【羽地朝和インタビュー】スタッフが社長に15分1on1をしてみる⑤「1on1とヒアリング研修」

近年、組織開発のなかで部下の成長を促す方法として注目される1 on 1。
この企画では、それを立場を反転させて行うことを試みます。そのようすをインタビュー記事にしたものです。

話し手:
羽地朝和(プレイバック・シアター研究所所長・コンダクター・研修講師)

聞き手:
向坂くじら(プレイバック・シアター研究所スタッフ・詩人)

1on1とヒアリングの違い


ー前回からすごく時間が空いてしまいましたが、よろしくお願いします。今回はちょっと原点に立ち返って、そもそも「1on1」ってなんでしたっけ……みたいな話を聞いてみたいです。

1on1、ヒアリングといった、対話を組織の中で行うことの重要性が、最近頻に増してきているなと思います。この前ちょうど、ヒアリングの研修を銀行でやったところです。そもそも1on1がなんなのかということや、なんでこれほど組織の中で言われているのか……というところが今回のテーマになると思います。

ーそうですね。わたしも、きちんと腰を据えて聞いたことはなかったなと。まず、1on1とヒアリングは別の概念なんですか?

「ヒアリング」の方が意味が広いです。1on1は、主に上司と部下などの対話。そういう意味では、まずヒアリングスキルがあって、その上に1on1という、日常的な職場で行うことがある。

ーつまり、ヒアリングは聞く側のスキルを指し、1on1は聞くときの形式を指すということでしょうか。

1on1はあくまで職場で日常的に行う対話ということです。特に、今回銀行で行ったヒアリングは、上司部下を想定したものではなく、人事や本部が支店の方たちにヒアリングをするときのスキルというもので、少し意味あいが違いました。


ヒアリングの目的はさまざま

ーそのようなヒアリングでは、なにを聞くことを目指しているんですか?

銀行で本部と言っても、大きく分けると人事、営業推進、監査というセクションの人が主に参加されましたから、それぞれのヒアリングの意味あいも違うんですが……銀行の本部が各支店の人たちにヒアリングをして、支店内で起きている色々な問題を把握する、場合によっては不祥事を未然に防ぐ、ということが主な目的です。

ー色々な人たちが集まってきているけれども、同じヒアリング研修を受けているということですよね。ということは、違う意味あいのヒアリングであっても、何か共通するスキルというか、基底にあるスキルのようなものがあるということですか?

要は、研修の前に、銀行の中で不祥事があったわけです。不祥事を未然に防ぐために、銀行には本来、本部が各支店を回って、事前に不祥事や問題の芽を早めに発見するための「臨店」というシステムがあります。今回、それが機能しなかったということが不祥事が起きてしまった大きな要因で、要は各支店のいろんな状況や問題を、本部が全く把握できていなかった。その反省点から、このヒアリング研修が行われました。

臨店が機能しなかった原因は、まず関係者が各支店を回ってする一対一の面談が、コロナの影響で行われなかったこと。もう一つは、臨店のノウハウが全く属人化されていて、何を聞くのか、どう聞くのかが担当者任せだったこと。

ですから、臨店もヒアリングの一つですし、他にも人事の場合は、例えばどんどん辞めていく支店、辞めるまで行かなくても雰囲気が生き生きしていない支店があったり、場合によってはある支店でメンタル不調の人が続けて出てしまうのはどうしてか……とか、そういうことを聞く。営業推進の場合は、営業成績がふるわないのはどうしてか。担当者によってそれぞれ目的は違うんですが、現場の支店のいろんなことを聞く。支店が健康な状態になるためのサポートをするために、それぞれの立場からヒアリングをする、ということです。

ーなるほど。すみません、さっきと同じ質問をもう一度してしまうような気もするんですけれども、そういうそれぞれの目的があるけれども同じ研修を受けられる、ということは、何か共通のスキルだったり、考え方があるということですか? もしあるとしたら、今回はどういうものを扱ったんでしょう。

まずは、参加者同士でディスカッションをしてもらいました。今回の参加者は、現場の支店で働いていた経験もある皆さんです。自分たちが受ける側だったときのことを思い返しても、積極的にヒアリングに参加はしていなかったそうです。

そういう意見を事前に研修の打ち合わせで聞いていたので、ディスカッションでは「ヒアリングを受ける側が積極的に参加したりオープンに話をしたりしないのはなぜだろう」ということを考えてもらいました。具体的には、「率直なヒアリングを阻害する要因はなんだろう」というテーマでのディスカッションでした。

そのあと、皆さんに、自分たちが望むヒアリングはどういうものかをイメージしてもらいました。そして、なぜそれが阻害されているのか、オープンなヒアリングが行われないかの要因も出してもらいました。以上を踏まえて、講義で阻害する要因を克服する方法や望ましいヒアリングについてお伝えしました。

この講義が終わった後、今回の研修を担当した三人の講師がそれぞれヒアリングのデモンストレーションを行いました。三人がそれぞれ個性のある聞き方をして、最終的には、「もちろんスキルやテクニックもいろいろ必要ですが、最後は自分らしい聞き方しかできない」「講師はそれぞれ持ち味の出た聞き方をお見せしたので、みなさんも自分らしい聞き方を磨いていきましょう」ということをお話ししました。

研修の後半は、お互いにヒアリングをしてそれを振り返る、というワークを三人トリオで行いました。ヒアリングする人、受ける人、オブザーブでフィードバックする人の役割をそれぞれがやります。そうすると、ヒアリングを受けることも見ることも経験できるので、ここでもまた色々な人のヒアリングを見て参考にすることができる、と。

最後は「これからヒアリングをするときにどんなことを気をつけますか」ということと、やっぱりヒアリングには振り返りが必要であることを踏まえて、じゃあ自分たちはこれからどういう振り返りをするのか、自分たちができる仲間づくりについて、職場ごとに話し合ってもらいました。


率直なヒアリング


ー率直なヒアリングを阻害する要因について話すということは、基本的に率直な方がよろしかろうという前提があると思うのですが、それにはどういう背景があるのでしょうか。

ひとつは、望ましいヒアリングについて話し合ってもらい、それをグループごとに発表してもらったからです。

ーその場で「率直なヒアリングが望ましい」という意見が出たからということですかね。

みんなが率直に、本音を言ってくれるヒアリングがいいヒアリングだ、という意見ですね。そういう意見が出るだろうと思ってはいたのですが。

ーなんで出るだろう、と思っていたんですか? 予測できないといえばできないじゃないですか。

事前の打ち合わせをしていたので。そこで「銀行としての定義はない」と伺ってはいたけれども、とはいえ本音で言ってくれないとヒアリングそのものに意味がないですよね。だから出るだろう、という予測ですね。

ー要約すると、ふつうに一緒に働いているだけでは出てこない本音みたいなものがあって、それを認識したり把握したりすることがヒアリングの目的としてあるということですか。

そうです。ここで言うヒアリングは、本部の人が支店とやる、本部が現場の実態や問題を知る、察知するためのものなので。実は今回、打ち合わせの段階では「インタビュースキル研修」というタイトルでした。でも、先方の方から「ヒアリング研修」というもっと広いタイトルに変更してください、と打診があり、変更になりました。

1on1の目的は?


ーその視点から言うと、1on1にはまた別の目的があると言うことですか。

1on1は現場の上司と部下なので、お互いが知り合うと言う意味で、近況報告から入ることも多いです。1on1の場合は、一方的に聞くだけではなく、上司の意見を伝える部分も多少あると思いますよ。僕だったらこうするとか、それについては◯◯さんに聞いてみたらとか、いろんなアドバイスも含まれるのが1on1だと思うんです。

ただし、です。一般的に、管理職ってしゃべりすぎるんですよ。面談をやったら8~9割管理職がしゃべってしまう、アドバイスばっかり、というのが多いので、僕は1on1研修では7~8割管理職は聞く側に回りましょう、ということをお伝えするようにしています。

ーそれは、上司が伝える部分もあるけど、そうやって言っておくと、全体としてはちょうどいいくらいに収まるであろう、というぐらいのことなんでしょうか。

企業においては基準がないと、どのくらい聞けばいいのかみなさんわからなくてバラバラになるので、僕の基準としては7割8割は聞きましょう、残りはアドバイスや情報提供をしてもいいでしょう、と決めております。

ー本来対等にしゃべるのがいいけれども、基本上司の方が強くてしゃべりすぎてしまう、しかしそういう基準を伝えておくことで、結果的におおむね二人の力関係がトントンになる見込みだ、ということであっていますか?

ちょっと力関係というふうに言うのは抵抗があるけれども、そういう要素もあると思います。逆に、上司は自分の意見を言うよりも聞かないことには、部下の抱えていることがわからないですよね。マネジメントにおいて聞くことが大事ですよ、という意味合いが強いです。

「対話」と「情報交換」


ー今日、最初におっしゃった、対話、というワードがあったじゃないですか。「対話」というのと、ふつうの話、会話、というものを、あえて呼び分けることにはどういう意味が暗に含まれているのでしょうか。

対話、というと、ただの情報交換としてのコミュニケーションとは少し違うなと思っています。役職とか、肩書きを一回外した人と人との関わり、という意味合いが「対話」にはあると思うので。1on1においては、仕事上の話だけではなくて、場合によってはプライベートの話をできるような1on1もあるでしょう。そういうところを含めて、情報交換ではない対話、相談し合う、人と人として触れ合うという意味で使っています。

ーただしゃべるだけじゃなくて、そういう要素があるとよろしいなあということですね。それはヒアリングにしても1on1にしても同じということですかね。

ヒアリングに戻ると、もちろん矛盾はあるんですよ。だって、本部の人は結局支店のことを知りたいからこれをやってるんでしょ、という前提はあるんですけど、その中でお互い役割を持ってヒアリングをしないといけない、けどそのなかに、人と人としての関わりも入れていきましょう、というニュアンスはありますね。

ー基本そうでないことが多くなってしまいがちだから、というふうに読み取っていいんでしょうか。

そうですね。

ー1on1に関して言うと、それでいて15分なわけですよね。その短い時間で、仕事の話も、プライベートの話も……というと、足りなくないですか? この1on1は、これまで1時間くらいしゃべって仕事の話を伺って終わっているので、なおさらそのように実感します。

われわれがやっているのとの根本的な違いは、僕は週に1回、15分と言っているんですよ。ひとりにつき15分なら3~4人の部下で1時間。忙しい管理職でも、そのくらいなら時間をとることができる。

部下側も、1時間一対一で上司と向き合えと言われたら苦痛だと思うんです。でも15分だからっていうと、部下の方も気軽に席につける。で、繰り返すことでスキルがお互いにつく。実は、伸びたら伸びてもいいですと僕は言っているんです。でもはじめは、お互いにあまり抵抗がない時間として、15分。

ーなるほど。すみません、わたしの言いたいのは、15分という時間設定なのが合理的なのはとてもよく理解できるとして、そうでありながら、それは短い分、むしろ情報交換に適した時間設定であるように感じる、ということです。

そうだね。近況報告に加えて僕がおすすめしているのは、お互いに宿題を持ったらどうでしょう、ということ。そこでいろいろ対話が出てきて、「これについて困っています」という話ができる。部下の「困っています」にすぐ解決策を示せないことの方が多いので、「じゃあわかった、それについてお互い考えておこう」という宿題を持って、来週の1on1に持ち越す。

というのを、僕は基本的な流れの中だと考えているので、実は15分と言いながら、そのあいだに1週間あるのが大事なところだなあと思っています。ですから、1on1は僕は結局は、上司と部下の対話を促進するための触媒のような位置づけでいいのかなあと思っています。


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