連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十二話 押し付けられた“姿“
「笑いませんよ。それよりも、羨ましい。僕はそう思ってしまいます」
まっすぐな瞳で答える片山先生。
「羨ましい・・・?どうしてそう思えるんですか」
つい、思ったことが口から出てしまった星崎に
「何かあったんですか」
心配そうに眉を曇らせる片山先生。
それに
「いえ、ちょっと気になっただけなので気にしないでください」
愛想笑いを浮かべる星崎。
「そうですか。
何かあったらいつでも相談してくださいね」
何かを感じながらも、あえてつっこまない片山先生。
「じゃあ、失礼します」
星崎は一礼してから、背を向けて歩き出す。
今まで照りつけていた太陽が雲に隠れて見えなくなる。
「いつの間にか太陽が見えなくなったな・・・」教室の窓辺から景色を眺める滝川。
「急に涼しくなったな」
体育館でバスケをしている関谷も空を見上げる。
そんな空模様のなか、流れるように時は過ぎていき、あっという間に放課後になる。
生徒会室には星崎以外集まっていて、雑談しながら星崎を待っている。
「星崎先輩、いつもは僕たちより早くいるのに今日は珍しく遅いですね」
生徒会が始まる時間は15時50分だが、時計の針が16時になろうとしているのを確認する花森。
「帰りのHRが長引いてるんじゃねえの。俺のHRが終わった時にチラッと覗いたけど、まだやってたしな」
頭の後ろで手を組みながらそう言う関谷。
その時
ーーーバンッーーー
勢いよく生徒会室のドアが開き、
「遅れてごめん!」
走って来たのか、ハアハアと肩で息をする星崎。
「大丈夫ですか?」
滝川が気遣うように声をかける。
「大丈夫、始めようか」
ホワイトボードの前まで歩きながら息を整える。落ち着いたタイミングで正面を向いて滝川たちを見渡す。
「今日は配役を決めていこうかな。
颯、書いてもらえる?」
その一言で関谷が席から立ってホワイトボード前に行き、マーカーを手に取る。
「『ロミオとジュリエットをやるとして、配役について考えてみました。
その結果、ロミオとジュリエットの他にパリス伯爵、ロレンス神父、ティボルト、ナレーションの六つに絞ろうかと思っています」
事前に考えて来た配役の候補を書いたメモを読み上げる花森。
「六つですか・・・。誰か一人は二役やるかもしれないってことですね」
整理しながら考え込む月城。
「みんなは何かやりたい配役、ある?」
周りの反応を待つ星崎に
「俺、ティボルト。
たまには、イメージと違う役やってみたいなと思ってたんだよな」
真っ先に手を挙げたのは関谷。
「てっきり、主役やりたがるかと思ってたけどロミオのライバル役か」
意外そうに関谷を見る滝川。
「そういう滝川は何やるんだ?」
「僕はパリス伯爵かな」
面白そうに笑っている。
「脇役を選ぶなんて変わってるな、お前も」
ふっと微笑みながらそう言う関谷。
関谷に続くように
「ロレンス神父、僕しかいないでしょう」
淡々とした口調で希望を言う月城に
「だよね!月城はその役のイメージにすごく合ってる!」
花森が月城に抱きつこうとする。
それをすぐさま察知し、すっと後ろに下がる。
「なんで避けるの。
ところで、星崎先輩は?」
くるりと顔を向けて尋ねる。
その様子を他のみんなも見守っている。
「わたしは・・・」
ゴクリと唾を飲み込む。
「ちょっと考えさせて欲しいかな」
愛想笑いしながら答える星崎。
「星崎先輩ならジュリエット役が適任だと思ってました」
意表をつかれたように言う花森。
「俺もジュリエット役だと思った」
関谷も同じような反応を見せる。
月城と滝川も頷いている。
「そっか・・・」
寂しげな表情でつぶやく。
そこへ
ーーードタドタドターーー
生徒会室のドアの向こうが騒がしくなる。
「なんだ・・・」
月城が怪しみながらドアを開けると、星崎と同じ吹奏楽部の部員たちがなだれこんで倒れる。
何が起こったのかわからず唖然としている生徒会役員たち。
「星崎会長!生徒会劇で『ロミオとジュリエット』やるって本当ですか!」
「もちろん、星崎さんはロミオ役ですよね!」
口々に飛び交う声に生徒会役員の誰もが顔を見合わせ
(どうして知ってるんだ?)
そう思っていた。
そこへパンプスを鳴らしながら生徒会顧問の宮野先生が入ってくる。
「生徒会は進んでるかしら・・・って」
目をキリッと鋭くして吹奏楽部員たちを見つめ
「何事かしら」
たった一言そう言う。
「わたしにもわからないんです」
首を横にふる星崎。
「えっと・・・お前ら、誰から生徒会劇のこと聞いたんだ」
少し苛立っている関谷。
「新聞部の榛名さんが言ってたんです」
ビクビクしながら吹奏楽部の一人が話し出す
「生徒会劇で星崎先輩はロミオをやるんだって、宣言してー」
告げられた事実に
「はあ・・・」
大きくため息をつく星崎。
「なるほど、事情はわかったわ。
でも、あなたたち、生徒会の最中に入って来ていいと思ってるの?場をわきまえなさい!」
雷のように吹奏楽部員たちに叱責を浴びせる宮野先生。
吹奏楽部員たちはそれを肩をすくめて聞いた後、申し訳なさそうに謝りながら生徒会室を出ていく。
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