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インプロの父、キース・ジョンストンが亡くなりました

昨日3月11日、インプロの父であるキース・ジョンストンが亡くなりました。90歳でした。奇しくも3月11日と言う日本人の心に残る日に亡くなったと言う事は、日本人のインプロバイザーとしての志を刺激されました。

彼の本「IMPRO」について改めて紹介します。

彼が最初に書いた本で、彼の思想がまとめられている本です。日本版は三輪えり花さんが翻訳をしており、販売もされております。彼の表現は非常に独特で、皮肉交じりでわかりにくい表現が多いのですが、小説家エッセイのように読んでいただくと、彼の芸術性とともに理解ができると思います。

ストーリーに対しての彼の解釈は非常に独特で、彼は展開という言葉をあまり使わないのです。代わりに安定と崩壊と言う言葉を使います。安定をプラットフォームと呼んでいます。

彼は「常態化した状況(ルーティン)を作って、それを崩壊させさえすれば誰でもストーリーが作れる」と言うふうに言っています。実際に彼の子供にガイドしながら作らせたエピソードが書かれているのですが、まさに誰にでもできる方法で見事にストーリーを語っており、人は生まれながらにしてストーリーテラーだと言うことを自身の体験を持って証明しています。

彼の思想はとても優しく、俳優に寄り添った形で体系化されていきます。彼が作ったシアターゲームはすべて、俳優の恐れを取り除き、自由で創造的にさせる目的を持って作られました。

残念ながら、それが正しく流布されているばかりでは無いのですが、少なからずキース本人もしくはキースの弟子から直接学んだ人たち、特に国際シアタースポーツ協会と言う国際組織(私も所属しているんですが)そのメンバーに限って言えば、彼の思想を正統に伝え続けています。

彼はよく世界中のインプロがライトエンタメに走り、くだらないギャグ合戦になっていることを嘆いていました。本来、彼のインプロはストーリーテリングを重視し、ひたすら俳優の創造性を信じ、その良さを伝えるために、シアタースポーツやマエストロといった世界的なフォーマットを作ってきました。その根本には恐れを取り除き、自由と創造性を発揮すると言う絶対的な思想があります。「ステージで危険なことをするのだから、安心安全が前提として存在していなければならない」と言い続けていました。

コロナ禍に入り、オンラインでのパフォーマンスが横行した際も、オンラインによって生じるパフォーマンスの質の低下、プレイヤーが負うべきリスクの喪失を危惧し、彼の弟子たちにオンラインで直接指導し、オンラインでもリスキーでインプロの良さが伝わるようなパフォーマンスのスタイルを伝え続けてきました。

ヨーロッパでは彼の著書は、古典ではありますが、演劇人にとってのバイブルとして語り継がれています。日本に彼の名前がそこまで伝わりきっていないのは非常に残念なことですが(まぁそれはヨーロッパの演劇と言うものが日本にそこまで伝わっていないことにもよるのですが)少しでも彼の名前に傷を付けないインプロショーの確立、そしてインプロバイザーを育てていくことを改めて心に刻み、今後も活動していこうと言う気持ちにさせられました。

改めてご冥福をお祈りいたします。

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