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PLAYER'S INTERVIEW #01|イケノウエ トモコ

こんにちは!「一緒になってワクワクし、世の中の問題に立ち向かう」プロトタイピングチーム・PLAYERSです。

チームメンバーとして活躍するひとりひとりへのインタビューを通じてPLAYERSの原動力となる個性を紹介する「PLAYER'S INTERVIEW」の1人目は、代表理事も務めるイケノウエです。「あなたが進むための力になる。」を個人理念に掲げるイケノウエについて深堀っていきます!

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イケノウエ トモコ
個人理念「あなたが前に進むための力になる。」
一般社団法人PLAYERS 代表理事
UI/UXデザイナー、サービス介助士 、 ガイドヘルパー、​​介護士

まず、これまでの経歴についてご紹介いただけますか︖

デザイナーになりたい、という今思い返せばフワッとした気持ちで多摩美術大学の情報デザイン学科に進学したものの、私は取説を読めない機械音痴で、パソコンを使う仕事は無理だと思っていました。しかしドナルド・ノーマン著の「誰のためのデザイン?」を読んだ時に、「製品をうまく使えないのはあなたのせいではない、悪いのはデザインの方」という内容に衝撃を受けて、使えない私が悪いという考えから解放されたんです。

卒業してからは、機械が苦手な人の気持ちがわかるUI/UXデザイナー(当時はインターフェースデザイナー)として、国内・海外メーカー、いくつかのスタートアップで幅広いデザインワークに従事してきました。

大企業のデザイン組織では自分の担当に専念できたりもしましたが、スタートアップはなんでもやらないといけないので、Webデザイン・動画編集・DTP・撮影のディレクションなどデザインに関することはもちろん、オフィスのサーバーやネットワークの設定なども学びながらやっていたらIT系にも詳しいという錯覚を生んで(笑)、ふわふわデザイナーから一時期はすっかりIT専任者のようにもなったりもしていました。でも様々な経験のおかげでデザインの幅が広がったと思います。

現在はSOLIT!というアパレルブランドのブランディング支援の活動に力をいれています。また週に1回、高齢者施設で介護の仕事も行っています。

※SOLIT!(ソリット)は障害の有無を超えて、自分の好みや体型に合わせて1600通り以上の組み合わせの中から、服をカスタマイズしてオーダーすることができるインクルーシブ・ファッションブランド


PLAYERSの代表になったきっかけは?

デンマークのビジネスデザインスクール「KAOSPILOT(カオスパイロット)」の日本での第1回目のワークショップを受講した際に、(のちにPLAYERSを一緒に立ち上げることになったタキザワ)ケイタさんとグループワークで一緒になったのが最初の出会いだったと思います。

このプログラムでは自分の深いところに潜り込んで、なんのために、どう生きたいのかを引き出していくような対話を行いました。何をさらけだしても大丈夫、という心理的安全性が保たれた中で、お互い、誰にも話したこともないような、例えば家族への愛情などもその場で共有しました。

ケイタさんと私のPLAYERSへのコミットメントが今まで続いているのは、このカオスパイロットで築いた信頼がバックグラウンドになっていると思います。お互い下の名前で呼び合っているのもこの名残ですね。

ちょうどそのころ、色々チャレンジしてみたいと思っていたので、ワークショップデザイナーというケイタさんの仕事に興味をもち「弟子入りさせてください」と話していたところ、Google主催の「Android Experiments OBJECT」(2016年・Android を題材にしたコンペ)に応募するワークショップのサポートに誘われました。そこで他のメンバーとともに「スマート・マタニティマーク」でグランプリを受賞(同チームで4つのグランプリのうち2つを受賞)し、以降もメンバーは入れ替わりながらも次々とプロジェクトを行い、今に至るという感じです。

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上記コンペ受賞式の様子(左:イケノウエ)

上記コンペ受賞作のムービー


PLAYERSの活動でいちばんうれしかったことは?

私の母は加齢で背骨が変形して歩行に杖が必要になりました。杖をついているのを見られるは恥ずかしい、と言って外出する機会が減っています。「大丈夫、恥ずかしくないよ」と私が言ったところで、母がそう感じることには変わりがない。変えるべきは母の意識ではなく、むしろ社会のほうではないかとずっと思っていました。

そんな思いから社会インフラ事業にかかわりたいとずっと思っていたのですが、本業ではチャンスがありませんでした。だからPLAYERSで、自分たちが生み出した&HAND(アンドハンド)鉄道会社さんと一緒にプロジェクトができたことは大きな喜びでした。

2017年にLINEの「LINE BOT AWARDS」でグランプリを受賞した&HANDは、聴覚障害のある友人との街歩きの経験を元に、「スマート・マタニティマーク」をベースとして、LINEを活用したサービスへと進化させたものです。身体・精神的な不安や困難を抱えた人と、手助けをしたい人をマッチングし、具体的な行動をサポートするサービスで、これまでの自分の知見をつぎ込んで作りました。人の役に立つ道具を作りたいというデザイナーとしての願いと、自分の経験がようやく重なって、嬉しかったですね。

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私の活動のルーツは、家族への愛情だと思います。社会人になって間もない頃、家族で旅行に行った先で、足腰が弱っている祖父の車椅子を「どう扱えばいいんだろう」と不安になってろくに押せなかった自分にショックを受けました。学費の高い美大で4年間も勉強させてもらって、デザイナーを名乗って自立して仕事をしているつもりだったのに、家族の世話ひとつできない自分にがっかりした。それがきっかけでサービス介助士の資格をとりました。

さらに思い返せば、私は博多青松高校という単位制の公立の高校に通っていたのですが、ここは県内のあちこちから様々な人が集まっているところでした。ピアニストが憑依したように美しいを演奏している両足義足の子や、お母さんがノートテイクをしていたストレッチャーで寝たきりのクラスメイト、友達がLGBTQ+なのも普通のことでした。通信制過程もあったので廊下で赤ちゃんの泣き声がしたり、腰が曲がったおばあさんがいることも日常の高校生活でした。固定的な偏見が付く前にそういった多様性のある環境にいられたことは、自分にとって大きかったと思います。


なぜ介護の仕事をしているのですか?

インクルーシブワークショップでは、障害がある当事者の方を「リードユーザー(水先案内人)」として参加していただき話を聞いたり一緒に考えたりします。その「先」とは私たちが行く先、歳を重ねて老いることによって色んな事が不自由になったり、予期せぬ病気や事故で自分にも起こり得る状態で、リードユーザーは先に経験していることを教えてくれる立場です。

しかし様々なインクルーシブワークショップに参加したり開催したりするうちに、老いについて何も知らないのに「リードユーザー」という言葉を使うことに違和感を感じて、介護職員初任者研修(2013年3月まで「ヘルパー2級」だった介護の入門資格)を受講しました。

座学と実技で色々学びましたが、元気な成人同士がジーンズの上からおむつ交換をしても結局何も分からないなと。現場を知りたくて、1週間の中で1日だけですが高齢者施設で介護の仕事を始めました。その生活をしてちょうど2年目くらいです。

施設には、全盲で、骨と皮のようになり、自分では起きることができない方もおられます。でも毎朝パジャマから日中着にスタッフが着せ替え、ベッドから車いすへ移乗し、車いすでダイニングへ移動し食事をしていただきます。介護スタッフから栄養補助食品のスープを一口ずつ飲ませてもらう姿を見て「あんな風になってまで生きたくない」という方も他の入居者さんもおられます。でもスープを飲み込んでいるということは、その方にはまだ生きる力があるということです。

何か生産をしていなければ、自分で全部できなければ生きる価値はないのでしょうか?北欧では自分で食事がとれなくなったら寿命という考え方もあるそうです。それもひとつの答えだなと思いますが、それが自分の母だったら・・・?などとよく自問しています。

私も常々、当事者としての自分を感じています。例えばいくつかの会社で出会ってきた、声を荒らげれば女性はおとなしく言うことを聞くと思っている男性たち。生まれが九州ということもあり、まだまだ日本では女性に生まれただけで弱者と感じることも多い。

一方で自分にも必ず差別や偏見があるんです。違う人の意見を受け入れることは、自分の意見を少なからず否定することでもありますから、「多様性」というのは痛みがともなうという覚悟をもたなくてはならない。自分がどんな差別をしてしまう人間であるのか、いつも認知することを忘れずにいたいと思っています。


PLAYERSで印象に残っている活動や出来事は?

&HANDが評価をいただき、これからどう広げていこうかを検討していたときに、ある障がい者の支援団体とご一緒する機会があったんです。プレゼンのあとの懇親会で一人の当事者の方に「途中でやめるくらいだったら、始めないでほしい」と言われ、衝撃を受けました。その一言に、計り知れないたくさんの悲しみが詰まっていると感じたからです。

恐らくこれまでにも、沢山の人たちがアイデアを思いついて注目されただけで終わってしまったり、本気でやろうとした人たちも収益化できず断念してしまったり。。当事者側はその度に期待し、結果的に裏切られたような思いをするというような経験を、その方は何度もしてこられたのでしょう。

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この時、責任を果たすということは「続けていくこと」なんだと気づかせてもらうことができました。自分たちだけで社会実装していくことは難しいですが、事業主体になってくれる企業さまと連携し、プロトタイプをつくり、サービス化していく持続可能な仕組みをつくろう、ということでPLAYERSは「一般社団法人」になりました。

今でも、PLAYERSの今後をメンバーでディスカッションするときは、必ずあのときの言葉がリフレインしています。やめてしまった方が楽になるのかなと思うことも少なくはありません。でもこれまでやってきたこと、信じてくれた人たちにどう責任を果たすのか、という問いを忘れないようにしたいと思っています。

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本業とPLAYERSでやっていることと何が違うのですか?

私の場合、本業はデザインのプロフェッショナルとしてアウトプットを出すことで、挑戦があったとしても自分の領域を出ないことも多いです。一方、PLAYERSでは自分の専門性を超えた新しいチャレンジができる場です。私のPLAYERSの肩書きは代表理事なので、この世で一番苦手な書類仕事もチャレンジだと思ってやっています(苦笑)

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一般的な企業に勤めていると、PLAYERSの活動はもっぱら夜や休日になるので、よほどやりたいことでなければコミットするのは覚悟がいると思います。PLAYERSは「○時間コミットしてください」というようなお願いはしません。あくまでもできる範囲で、できる人でやる。やりたいと手を上げたのにコミットできないと苦しくなってしまいますから、一旦お休みしたり、卒業したり、戻ってきてもらうこともWelcomeです。


PLAYERSで課題に感じていることは?

プロボノ集団ですから、基本的に本業優先です。そして社会課題に意識があって集まってくれるような人たちはそもそも優秀な方が多いので、気付いたらどんどん出世していくんです。それでどんどんPLAYERSで活動する余暇時間がなくなっていく。メンバーの活躍がうれしい半面、頼りにしていたことが立ち行かなくなってしまい、結局いつもいる人が力業で乗り切る、というのはしょうがないと思いつつも課題ではあります。

一方でPLAYERSという場を提供する側としても、想いをもって来てくれる人に、プロジェクトを通じて満足する達成感や社会に貢献できたという実感を持ってもらいたいと思っていますが、必ずしもその人にフィットするプロジェクトがあるわけではない。人が足りないことによって動かせない事柄も多々あり、プロジェクトと人手のバランスはいつも悩んでいます。

これまで私たちが蓄積してきたことは少なからずありますので、それをパターン化するのかマニュアル化するのか、ノウハウを伝えて、社会に貢献したいと願う人たちをPLAYERSがサポートできるようにしたいと思っていますが、具体的な道筋が見えていないのも悩みどころです。

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最後に、未来のPLAYERSメンバーに対してメッセージをどうぞ

プロボノは「自分の専門性を活かして活躍する」という意味ではありますが、PLAYERSはそういうのを抜きにして、気軽に声をかけていただきたいと思っています。例えば&HANDは、革命的で難しい技術などは使っておらず、既存の技術の組み合わせとUX設計がうまく合致した結果であり、対象者や状況に合わせて様々な進化を続けています。

PLAYERSは「分からないから分かる人に聞きに行こう、聞いて一緒に考えよう」というスタンスです。誰に提供するサービスなのかを考え、観察とヒアリングを大事にしながらデザインしていくことが一番大事なのだと思っています。だからこそ、課題ごとに当事者の方たちとコミュニケーションをとり続けていくPLAYERSのスタイルは、続けていきたいと思っています。

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特に専門性がないから貢献できそうもないと足踏みする方もいらっしゃるのですが、ただ人とコミュニケーションをとれるだけでもできることはたくさんあります。何ができるかより、どんな想いがあるかが大事だと思っていますので、まずはご連絡いただければうれしいです。

PLAYERSは最近、「PLAYERだらけの世界を作る。」というビジョンをつくりました。こんな世の中だからこそ、誰かのために何かをしたい人もたくさんいます。何かをしたくなった人が、ささいなことでもいいから、行動を起こすキッカケづくりができればと願っています。

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以上、代表理事でもあるイケノウエのインタビューをお届けしました。インタビューをさせていただく身としても、表にはあまり出てこない部分も含めて、個性派揃いのPLAYERSメンバーを引っ張ってくれている彼女の本当の動機や目的をあらためて知る良い機会になりました。

もし、彼女の想いやPLAYERSの活動に共感した方がいらっしゃればこちらのフォームから気軽にご連絡もいただけると嬉しく思います!それでは、次回のPLAYER'S INTERVIEWでお会いしましょう!

また、PLAYERSではこのようなメンバー紹介ならびに、最新の活動内容や進行中のプロジェクトを中心に、ぜひ注目して欲しい世の中のニュースやトレンドなど、皆さまが「PLAYER」としてワクワクしながら生きていくために役立つ情報をお届けるメールマガジン『PLAYERS Journal』を定期配信しています。よろしければ以下より購読のご登録をお願いします!



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