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文化の違いは、目抜き通りで繋げよう#LOOK LOCAL SHIBUYA 渋谷中央ブロック後編

『#LOOK LOCAL SHIBUYA』は、まちに深く関わり、まちの変化をつくろうとしているローカルヒーローに話を聞いて、まちの素顔に迫る連載です。今回は、渋谷駅周辺で生活し、事業を営む皆さんと語った「渋谷中央エリア編」後編を届けます。

>>前編はこちら

地元民も、渋谷駅で迷子になっている

渋谷区観光協会 金山淳吾(以下金山):渋谷に変化が訪れたのは、(東京メトロ)副都心線の開通だと言われます。副都心線が渋谷・新宿・池袋を縦断するので、渋谷で乗り換える必要がなくなったと。
 
渋谷道玄坂青年会 大西陽介さん(以下大西):僕が渋谷の発信力の低下を感じた時期は、SNSの普及後です。若い人たちがSNSで繋がって、リアルで集まる意義を見出さなくなった。個人の発信力が強まってまちに出る必要がなくなって、「若者のまち渋谷」のパワーが減ったように感じます。
 
三丸興産株式会社代表取締役 吉岡久仁夫さん(以下吉岡):僕は、副都心線の開通は大きいと思います。例えば、新宿の三越伊勢丹は地下通路で繋がって利便性がいいですよね。
 
渋谷宮益商店街振興組合 副理事長 髙木保治さん(以下髙木):東急の井上さんがいる場で申し訳ないですが、渋谷駅にも課題があると思います。よくお客様から「渋谷は迷子になる」と言われます。特に年配の方ほど迷いやすいようで、今の渋谷は誰にとっても優しいまちとは言えないかもしれない。
 
吉岡:たしかに、渋谷駅は通行が大変と聞きますね。電車でうちにくる人たちは、電車を降りた後にどこを歩いたらいいかわからないようです。

三丸興産株式会社代表取締役 吉岡久仁夫さん
渋谷区宇田川町出身。渋谷まちづくり研究会主催

金山:渋谷が地元で渋谷を代表するクリエイターである藤原ヒロシさんが、渋谷駅で迷子になったのは有名な話です。僕もイベントに行くために渋谷東口地下広場を目指したのですが、迷子になってしまって。今の渋谷駅はルートの説明が難しいです。
 
大西:僕は、無意識に駅周辺を避けて移動する道を探っています。おそらく、渋谷が地元の人たちは似たようなことをやっていると思います。
 
金山:渋谷駅はシンボリックなものがないから、どこに向かって歩いているのかわからなくなるのかも。

右:渋谷区観光協会・金山淳吾
1978年生まれ。電通、OORONG-SHA/ap bankを経てクリエイティブアトリエTNZQ設立。2016年から一般財団法人渋谷区観光協会代表理事として渋谷区の観光戦略をプランニングしている。

吉岡:先日、桜ヶ丘まで歩いてヒカリエに寄って帰ってきたのですが、見上げればビルがあって、ゾーン分けされた通路もある。でも、空も星も見えないから方向感覚がなくなるんですよね。ビルの高さにばらつきがあればいいのだろうけど、渋谷駅周辺は全てのビルが人の目線を超えています。
 
金山:そうか。全部が高層ビルで、どのビルもシンボリックだとも言えますね。渋谷駅はまだ完成していないですよね?
 
一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント 井上琢磨さん(以下井上):まだ工事中で仮設の出口もあります。地下からあがる地上部の各出入口番号を振り直していて、ABCDでゾーン分けをしています。ビル事業者と鉄道事業者等で番号を統一化して、わかりやすくしているところです。
 
吉岡:ヨーロッパの街並みは、統一感が一種の美しさを演出していますよね。でも、統一感がありすぎると圧迫感につながるだろうし、海外の人は渋谷のようなばらばらの街並みを「個性的だ」と評価する。

井上さんは開発側として難しい立場かもしれませんが、渋谷駅が迷いやすいこともまちの声として聞いていただければと思います。

地下と空中に道ができたら、大山街道はどうなるか?

金山:渋谷の地下空間は整備が進んで、完成が近づいてきました。そして、渋谷ヒカリエから渋谷マークシティを通って道玄坂上まではペデストリアンデッキ(※ビル間を空中で接続する高架型の歩道。歩道だけでなく、広場機能を併設することも多い)で繋がる予定です。地下と空中で移動が可能になって便利になるほど、地上にある大山街道はどうなるのか? 
 
髙木:大きなビルができると、事業主はビルで完結するようにします。そして、ビル間が空中で繋がって行き来できるようになる。まち視点で見れば一つのビルが賑ってもだめで、まち全体が賑わう施策が必要です。
 
宮益坂から見れば、開業前から渋谷ヒカリエだけで完結されては困ると思っていました。では、まちとしてどうするかというと、御嶽神社がヒントになるかなと。御嶽神社を中心に、お祭りやイベントで人を呼び込むことはできないか考えています。

渋谷宮益商店街振興組合 副理事長 髙木保治さん
某百貨店勤務を経て、株式会社きく屋宝石店入社。宮益町会役員・宮益御嶽神社理事を兼任

髙木:いずれにしても、渋谷に来て一歩も地上に出ず、ビルに入って帰る人ばかりになってはいけない。渋谷駅の西と東では歩んできた歴史が違うので、全エリアが一緒に取り組むのは難しいかもしれませんが、まずは各地区ができるアクションを起こさなければいけないと思います。
 
大西:70年代より以前の大山街道は現在より更に車道が広かったのですが、徐々に車道を狭めて歩道を拡幅しています。そんな中で地下と空中の道ができると、歩道が広がっても地上の道はスルーされるかもしれない。おそらく、渋谷で最初に行くのはスクランブル交差点です。スクランブル交差点を渡って、センター街を歩くのが渋谷観光の定番なら、路面で何かやるなど道玄坂を目抜き通りとして目立たせる工夫が必要だと思います。

渋谷スクランブル交差点イメージ
Shibuya Crossing from the southeast before clearance (20230805171758). N509FZ.2023

吉岡: 「歩道を広げたから歩いて」と言われても、人は歩かないですよね。自然に足が向く工夫が必要です。中学生の金山さんが、ヤマハで楽器を買いたくて渋谷に来たのはいいヒントで、目的や動機がないと歩いて向かわないと思います。

また、歩道をただ広くすればいいわけでもなくて、ある程度の狭さも必要ではないでしょうか。百軒店(※ひゃっけんだな:道玄坂2丁目にある地域。狭い路地に多様な個人商店が軒を連ねている)あたりは、人がたくさん流れていますよね。
 
大西:建物とか、人がたくさんいる雰囲気に囲まれる安心感ってありますよね。金曜日の夜は特にそうですが、道玄坂の先で何をするのかと思うほど人がたくさんいます。

渋谷道玄坂青年会 大西陽介さん
大学卒業後、広告代理店に10年在職し、マス媒体やデジタルマーケティングなどの業務に従事。 2017年より始まった「渋谷盆踊り」の企画サブリーダーをはじめ、渋谷の各イベントの地域担当やまちづくり施策の行政協議の地域メンバーを務める。学生時代よりDJとして活動した経験を生かし、地域へのナイトタイムエコノミーの理解促進と活性化にも取り組んでいる。

金山:まちには広い道ときれいな店がたくさんあるのに、人はなぜか百軒店や円山町に入る小道を歩いている。狭くて小さな道に迷い込む感覚が楽しいのかもしれません。
 
吉岡:東京都の街区再編まちづくり制度(※東京のしゃれた街並みづくり推進条例)で、109も変わるのかと聞かれることがあるけれど、そんなに簡単には変わらないですよ。喫茶ライオン(※名曲喫茶ライオン:道玄坂2丁目にある1926年創業の喫茶店)が、ずっと百軒店にあるように。
 
金山:井上さんは、賑わい創出のためのイベントスペースとスキームを作っています。渋谷東口地下広場があり、ペデストリアンデッキができると、複層階のイベントスペースが使えるようになる。加えて、大山街道などの街路は歩行者中心の空間を作ろうとしています。地下・地上・空中いずれも歩行者中心の設計をしている中で、どこでどんなイベントが必要だと考えていますか?
 
井上:まずは、渋谷東口地下広場の空間を活用してイベントを増やしています。東口地下広場は区分が道路上になるのですが、実験的に封鎖する道路の幅を広げて開催するなど検証を進めています。将来的には、道路という公共空間で常にイベントが開催されている状態を目指しています。

渋谷東口地下広場で開催されたイベントの様子(写真提供:一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント)

金山:イベントで人溜まりを作るのですね。
 
井上:まちの中で人が歩くのを見たり見られたりする関係があると、まちに動きが感じられます。道玄坂も宮益坂もエリアの特長に合ったイベントをすることで、それぞれのストリートに人溜まりができます。そして、あちこちでイベントが起きることで回遊性が高まり、まち全体の魅力が上がっていく。個人的には、一年に何度か地域が一体となったイベントを開催するのが好ましいと思います。

一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント 井上琢磨さん
1975年生まれ。1998年に東京急行電鉄株式会社(現東急株式会社)へ入社。2020年から一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント事務局長として渋谷区など官民連携でまちづくりに従事。

井上:地下・地上・空中と複層階の移動手段があると人溜まりが減り、まちの賑わいが分散されるのではとも言われますが、僕はむしろ選択肢が増えて利便性やまちの魅力が高まり渋谷に来る方が増えると思います。

例えば、海外からの観光客はスクランブル交差点と周辺を散策して移動するケースが多いようですが、複層階の移動手段があれば、空中から都市景観を楽しむなど、新しい渋谷の景色を見るスポットが増えるとも言えます。

「歩きたくなるまち」「座れる場所があるまち」を考える

金山:近年のトレンドとして「ウォーカブルなまちづくり」がキーワードになっています。皆さんはウォーカブルなまちという言葉に、どんな印象を持ちますか?
 
吉岡:わざわざ「ウォーカブル」と言うのは、人がまちを歩かなくなったからだと思います。まちの在り方について、「まちとはこうあるべきだ」と宣言しないといけなくなったのだなと。

ウォーカブルの文脈で話すと、移動手段として車は絶対になくならないですよね。でも、渋谷は駐車場が少ないから、車を駐車場に停めて歩くのが面倒になると思います。
 
大西:「ウォーカブルなまちをつくる」と言って、歩道を広げればいいという話ではないと思います。僕の感覚では、プライベートな場所とパブリックな場所の境界が曖昧なほうが歩いていて楽しい。昔は歩道に焼き鳥の屋台があったりして、境界が曖昧でした。歩く人が不便にならないことが前提ですが、道端でのパフォーマンスを認める制度が整うとまちの魅力度が上がると思います。
 
小池:やはり、歩道の広さよりも空間をどう使うかですね。週末の歩道は違う使い方をするなど、実証実験がやりやすいといい。パフォーマンスをしたい人やアウトドアでテイクアウトした食事を摂りたい人がいると思うので、実現できる場所が増えるといいですね。
 
髙木:安心して歩けて、地域の軸になる道が一本あることが大事だと思います。サンジェルマン大通り(※パリ、セーヌ川左岸にある通りの名称。高級ブランド店や多数のカフェが軒を連ねる)のような、まちの象徴になっている道があり、横道に逸れると小洒落た店があるというように。

井上:重要なのはグリーンだと思います。渋谷で軸になるのは、やはり大山街道のケヤキ並木です。大きく育ったケヤキが続く街道をどのように美しく見せていくか。グリーンにこだわることは大切だと思います。
 
金山:僕は、大山街道は難しいと思うんです。一般的に、まちの目抜き通りを歩く時は通りの端から端まで歩きます。例えば、原宿駅から青山へ向かって表参道の交差点まで歩くと、アニヴェルセル表参道やザストリングス表参道のテラス席があって、ホッと一息つける場所がある。途中には表参道ヒルズがあって、スタート・中継点・ゴールが明確にわかります。
 
一方で、大山街道はスタートとゴールに駅がありません。宮益坂にも道玄坂にも駅はなくて、どちらに進んでもゴールらしきものがない。先ほど(大西)陽介くんが言ったけど、道玄坂の先に行っても何をしたらいいかわからない人はいると思います。
 
ヨーロッパ視察で、路上のいたるところで飲食店が軒先営業をする様子を見ました。ヨーロッパでは、一日中路上で食事やお茶をしている景色があるんです。それを見て、渋谷はウォーカブルなまちではなく、座れるまちを作ったらいいと思いました。

パリのカフェイメージ
Café de Flore, 172 boulevard Saint-Germain (Paris, 6e). 2019.Celette

金山:人がまちを歩く理由を考えると、みんな座る場所を探しているとも言えます。であれば、街道に数メートル単位で飲食店が点在していることが大切ではないか。
 
渋谷は地下とペデストリアンデッキが整備されるのだから、急いでいる人は地下を歩いて、ビル間を移動したい人はペデストリアンデッキを歩くというように、複層階を目的別に使い分ける。そして、地上はテラス席を整備して目抜き通り感を出し、吉岡さんが言ったように見上げた空がきれいな道になるといいと思うんです。
 
大西:今の再開発は、イベントやテラス席のスペースも考慮した歩道計画にしていると聞きました。
 
金山:一区画でやってもだめで、全区画でやったほうがいい。対象の区画を通り過ぎたら、急に歩きづらくなるのはだめですよね。
 
髙木:スペースに配慮した大山街道が実現すれば、渋谷の象徴になると思います。一つ象徴となる軸があれば、そこから広げることができますね。各地域で、テラス席が点在しているという共通点を持つのは良いことだと思います。
 
金山:実現可能性を考えると、土地の価格が課題になりそうです。地価が高すぎると、カフェが出店する場がなくなる。イベント時はテラス席を使用することを条件に家賃に弾力性を持たせるなど、プライシングに工夫があるといい。街道に点在するテラス席を使えるようになると、地上の道の利用価値が高まりそうです。

新たな日本の中心地を作っていこう

金山:最後のテーマです。これからの渋谷について、皆さんはどう考えるか。どんな人たちに、どんな気持ちで渋谷を訪れてほしいか。ご意見をいただけますか。
 
井上:エリアマネジメント活動として、来街者の属性は絞っていません。今後は、公共空間を魅力的に使うことで、多様な目的で来られる方々を受け入れ、その方々がまち歩きを楽しんで、いつのまにか渋谷を回遊していたというエリアになっていることを期待しています。大山街道を中心に、路地裏まで回遊してもらえる流れを作っていきたいです。
 
吉岡:僕は、まちはなるようにしかならないと思う。最近よく見かけるのが、海外観光客がツアーの旗のもとで歩いている風景です。アニメの聖地をまわっているそうですが、それは誰かが仕掛けたというよりも、自然発生した流行です。まちは様々な要因で動きながら、毎日どんどん変わっていくものです。
 
先ほど金山さんがおっしゃった、まちに座る場所がないとはごもっともです。そして、解決しようとすると家賃の話がついてまわる。僕が不動産屋として思うのは、例えばハイブランドはある程度遠くても訪れるファンがいるので、街路から離れた場所でもいいのではないか。一方で、テラス席のあるカフェは公共性を鑑みたプライシングで街路沿いの路面に店舗を構えてもらう。こんなふうに、路上の使い方に発想の転換が必要です。
 
髙木:今は様々な取り組みのターゲットが若い人になっていますが、本当に渋谷は若い世代だけのまちでいいのか。これから年配の人たちが中心になる社会で、高齢者に優しいまちにならないと良い未来の話にならない。意識を変えて、誰もが共存できるまちになる必要があると思います。そして、大山街道をまちの主軸にすると言っても、地域ごとにいろんな特長が出てくるでしょう。同じような店舗や飲食店が並ぶ金太郎飴みたいな街路ではなく、スポットで地域色を出していくことが大切です。

また、宮益坂は子連れで歩く人が多い地域です。子どもの頃に宮益坂を訪れて、大人になって楽しかった記憶が蘇るようなまちになることを期待しています。
 
小池:大山街道が変わっていく中で、渋谷区観光協会が一緒に対応したいと思ったことがあります。変化の過程でクリエイターに参画してもらって、例えば公共サインを統一していくのです。渋谷駅の出口やトイレのサイン、ワンちゃんにおしっこをしてほしくない場所のサインまで、かっこいい公共サインがあるといいと思います。

あと、QRコードを読み取るという行為はシニアの皆さんも慣れてくると思います。例えば、街路にあるベンチやカフェの椅子などにQRコードを貼って、欲しい情報がすぐに手に入るようなまちになるといいですね。

大西:時間の流れに抗わず、良くも悪くも流されていくことも必要だと思います。大切なのは、時間の流れを敏感にキャッチすること。渋谷でギャル文化が生まれて経済圏が発達したのは、あの時代の流れをキャッチしたからです。変化を怖がらず、しなやかさを失わないまちでいてほしいと思っています。
あとは、ニューヨークと言えば自由の女神、ロンドンならビッグ・ベンというように、東京と言えばパッと渋谷の街並みが出てくるような、東京を象徴する場所になっていきたいですね。
 
金山:今日は、大山街道を目抜き通りにまちづくりをしていく流れが確認できました。これからも、目抜き通りを魅力的にするためにみんなで楽しく考えていきたいです。
1990〜2000年代の渋谷は、まちで商売をしてきた人たちがめちゃくちゃ頑張って活気を作ってメディアを賑わせたわけです。そこから次です。フタを開けたら大山街道が車線道路になっていた……なんて状況にならないように、日本の中心地を作っていく気持ちで取り組んでいきましょう。
 
吉岡:渋谷の再開発はこの後10年ほど続きますから。ある程度の開発が終わったところで、反省も含めて、改めて考えるタイミングを作りましょう。

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