【研究会ミーティング記録一部公開】「ナラティブ」によせたコラージュ
いよいよ明日、ABE研究会第4クールの第3回が実施されます。
テーマは「ものがたりとナラティブ」。
開催をあしたに控えた現在まで、研究会の講師である、羽地朝和、岩橋由莉、オーハシヨースケの3名は、このテーマについて語りあいつづけています。
ものがたりとはなにか?
ナラティブとはなにか?
わたしたちはなぜこのテーマを大切だと思ったのか?
三人がとらえている「ナラティブ」のちがいは?
このようすがとてもおもしろいので、ここではその議事録を一部公開したいと思います。
リアルなやりとりをピックアップしたものでもあり、直接話したことと文字でやりとりしたこととを行き来するため、とても断片的で、一部飛躍があったり、まとまりがなく見えたりするかもしれません。しかし、そのうちのどこかに魅力的なもの、気になるもの、目が止まるものを見つけていただければと思い、この記事を公開します。(そもそもこの三人がなにかにまとまりを持たせようとしているのかも疑問です)。
聞き耳をたてるようにお楽しみいただければ幸いです。
1.10/29 ミーティングでのやりとり①
(※オーハシ不在)
岩橋:「ABEが考えるドラマ」っていう切り口でこのテーマに決まったんですよね。羽地さんはそもそも、「ものがたりとナラティブ」をどうとらえているんですか?
羽地:プレイバック・シアターでいうと、「ナラティブ」は語ってもらったことそのままのこと。それを物語にするのがプレイバック・シアター。
★プレイバック・シアター:観客の思い出をその場で聞いて演じる即興劇。テラー(語り手となる観客)、コンダクター(聞き役、進行役)アクター(役者)によって成立する。羽地さんが主に専門とする。
岩橋:「物語にする」というのは、文脈が通るようにする、ということ?
羽地:「文脈」に限った話ではなく、本人が語っていないものを加えて、「ドラマ化する」ということ。「ストーリー」にすること。
岩橋:「語ることそのままではなくて、ストーリーにする」。そうすることで、プレイバックはなにをしようとしているんですか?
羽地:語り手本人も、経験を本人なりの物語にしているはず。ストーリー化することで、ある意味全員の物語にもなっていく。
岩橋:普遍化する、ということ? ここを掘っちゃうと、ヨースケさんの「ナラティブとものがたり」とは離れるのかな……
2.ヨースケさんの「ナラティブとものがたり」についての記述
(告知用に寄せていただいた文章からの抜粋)
「ナラティブ」は、物語りの言語的な進捗の底流の、感情の流れが世界に滲み出した表現だ。語られる物語り、「ナラティブ」は、ことば(分節言語)を透かして、その感情の流れとその奥の気の流れを世界に発散している。
(中略)
ナラテイブは、言葉の裏の 感情言語も 私たちに 放ってくる。
その感情という言語を翻訳する術を知ることができれば、物語りの行方すなわち未来を予知できる。
未来から、現実という物語に、変化を促せる……
やってみよう……
感情という言語を捉え、流れを、展開を 読もう!
Interpretation of emotion……
ナラテイブを窓にして、感情言語の地図をつくろう!!
★全文↓(記事後半)
3.11/26 ミーティングでのやりとり①
羽地:ヨースケさんは、「ナラティブ」というキーワードにはいつ出会ったの?
ヨースケ:今回の研究会の「ナラティブとものがたり」というテーマを見て、日頃自分がやっていることとすりあわせた。「ナラティブ」というテーマは、「langueとparole」の話とつながっていると思った。「ナラティブ」は喜怒哀楽によって動かされる、展開されるもの。「ナラティブ」のほうが身体の感覚に近い。
★参考:「langueとparole」
ソシュールは langage を langue と parole の2種類の認識論的対象へと区分し,互いに対置させた.
(中略)
それぞれの対比について簡単にコメントすると次のようになる.
(中略)
2点目に,langue は潜在的な状態であり,それは parole によってはじめて実現化される.音でいえば,前者は音のイメージであり,後者は実現される音である.これは,音韻論と音声学の考察対象の差異に相当する.
3点目に,langue は社会の共有財産だが,parole は個人の一回きりのその場限りの現象である.
( 堀田隆一 http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2015-05-08-1.html より引用)
岩橋:「ナラティブ」を、「parole」と同義だととらえているんだよね。
(↑ 8/10 プログラム製作ミーティングの記録)
4.10/29 ミーティングでのやりとり②
(オーハシ不在)
岩橋:一般的に、「ナラティブ」というのは「物語ること」。「ナラティブセラピー」は、「物語る」という行為を通して、なにかを変容させること、ですよね。でも、羽地さんは「ナラティブ」と、「ストーリーとして聞くこと」を区別しているんだよね。
羽地:「ナラティブアプローチ」という考え方は、「先入観を持たずに『そのまま』聞く」という土台に立っている。でも、プレイバック・シアターで「ストーリーとして聞く」ときは、そこにコンダクターが介入する。
岩橋:それは「ナラティブアプローチ」とは言えない、ということ?
5.11/26 ミーティングでのやりとり②
(オーハシ不在)
羽地:僕にとってのナラティブは、その人が語っていることを、先入観を持たずに、理解も解釈もなく聞く、ということ。プレイバックシアターのストーリーでは、コンダクターがある切り口を切り取っているので、ナラティブとはすこしちがう。
岩橋:それ、あながち全然違うとは言えないんじゃないかな。
すごくここって大事なんじゃないかな。ヨースケさんのやりたいことはヨースケさんのやりたいことでいいけど、羽地さんは羽地さんとして、自分のナラティブっていうのはこういうことですって出したらおもしろいと思うんだよね。
6.羽地さんの「ナラティブとものがたり」についての記述
「ナラティブ」はもともとは「物語り」という一般的な言葉だったものが、最近はいろんな意味合いをこめてよく使われるようになってきていると思います。「ナラティブ・アプローチ」「ナラティブ・セラピー」など。
これは、従来のエビデンスを求める治療や事象にはそれを引き起こす原因があるという因果律を前提とした考え方に対抗するものとして使われたのではないでしょうか。
僕もプレイバック・シアターの効果について説明する際にナラティブ・アプローチの概念を使って説明していた時期があります。が最近はあまりそれはしなくなってきました。説明しようとすればするほど、結局は因果律の考え方で説明しているのではないかと、はたと思ったのです。プレイバック・シアターはプレイバック・シアターでいいのではないか、と。
(中略)
ここで僕はストーリーという言葉を使いました。少し分かってきました。その人がその場でただ思い浮かんだことを語ること、そうやって語られたことがナラティブだと僕はとらえています。そしてそれをある切り口で構成してその場で分かち合われる劇にするプロセスにおいてストーリーとなります。
(中略)
最後にもうひとつ、ナラティブ、「ただ語ること」で大切なのはきいてくれる人がいるということ。ひとりで誰もいない場所で、ただ語っているのではない。きいてくれている人がいる。どういうきき方をしているか、とかもあるのですが、そこはここでは触れないことにします。
★全文↓
7.ゆりさんの「ナラティブとものがたり」についての記述
ここ数年の表現の現場で大切にしてきたことの一つは、「人が語ることをそのまま聴く」ことだった
朗読であれ、声であれ、どんな現場でもそこを一つのスタート地点にしてきた
「そのまま聴く」とは自分の理解度や解釈など関係なく、その人の語りをそのまま伺うこと
その人の今日の声、表情、繰り返し使われる接続詞や単語、どんなことに注目しているのか、何に感情を揺さぶられているのか、気になっていることは何か
語られるままにとにかく伺う
(中略)
そう、これは日常会話では起こり得ないことなのだ
目的を持たずにその方の話したいことをそのまま伺う
これがなかなかできない。
どうしても自分のフォルターはかかる
フィルターがかかっていることを意識しながらもそのまま聴く
場を持つ人間がそれに意識を持つことで、その話は聞き手にとって、あの人のいつものあれ、ではなくなり
その聞き手の変化が、語り手に影響を少しずつおよぼしていく
最初は蝶の羽ばたきのようにかすかなものが最後には竜のうねりのようになる時がある
毎回違う終わりになる
場の境界線が見え隠れしてくる
そんな時間が何よりも尊いなと思います
これがわたしの「ナラティブ」です
演劇でも即興でもない、私が理解することも必要ない
「ひとの語りをそのまま伺うこと」
で人や場がいきたいように変化することです
★全文↓
8.11/26 ミーティングでのやりとり③
(オーハシ不在)
岩橋:「そのまま聞く」ということの大切さがあって、それでもプレイバックではそこをあえて「ストーリー」として切り取る、そこでリスクを負うわけじゃん。そこで何を聞いて「ストーリー」にするのかっていうところが、コンダクターの技術なわけでしょ。「ナラティブ」と「ストーリー」という言葉を、同じ「人が語る言葉」として使うけど、違う。そこでコンダクターとして考えることを、noteかなんかに書いていく必要があるんだと思う。
羽地:ゆりさんも書いてくださいよ。
岩橋:わたしは、「ナラティブセラピー」って言うとなんか胡散臭いって思っちゃうんだよね。なんか目的があるような気がして。だから、わたしのナラティブセラピーっていうのはそこで止まるんだよ。
だから、わたしはないよ。ないです。
↓11/30ABE研究会 詳細↓
ABE研究会 第4クール 第3回
11/30 (ワークショップの体験を通した検証)
『ワークショップ②〈ものがたりとナラティブ〉』」
◆ 開催日時
全日程10:00~16:30(予定)
◆ 会 場
中目黒周辺施設
※お申し込み頂いた方にご案内いたします
◆ 参 加 費
5,000円
◆ お申込み先
(株)プレイバック・シアター研究所
中目黒ヘッドオフィス&サロン
TEL : 03ー3461ー4242
E-mail : info@playbacktheatre-lab.com
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