滑琴狂走曲 in 秋田!(カッキンラプソディー・イン・アキタ)を開催!
2023/01/15(Sun.)
昨年1月から秋田市に滞在して制作してきた新作「滑琴狂走曲 in 秋田!(カッキンラプソディー・イン・アキタ)」のパフォーマンスを開催しました。この展覧会は滑琴(かっきん)というスケートボードとエレキギターを合体させた楽器を使って冬の秋田を演走しようとするものです。
▲展覧会の記録
午前中に最終のテクニカルリハーサルとパフォーマーとの動きの練習を行いました。会場には記録撮影や取材のカメラが置かれ、グッズ販売所も設置されました。ひとつの大きな空間をこれほど自分の活動で占拠したことがないので公演開始前は緊張しました。12時から客入りを開始して、13時に公演がスタートしました。
第一部のオープニングトークでは、ピンクのあいつのVtuberモデルがMCとしてイベントの進行管理を行います。ピンクのあいつの呼び出しで僕が登場して自己紹介を兼ねた短いパフォーマンスを実施します。
映像に沿ってパフォーマンスを進行したり、映像と会話する演出は2019年ごろから軽演劇コントへの出演や金沢21世紀美術館でのパフォーマンスから取り組んでいました。パフォーマンスにおいてライブ性や臨場感が重視される風潮を疑う姿勢と、あらかじめ準備された(エンコードされた)映像の硬直した様子を吃音の硬直に投影する意図があります。現場で観客と対峙する演者に比べて、淡々と進行する映像は直線的な時間の流れを感じさせます。映像の流れに翻弄されるパフォーマーの工夫や苦労がパフォーマンスの刺激になるでしょう。
第二部「室内道楽(Street Chamber Music)」では公募したパフォーマー(バンドメンバー)と一緒に滑琴を同時に演走します。これまで街の中で独りで演走していたのに比べて、室内で複数人で演走のははじめての試みです。これまでの街歩き的な演走はフィールドレコーディングのような観察的な視点で取り組んでいましたが、室内での演走ではライブハウスのような観客を魅了する熱量を意識しました。演走の対象が街のカタチから見る人へ意識が変化したような感覚でした。
なかなかバンドメンバーが集まってのリハーサルができず、当日の朝にやっと全員が集まって全体の音のイメージが把握できました。集団で演奏する時はメンバーのスケジューリングも大切であることを学びました。一方で、滑琴は正確な演走を行うための楽器ではなく、どちらかというとノイズ楽器のような側面があるため、どのような奏法(走法)で鳴らしても良い雰囲気があります。メンバーの中には今日はじめて滑琴に触った人もいましたが、自分なりに工夫して本番でもいろんな動きを見せてくれました。ノイズ楽器ゆえに正しさや失敗の境界意識が薄く、滑琴の誰でも演奏できる間口の広さを再認識しました。
第三部「雪中演走(Rhapsody in Snow)」は冬の秋田市を舞台に作曲した走行ルートを滑琴で演走する演目です。この日は秋田市文化創造館をパブリックビューイング会場として、街中での演走の様子をYouTubeとZoomを用いてライブ中継します。コロナ禍にオンラインパフォーマンスや密を避けたイベントを経験してから、野外でのパフォーマンスを中継する練習を重ねてきました。これまでの滑琴の野外演走では観客のアテンドが必要で、街中を大きく移動することが難しかったのですが、映像中継する形式にすることでダイナミックな演走が可能になりました。特に今回は冬の街を歩くパフォーマンスなので、観客の負荷を減らすことができました。
1年前にSPACE LABO2021の企画で秋田市に滞在した際は、積雪のために滑琴を演走することができませんでした。そこでカンジキにエレキギターの弦を張った楽器「寒耳琴(かんじきん)」を新たに開発して、雪道の秋田でも演走できるよう準備を進めてきました。ただ、この日はあいにく?天気が良く積雪はありませんでした。
今回の雪中演走のルートは、秋田市文化創造館から仲小路を通って中央通りにある「たまご公園」に向かいます。仲小路周辺は融雪舗装されているので滑琴で演走できました。また、たまご公園の一部に雪が残っていたので寒耳琴を使った演走を行いました。この日のために用意した寒耳琴を使うことができてよかったです。
たまご公園から秋田市文化創造館に戻るときには小雨が降ってくるなど、ハードな演走でしたが、館内に戻ると拍手で迎えてくださり、上手く中継できていたんだなと安心しました。
全ての演目を終えてから観客との交流の機会を設けました。滑琴や寒耳琴を試奏(試走)してもらったり、今日の演走の感想をいただきました。交流会のなかで嬉しかったこととして、私が観客の一人と話していて滑琴の試走対応ができなかったときに、観客同士でアンプや機材の触り方を教えあって乗っていたことです。自作楽器の分野では開発者自身が演奏することが多いのですが、作者の手を離れて人々が自発的に触って新しい奏法を試す姿が見られて嬉しかったです。今後も自作楽器が社会的な道具になるように努力していきたく、この点はイリイチの自立共生的(コンヴィヴィアル)の概念を参考にして、どうすれば人々の社会活動の一部に自作楽器が組み込まれるのか、影響するのかを考えていきたいです。
交流会終了後は取材に来ていたNHKのぶら下がり取材を受けました。取材された内容はニュースこまちで紹介されるようなので、どのような内容になるか楽しみです。
1年間の滞在制作と成果発表を終えて、当初のプランを妥協することなく実施させてもらえたのは館内スタッフをはじめ、パフォーマーやテクニカルサポートの手厚いバックアップがあってこそ実現できました。コロナ禍以降は密を避けるためにスタッフワークを避けて、自分一人で実現できる作品規模に取り組んでいましたが、今回は一人では実現できない規模での発表機会を持つことができました。自分の頭の中のアイデアを他人に共有するために、打ち合わせを重ねたりスケッチを何枚も描くなど、複数人での制作に必要な経験を積めたことは大きな収穫でした。大きな規模の発表機会を経験したことで今後も同程度の発表に物怖じせずに取り組めそうです。
また1年前の滞在制作では積雪のために滑琴が演走できず、今回は雪対策として寒耳琴を用意して1年越しのリベンジに臨みましたが、雪は積もりませんでした。秋田の雪との戦いは負けっぱなしです。ただ、簡単に勝たせてくれないことが秋田の雪のようにも思います。夜中に除雪車を動かして闘ったり、かまくらを作って日本酒を冷やす冷蔵庫として利用したり。秋田での滞在制作を通して、そんな雪との暮らしの風景を何度も見てきました。思い通りにならない冬の秋田でしたが、たまご公園の隅に少しの雪を残してくれたのは嬉しいサプライズでした。
思い通りにならない世界で現実だけを見据えて暮らすのは閉塞感で押しつぶされそうになります。それでも音楽や祭りという一時的な時間のなかで、思い通りにならないことを楽しんだり乗り越えたりして人は前を向くのでしょう。滑琴は音高をコントロールすることを目指す楽器でなく、秋田の雪もコントロールできるものではありませんが、今回の作品ではコントロールできないものを楽しむ姿が示せたと思います。今後も思い通りにならない世界を楽しむ音楽活動を続けていきたいと思った秋田滞在でした。
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