まばらな整列

僕はこだわる(5)「講師の仕事はミズモノ」【羽地朝和連載コラム】

研修講師になりたいという相談を受けることがあります。

研修講師は十人十色、様々なタイプの人がいますし、仕事のやり方もいろいろなパターンがあります。ですから一概には言えませんが、研修講師になりたい人に考えて欲しいこと、知っておいて欲しいことを述べます。


まず、どんな研修をやりたいのか、どんな講師になりたいのか。研修講師は大きく分けると研修会社に属するか、フリーランスで仕事をするかに分かれます。研修会社に属する場合は、まずはその会社の講師のアシスタントについたり営業や企画を担当することから始めることが多いようです。先輩講師の研修を手伝いながらノウハウや手法を学び、そして顧客とのやり取りを経験しながら、研修をどのように受託し、実施するのかを学びます。研修講師は職人のようなところがあるので、職人に弟子入りするような感じです。これが最もソフトランディングだと思います。

この場合はどの研修会社に入るのか、どの講師に弟子入りするかによって、将来どのような講師になるかがある程度決まってくるので、自分がモデルとする講師ややってみたい研修を提供しているところを選べばいいわけです。また、研修は表舞台だけではなく営業から企画、準備、会場の手配や設営、研修中の事務局、アフターフォローなど様々ないわゆる裏方的仕事があって成り立っています。この裏方の仕事はとても重要ですし、講師よりもこちらの方が面白いという人もいます。演劇でいうと舞台上の役者だけでなく演出や宣伝、制作など様々なスタッフがいて成り立っているようなものです。研修会社に講師希望で入り、企画やプログラム制作が向いていることが分かり、その道に進む人もいます。

また、研修会社でアシスタント講師や企画を経験した後に、プロ講師として独立する人もいます。独立する際に会社と仲違いしてしまうなどのトラブルが起きることがありますが、それを覚悟の上でやるのか、慎重に事を進めて回避するかは、その人次第です。よく見られるのは、クライアント企業の仕事を持って独立し、元いた会社とトラブルとなってしまうことが多いようです。


やりたい研修が初めからはっきりしていて、その実力がある場合は個人オフィスをかまえたり会社をつくって仕事をします。先に述べた研修会社から独立する場合もここから始めることになります。その際にまず決めないといけないのは、オフィスをかまえるのか、自宅兼オフィスで仕事をするかです。多くは自宅兼オフィスで始めて、ある程度軌道に乗ってきてからオフィスを借りているようです。また、裏方的な仕事を自分でやるのか、営業や経理のスタッフを雇うのかも決めないといけませんが、軌道に乗るまでは全てを自分でやる方がいいでしょう。

研修事業はミズモノで、仕事がたくさんある時もあれば、まったくなくなってしまうこともあります。人気講師で年間スケジュールがほぼ埋まっていて高い賃料のオフィスをかまえていた人が、数年経ってまったく仕事がなくなってしまうなどということはよくあることです。特に大口のクライアントからの依頼が仕事の大半を占めていると、何らかの理由でそのクライアントからの仕事の供給がなくなるというリスクが高いので要注意です。クライアントの教育予算が削減されたり、教育責任者が変わり研修方針が変更になるなど、何が起こるか分かりません。例えば、新型ロナウィルス感染拡大により様々なイベントの中止が報じられていますが、集合研修が全て中止されるという事態は起こりうることです。

(この原稿を書いている最中に次々と予定していた研修の中止の連絡が舞い込んできており、まさにミズモノであります。)


研修事業はミズモノ。どのような仕事もそれは同じだと思います。確実に成功するという保証はありません。ですから自分がやりたいことをやり続ける、たとえ低迷する時期があっても、好きなら続けられますし、自分が成し遂げたいことがはっきりしていれば、どのようなことが起きても、それは成し遂げたいことに到達するプロセスのひとつなので、楽しむことができます。

外部環境よりも重要なのは自分自身のセルフマネジメントです。僕の先輩方のなかには、過密スケジュールをこなすなかで心身の健康を害してしまった人はたくさんいらっしゃいます。健康で良い状態でないと良い研修はできないことは重々承知しているのにもかかわらず、自分自身のセルフマネジメントは本当に難しい。でもやはり長く良い仕事を続けるには、これが一番大事だと思います。

(羽地朝和)

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