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「身体的かつ行動的に演じる」無料塾レポート(〜31時間)

だいぶ日が空いての無料塾。最近は週2ペースでやっていたので、1週間以上空くと久しぶりだなあって感じがする。
この日はK'sスタジオの中でも一番広い本館での稽古。脚本を使ったシーンワークをやるので、できるだけ広い場所が欲しかった。

題材はチェーホフの「かもめ」。ことあるごとにこの題材を扱っている気がするが、俳優の学習題材としてはとても優秀なので今後もお世話になり続けます。
日本でベスト3くらいに上演されている戯曲だったり、オーディション題材によく使われたり、人間の弱さを使って演じられたり、色々な採用理由があるが、一番の理由は「そのまま演じるとつまらなくなる」からだ。

そもそもこの戯曲はロシアの現代劇(もはや古典になりつつあるが、現代でも通じるところが多いため現代劇と分類)であるため、日本人の生理とは合わないところが多々ある。さっきまで泣いていた人間がいきなり立ち直ったり、怒っていた人間が急に不安になったりするし、相手の話を聞かずに自分の主張をし続けたりと、日本人からしたら情緒不安定で自己中という、国民性とは真逆の人間を演じなければいけない。
日本で上演される「かもめ」が「つまらない」という評価を受けがちなのは、これを日本人の生理のまま演じてしまうところにある。感情が湧いてくるのに任せたり、相手のことをしっかり聞いてから台詞を発するとなると、どうしても遅すぎるし、辻褄もテンポも会わなくなる。チェーホフはこの作品を「喜劇」と発表しているが、日本人が演じると「悲劇」っぽくなってしまう。更にそこにメソッド演技やスタニスラフスキーシステム前期など、感情や心理にフォーカスするような演技を持ち込んでしまうと、なお一層この脚本に合わなくなる。事実、スタニスラフスキーは感情の記憶を提唱していた時代にこの戯曲を演出して、チェーホフから強烈なダメ出しを食らってる。

ではどうすれば良いか?
イギリスのナショナルシアターでも演出していたマイク・アルフレッズは、「かもめ」の脚本を丸暗記する程上演を繰り返し、「かもめ」演出のプロフェッショナルとも言える人だ。おまけにイギリス人は日本人と性格的に似ている部分があるので、そう言った部分でも彼の考え方は興味深かった。
彼はスーパーリアリズムというものを提唱した。人間の生活をリアルにそのまま映し出し、観客にそれを能動的に見させるリアリズムではなく、身体や行動を大いに使うことで、内面生活を生き生きと描写し、高められた演技によって観客と共有することを目指した。身体を変化させ、行動を大胆にすることで、ロシア人の持つ気まぐれで感情的な表示行動に追いつこうとしたのだ。
つまり「かもめ」を日本人が面白く上演するためには、身体や行動を使わないといけない。そう、訓練が必要になってくるのだ。

僕らはまず身体的に演じることから始めた。
相手に対する行動はシンプルに二分すると「押す」か「引く」かだ。そこに「好意」か「敵意」が混ざることでまたバリエーションが増える。そこから具体的なアクション動詞(相手に〜する)に移行していく。

台詞の心地よいリズムを味わう。自分の中で感情を育ててしまうと、交流に支障が出る。感情は行動や台詞のやり取りの結果生まれてくるものだ。まずは相手に対して反応すること。

ここまでを味わったら、脚本分析の作業に入る。台詞ごとにどんなアクションが考えられるか、可能性を出してみる。ここで重要なのは感情ではないということ。感情や形容詞(楽しく、不機嫌に…)は相手がいなくても成立してしまう。あくまでも相手に対する行動を選択する。それを探す癖を常に身につけておきたい。

↓台詞のアクション化についてはこちらの動画参照↓

そして最後に実践。

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3シーンとも同じシーンを扱ったのだが、どれも同じシーンとは思えない程面白かったし、個性的だった!
相手に対する反応で演じているのがとても良かった。自分の中で準備して、安定して演じてるのではなく、不安定なままで常に相手との繋がりを持ちながら外で交流していた。俳優がこれだけ自由に動いてくれると演出家は楽だ。

ここで注意しておきたいのだが、もちろん演技は動けばいいというものではない。動ける身体という前提が重要なのだ。
大概本読みや半立ち稽古の段階だと、俳優は突っ立って演じてしまうことが多い。動いたとしても、台詞と動きが繋がっておらずにぎこちなかったりもする。
動ける自由な身体という前提があり、選択の一つとして止まって動かないことを選択するのか。既に足が地に根を張ってしまっているのかでは雲泥の差だ。そして全体性。
言葉を発することと、体が動くことが繋がっているのか否か。言葉を発することも行動の一つだ。ひょっとしたら思考もそうかもしれない。内面の動きが外面の動きと繋がっていないと、僕らは内向的で心理的な演技をしてしまう。
演技は行動。俳優はアクティブであることが大切だ。


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