザイルという曲に似た雰囲気を持ちつつエグザイルで響いているボンイヴェールのようにアーロンの低い声とテイラーの高い声の対比が恋の絶頂と別れのように互いに重なり合います。

この曲は恋仲ばで終わってしまった関係とその後悔を歌っていて、

ニューヨークの人気のない寂しいコニーアイランドを連想させるアコギの音と

イントロのリフはどこかone directionのlittle thingsに非常に似ていて、

"but you were too polite to leave me."

という歌詞がハリースタイルズのことを歌っているようにも聞こえました。

10. "Ivy"

I can't stop you putting roots in my dreamland,(私の夢の国に留まろうとする貴方を止められない)

という歌詞が非常に印象的で、個人的にこの歌詞からテイラー自身が本当の自分の姿や自分の生い立ちを相手に開示する準備ができていないようにも感じます。

それでもそんな過去の過ちや取り返しのつかない過去と向き合い

他者ともしっかり向き合うことができるようになる

そんなメッセージが込められているように感じました。

とても暖かいドラムベースサウンドと軽やかなギターの音が貴方を御伽噺の世界に連れて行ってくれます。

12. "Long Story Short"

今作で唯一スピード感があり、

聞いているだけで気分が上がる80年代のポップを想起させるシンセと走るドラムは、

彼女の人生を3分半で回想しているような気分になります。

メディアが彼女の恋愛遍歴を彼女のアイデンティティーと結びつけて語る中で、

そんなの関係なく今の彼のことを心から歌う

Now I'm all about you

Long story short, it was a bad time

という歌詞は過去なんて関係なく前を向いて

真剣に今の彼と向き合う姿が想像できます

15. "Evermore" (featuring Bon Iver)

タイトルトラックであり最後の曲でもある今曲は

彼女の抱えてきたそして今も抱える痛みを思いピアノの音とともに響かせ、

後半のボンイヴェールのパートは雰囲気を保ったまま曲が壮大になり

ボンの霧のように思い声が

彼女の辛さを表現し、もうこの痛みは感じないだろうと歌いながらも

どこか暗い霧の森の中を彷徨ったまま曲が終わりを迎える様は

物語に伏線を残して終わっているようにも感じ

彼女の旅はこれからも続くことを暗示していました。

全体的に見ると、

前作に比べてよりオープンでfolkloreがパーソナルだとしたらevermoreはパブリックという印象でした。

ただ、曲調が平坦な曲が多く似たように聞こえてしまう部分もあり

アルバムを通して重厚ではあるのですが、少し胃もたれを起こし飽きてしまった部分もありました。

バッキングサウンドが平坦な分、今作は特に非常にソングライティングの良さが際立ち

1曲1曲のソングライティングは短編小説を見ているように起伏があり、毎曲素晴らしいライムの連続を楽しむことができました。

メロディーと歌詞の間に挟まれて、巡る季節と大切な人に思いを巡らせることができるアルバムです。folkloreから曲調も歌詞も穏やかになりまるでロッキングチェアーで木漏れ日を浴びているようかのようなサウンドはテイラーの私生活の音楽の両面の状態を映し出していると思います。

すごく切ない今作だっただけに次回作がどんな印象になるかとても楽しみです。

貴方も彼女の物語を覗き込んでみては如何でしょうか。


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