インスリンポンプと国際線
医療機器「インスリンポンプ」を装着したまま国際線の飛行機へ搭乗できるのか。海外の保安検査場でトラブルは起きないだろうか。
この度、趣味でタイへ旅行することになりました。初の海外渡航でもあり、インスリンポンプを装着して保安検査を通る方法についての情報が少なく不安でしたが、この体験談がひとつの事例として他ユーザーの方の参考になればと思います。
このnoteは出発前から時系列にまとめています。
お急ぎの方は目次から5へ。
1. はじめに
私はIDDM(一型糖尿病)患者です。
IDDMとは、自己免疫異常により体内で一切のインスリンが分泌できなくなる病気です。
生活習慣に起因する二型糖尿病とは別の病気であり、発症原因が定かではありません。
発症当時は自己注射を行っていましたが、2012年ごろからインスリンポンプという医療機器を携帯するようになりました。
現在の使用機器はメドトロニック社のミニメド780Gです。毎日行っていた血糖値測定も必要なくなり、オートモードで血糖値をコントロールしてくれます。まるで現代の医療技術をもって叶えた人工膵臓だと思いました。
2. 航空会社へ事前連絡
海外旅行へ行くとなって抱えたいちばんの不安が、
インスリンポンプを装着したまま保安検査を無事通過することができるのか?ということ。
インスリンポンプは故障の危険性からX線装置へ通すことができません。
またボディースキャナーの使用も不可です。インスリンポンプの穿刺部位とCGMのセンサー、トランスミッタを取り外さなければいけません。
私は渡航中インスリンポンプを絶対に取り外したくなかったため、X線を使用しない別の検査方法を航空会社へ要請する必要がありました。
今回 利用する航空会社はLCCの
タイベトジェットエア
タイエアアジア
の二社。
当日スムーズな搭乗ができるよう、旅行の二週間前にそれぞれの航空会社へ問い合わせをしました。
・タイベトジェットエア
まずタイベトジェットエアへ問い合わせをします。
公式サイトを見れば日本語電話窓口があるようですが……。
サービスセンターというページ。電話番号は03…のものと+84のもの。
03…は日本の番号なのでかけてみます。しかし残念ながら、後ほどお掛けくださいの連続でした。
もう一方の+84…はベトナムの電話番号でしょうか。こちらは自信が無く断念しました。
ちなみにこちらはコールセンターというページ。よく見ると……日本の電話番号がさっきと異なり05…という番号です。
別の日本窓口があるのかと思い掛けてみようとしたのですが、通話アプリに飛んだところで先程の03…の番号へと変わりました。05…となっているのは表示のミスで結局電話窓口は一本です。
ということで電話はやめてメールを送ってみることにしました。
しかし、ここで落とし穴が。
「ベトジェットエア」と「タイベトジェットエア」は問い合わせ先が異なりました。ご注意ください!
海外の会社なので英語でのメールが良いです。問い合わせ内容はこのようにしました。
【件名:医療機器をつけています】
①氏名(日本人であることも記入しました)
連絡先電話番号、メールアドレス、
フライトの予約番号(英数字6桁)を記載
②○月○日の
○○空港(○:○)から○○空港(○:○)の便
【予約番号○○○○○○】を
○○○(航空会社名)で予約している。
③Medtronicのインスリンポンプ
(MiniMed 780G)という医療機器を
体に装着している一型糖尿病患者である。
④インスリンポンプはエックス線とボディースキャナーを使用することができない。金属探知機は使用が可能である。
⑤保安検査の前に何か特別な対処が必要かどうか。
送信後、自動配信で受付完了メールが届きました。
三営業日以内に返信するとのことです。
さて、返信は二日後に届きました。
内容は次の通りです。
医療機器についての記載はなく、とにかく医師による診断書が必要ということです。
・タイエアアジア
次にタイエアアジアへ問い合わせをします。
日本の電話窓口を探すと公式サイトに番号が載っていました。
https://support.airasia.com/s/article/How-to-Call-us?language=ja
ボイスメールサービス。伝言メッセージのように録音をして24時間以内に折り返しがあるようです。
ベトジェットにメールした問い合わせと同じ内容で録音をとりました。
しかしメッセージの録音が上手くいったか確認できないまま電話を切ってしまい、きちんと問い合わせが送られているのか不安が残りました……。
(ボイスメールについては後に進展があります)
ちなみに、色々なサイトを調べていたところ05…から始まる他の電話番号も見つけて電話をかけてみたのですが、現在使われていない電話番号でした。
やはりメールしか確かな手段はないのでしょうか。ボイスメッセージが届いていなかったらいけないので、メールにも同じ内容を送ることにしました。
サイトの下部にあるコンタクトチャンネルから「メッセージを送る」を選択します。問い合わせフォームが出ました。
内容はまたベトジェットへ送ったものと同じです。送信後、問い合わせ番号が出てきて終了。自動配信の受付完了メールが届きました。
タイエアアジアにはこの度合計3回メールを送ったのですが、1回目のみ確認メールが届きませんでした……。
翌日返信が届きました。
しかし、「病気のために飛行機へ乗ることができなくなったためチケットをキャンセルしたい」という内容と思われたらしく、キャンセルの方法について案内されてしまいました。
もう一度「医療機器を装着したまま搭乗したい場合、何か特別な対処が必要か」を主な内容にしたシンプルな文面で問い合わせメールを送信します。この返信は翌々日でした(返信内容については後述)。
さて、翌日タイエアアジアからは別のメールが届きました。なんとボイスメッセージへの返信です。
ボイスメールの問い合わせには「24時間以内の折り返し電話」との記載だったので、昨日折り返しが無かったということはメッセージの録音には失敗していたのだと思い込んでいました。
まさか2日経ってEメール宛に返事が届くとは。
内容は次の通りです。
こちらも医師の診断書があればひとまずは良さそうです。ボイスメールを送っておいて良かったと思いました。
ちなみに、二度目のメール問い合わせの返信では、タイエアアジアの医療機器持ち込みに関するサイトのリンクを教えていただきました。
https://support.airasia.com/s/article/carriage-of-electronic-medical-devices?language=en_GB
航空会社への問い合わせを終え……
LCCの海外航空会社はこんなにもコンタクトが取りづらいものなのかと驚きました。今回結局カスタマーセンターとは一度も電話が繋がりませんでした。
またメールの返信も二日三日と時間を要するため、本当に早めの問い合わせが吉です。
3. 事前に準備した書類
インスリンポンプについて書類として用意したものはこちら。
・医師による診断書
それぞれの航空会社に指示された通り、
①一型糖尿病患者であることの証明
②旅行可能であることの明記
③医療機器はX線及びボディースキャナーへ通すことができないという旨
④医師の署名
以上の内容の診断書を主治医に書いていただきました。
・メドトロニックエアポート情報
メドトロニック社が提供している、緊急情報・エアポート情報カードです。日本語と英語の二言語で書かれているので便利です。
タイ語でも併記しました。
・糖尿病患者情報カード(Diabetic Data Book)
主治医に申し出て糖尿病患者情報カード(Diabetic Data Book)を記入していただきました。
表紙には「私は糖尿病患者です」と英語、フランス語、スペイン語、中国語、ハングルの5ヶ国語で書いてあります。
空欄にタイ語でも記載しました。
4. 当日保安検査場にて
さて、渡航当日です。飛行機には三回乗ったため、保安検査も三回受けました。
保安検査で書類を見せる。
その予定でしたが現場は非常に混み合っていて、スタッフが慌ただしく動かれている中で申し出るのは一苦労です。
またゲートへ行き着くより先に手荷物をX線検査へと送るため、タイミングが悪いとスタッフへ声を掛けるより先に書類を手放さなければならない場合もありました。
多くの書類を準備していましたが、それらは「お守り」と思っておいた方が良さそうです。
・日本の空港
出発は日本の空港です。スタッフが日本人で、言葉が通じるのは安心しました。
手荷物をX線へかけるトレイに収めた後、スタッフの方へ医療機器を装着していることをお伝えして了承をいただきました。
ゲートを出た先にいる別のスタッフへも伝達をしていただき、フォローについてくださったのはとてもありがたかったです。
そのままゲートを通ってくださいと案内されたのですが、このときお聞きすれば良かったものを、そのゲートが金属探知機なのかボディースキャナーなのか初心者には分からず不安を覚えたため、ゲートを通らずボディーチェックをしていただくようにお願いしました。
ボディーチェックに際し待機時間がかかったもの、保安検査は無事に通過できました。
・スワンナプーム国際空港
タイの国内線で利用しました。
日本の保安検査のときには金属探知機とボディースキャナーの違いについて分からなかったのですが、スワンナプーム国際空港では自分が通るゲートが金属探知機であると理解できたため安心して進めました。
ゲートは問題なく通過できました。しかし、通った先で厳しい目のスタッフに止められてしまいます。
ポンプを指差していたのでmedical equipment と答えます。そのまま数分の待機、別のスタッフが白い紙をインスリンポンプへ近づけました。
何をしているのか分からなかったんですが、これは後にETD(Explosive Trace Detection)=爆発物探知機による検査だと知りました。
そしてまた今回もボディーチェック。人一倍、いや人二倍は時間がかかります。異常なしと認められると厳しい目のスタッフはにこやかになり、行ってらっしゃい!と見送られました。
やはりインスリンポンプはアピールしながら進んだ方が良さそうです。
・チェンマイ国際空港
帰国の際の国際線で利用しました。
保安検査場は2レーン見えました。片方が金属探知機のゲート、もう一方がボディースキャナーのゲートです。
私はボディースキャナーのルートを避け、急いで金属探知機の方へ進みます。
手荷物をトレイに入れていると、スタッフにインスリンポンプを指差されます。medical device と答えるも釈然とせず数人のスタッフにストップをかけられます。いくつか質問を受けたのですがタイ語だったので分かりませんでした……。
どうにもならなそうなのでOK !! OK !!と言い、お守りの書類を引っ張り出すことにしました。X線へ流される前で良かったです。
そこで驚いたのが……、あの緑色の書類、糖尿病患者情報カード(Diabetic Data Book)を見せるや否やスタッフの表情は一変。Okay, go!!と金属探知機へ案内されます。
まさか糖尿病患者情報カードで一発OKになるとは……保安検査場において知名度があるものだったのでしょうか。
またスワンナプームのときと同じく、スタッフが白い紙をインスリンポンプへ近づけます。
爆発物探知機による検査の後はボディーチェック。もう三回目で慣れました。これでこの度の保安検査はクリアです。
5. 結論
インスリンポンプを装着して国際線へ乗った結果
・ボディースキャナーの列は避けて!
・インスリンポンプをアピールするとスムーズ
・医療機器の証明書や医師の診断書はお守り程度に
・爆発物探知検査とボディーチェックがあるかも
・ゲートを通るには人一倍時間がかかりがち
金属探知機とボディースキャナー、列が複数ある場合はボディースキャナーの列を避けて進むことをおすすめします。
保安検査場のスタッフにインスリンポンプをアピールして、「これは何?」と聞かれたときに medical device と答えるのがスムーズだと思います。
メドトロニックエアポート情報や糖尿病患者情報カード(Diabetic Data Book)、医師による診断書があれば心強いです。必ず無いといけない、そういう訳ではなさそうでした。
爆発物探知機やボディーチェックは簡単な検査なので身構えなくても大丈夫です。しかし人間の手によるものなのでゲートはスムーズに進まず、時間は人一倍かかります。余裕を持って保安検査場へ向かうことが吉です。
6. 気を楽に
今回初めて国際線に乗り保安検査を通りましたが、事前に想定していたよりはスムーズに進めたと思います。案ずるより……と言いますが、本当にその通りです。
インスリンポンプユーザーの皆さん、国際線の保安検査場大丈夫ですよ!海外旅行を楽しみましょう!
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