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廃駅のなかの 戦争の記憶 ー大洲大作 未完の螺旋 @旧博物館動物園駅

 上野の東京国立博物館の隣にある 小さいながらも荘厳な雰囲気の建物。1997年に営業を休止、2004年に廃止となった京成電鉄・旧博物館動物園駅です。

 2018年11月から2019年2月にかけ、廃止後初となる一般公開開始が行われ話題になりましたが、先日、こちらの駅舎を使った展覧会が開催されました。(※展示は終了しています。)

「大洲大作 未完の螺旋」

 「ネジ(螺子)」と、亡父の手記を軸にしたインスタレーション作品が展開されます。

■廃駅と螺子と戦争の関係

 廃止になった駅と、螺子(ネジ)と、戦争。これらの関係は、作品を見て、調べていくまで知りませんでした。

 1933年の開業時、御前会議での「世伝御料地内に建設するため品位に欠けるものであってはならない」とのお達しのもと、世伝御料地という特別な土地に建設されることに配慮して、西洋風の荘厳なつくりで建設された駅舎とのこと。

 しかしながら、1945年6月、戦争に伴い上野公園―日暮里間は当時の運輸省の接収を受けます。

 当時の駅は、上野公園(現在の京成上野駅) - 博物館動物園 - 寛永寺坂 - 日暮里で、(寛永寺坂は1947年休止、1953年廃止。)旧寛永寺坂駅上りホームは地下軍需工場となり、さらには上野公園駅(現在の京成上野駅)においても軍需品の生産が計画されていたといいます。

■ ”この夏”と”その夏”をつなぐインスタレーション

 インスタレーションは3部で構成されています。

 ドームの天井のエントランスでは、京成電鉄の運行表に電車のある風景が映し出された「1. 螺旋の日々ーこの夏」。”夏休み”をイメージするような、外の公園の風景と駅舎をつなぐ作品です。

 続いて、ホームに向かって下っていく階段には、照明が落とされ、「同じ1945年6月に軍需工場の職を得た亡父の手記」などの文章とともに、旋盤や大きなネジが置かれた「2. 螺旋の日々ーその夏」

「こうして地下への階段を下りていくと、
その夏が思い出される。工場は、この下にあった。」

 コンクリートの無機質な空間が、工場のように感じられていきます。

 展示されたネジは、階段を下りるほどに、錆びつき、壊れたり、曲がったり…不穏な雰囲気を感じます。

 階段を下り切ると「3. 螺旋の未完」。実際に京急線で使われていたという木製の窓枠に、車窓の風景が映し出されます。

 時折、ゴーっと電車の音がするのは、さらに階段の下にある線路を電車が実際に通過していく音。ホームに続く階段をガラス越しにのぞいてみると、足元には砂でつくられ崩壊したネジと、赤く点滅する信号。

「其の時である。慟哭の声が聞こえてきた。

嘘のようだ、と思った。
少なくとも戦争終結は、私達若者が
凡て死絶えた後の事と思っていた。

間一髪、助った、と思った。生き延びた。
遂に、人に殺されずに済んだ。
遂に、人を殺さずに済んだ。
…(殺さずに済んだ?)」

 階段を上って地上に戻りながら、「この夏」と「その夏」がグラデーションのようにつながっているようにも感じるインスタレーションでした。

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【展示概要】大洲大作 未完の螺旋 (会期終了)

会期:8月10日(土曜)〜8月18日(日曜)
時間:13時〜18時
会場:京成電鉄 旧博物館動物園駅(台東区上野公園1丁目12番)
入場料:無料(※ただし入場には当日分の整理券が必要)
整理券配布:会期中毎12時30分~会場前(道路を挟み、上野公園内)にて


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