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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十四話 誰もが望まないなら

 翌日。夏の暑さが続く日々とは、うって変わり、朝雨が降っている。
いつもの通学路を歩きながら周りを見渡せば、みんな傘を持ち歩いている。


赤、青、黄色・・・。


ふと、自分の透明の傘を見てみる。


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(みんな、自分の色があるのに、わたしはどの色にも染まれない・・・)


自分と周りを比べれば比べるほど、出口のない暗闇の中を一人歩いているような気分になる星崎。
暗い表情のまま、昇降口に着き、下駄箱に靴を入れようとする。

「星崎、おはよう」
後ろから松島が声をかけてくる。
その声に気づき、いつも通りに取り繕う。

「おはよう、松島」
笑って挨拶してから、二人で3ーCへ向かう。


ーーーガラッーーー


ドアを開けると、クラスがシーンと静まる。
なかには視線を逸らす生徒もいる。
いつもの賑やかな雰囲気ではない異様な空気に戸惑う星崎。

クラスメイトの一部の視線が黒板に注がれているのに気づいた松島が黒板の方を向く。


(!?)


ー水標中のロミオは星崎碧!



でかでかと書かれた一言。
松島につられるように星崎も黒板を見る。

「・・・・・・」
「大丈ー」

声をかけようと松島が手を伸ばした時


「どうして・・・わたしはわたしでいさせてくれないの」


消え入りそうな声でそう問いかける。

「星崎さん、どうしたの?らしくないよ」
クラスメイトの一人が寄り添うように肩に手を置くが、その手を振り払う星崎。

「らしくないって何?ねえ、わたしらしいってなに?」
語気に力が入り始める。

「そりゃ、いつも完璧で、優しくてー」
ボソリと遠くの席で誰かが言った言葉を聞いた途端、星崎は近くの机にあったカッターを手に取り、自分の左胸を刺す。

刺したところからじわじわと制服にシミが広がっていき、膝から崩れ落ちる星崎。


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その衝撃的な光景に誰もが言葉を失ったまま見つめている。
そのまま時間が過ぎていき、



「きゃーーー!」



一人の女子生徒によって沈黙が破られる。
その声は廊下や隣のクラスの3ーBにも響いた。


「なんだ・・・?」
クラスメイトと談笑していた関谷が悲鳴に気づき、怪しみながらも、聞こえて来た方向に向かって歩き出す。
3ーCに入り、目の前の状況に顔が真っ青になった。


「碧・・・碧、何やってんだよ」
星崎の左胸に刺さっているカッターを抜こうとカッターを掴むと、後ろから強い手で誰かに止められる。

「お前、馬鹿か!抜いたらもっとひどくなるぞ!」
必死の形相で関谷の手を掴んだのは青野先生。

「じゃあ、どうしろってんだよ」
関谷の訴えかけるような目に

「落ち着け!」
冷静に落ち着かせながら、周りにテキパキと指示を出す。

「誰か使ってないタオル持ってるか」
「誰でもいいから職員室にいる成井先生と担任呼んでこい!」

その一声で止まっていた時間が動き出したかのように何人かが行動に移し始める。


「星崎、ゆっくり寝かすからな」
そう言いながら星崎を寝かせる。

「青野先生・・・ごめん、颯もごめん」
苦しそうな表情をしながらも心配させないように無理に笑顔をつくる。

「星崎、何があったかはわからないけど、話せる時になったらいつでも聞くからな」

応急処置をしながら星崎を気にかける青野先生。
そこからは救急車に乗って青野先生が付き添う形で病院に運ばれて行った。




教員の誘導によって3ーCの生徒は他の教室に行くことになり、残ったのは松島、関谷、成井先生の三人。


「なあ、松島。どうしたんだよ」
今も状況が全くわからずにいる関谷が尋ねる。

「わからない・・・。ただ、黒板を見た瞬間、星崎の様子が変わったんだ」
黒板を指差す松島。

「これって生徒会劇の『ロミオとジュリエット』か」
書かれた字をゆっくりと読んでいく関谷。

「星崎、そんなにロミオ役やりたくなかったのかな」
「いや、松島、生徒会ではジュリエット役がいいんじゃないかって意見あったけど、碧はそうでもなさそうな顔してたぜ」

お互い全く逆のことを言っていることに気づき、余計に混乱してきた二人。

「とりあえず、星崎さんは青野先生がついてるから大丈夫よ」
一旦話をとめる成井先生。
そこへ



ーーー今日は職員会議のため、これ以降の通常授業は中止となります。
担任の指示に従って速やかに下校してくださいー



校内アナウンスが流れる。
その指示通り、関谷と松島は別教室に移動して帰り支度をした後、帰路についていった。


https://onl.la/HzfHXL3



真っ白な天井に、消毒液の匂いが鼻をくすぐる部屋でゆっくりと目を開ける星崎。


「ここはどこ?」


起きあがろうとした時、胸がグッと痛むのを感じて胸をおさえる。

「そっか・・・。わたし」
少しずつ思い出してきたころ、


ーーーバタッーーー



ペットボトルが落ちた音がした。
振り向くと、碧の兄、蓮が立っている。

「生きててよかった・・・」
強く抱きしめられた温もりに

「蓮兄さん、痛いよ」
やんわりと言いながら離す。

「ああ、ごめん。嬉しくてつい」
抱きしめた腕を解いて近くにある椅子に座る蓮。

「・・・・・・」

お互い、何を言えばいいのかわからなくて沈黙状態が続いた後、ようやく蓮が口を開こうとする。



ーーーコンコンコンーーー



病室のドアがノックされ、現れたのは青野先生。

「星崎、大丈夫か」
青野先生も近くの椅子に腰かけて座り、星崎を見る。

「ごめんなさい」
肩をすくめながらそう言う星崎。

「大丈夫だよ。生きててよかった。これからのことは心配しなくていいからな」
ほっとしたように微笑む青野先生。

「はい・・・。でも、水標祭が・・・」
その一言に少し軽くなるが、表情は硬い星崎。

「水標祭より星崎の方が大事だからゆっくりしなさい」
「そうですよね」
苦笑いをする星崎。

「落ち着いたらでいいから、どうしてそんなことをしたのか聞かせてくれたら嬉しいな」
核心をつく質問を投げかける青野先生。

「えっと・・・今・・・でもいいですか」
兄の方を横目に見る星崎。

「あ、話しにくかったら、兄さん出るよ」
気を利かして病室から出ようとする蓮を

「待って!蓮兄さんにも聞いてほしい・・・」
引き留める碧。
それに頷き、再び椅子に座る蓮。




*第三十四話について、Dr.つくし様に医療監修していただきました。ありがとうございました。

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