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街に残る「歴史の痕跡」から、”モノクロでない過去” を感じる / 「柏飛行場と秋水 - 柏の葉 1945-2020」@柏の葉T-SITE

「秋水(しゅうすい)」という飛行機の名前は、今回の展覧会で初めて知りました。

柏飛行場と秋水 - 柏の葉 1945-2020

千葉県柏市にある柏の葉T-SITE内で開催中の「柏飛行場と秋水 - 柏の葉 1945-2020」。アーティスト・八谷和彦さんの企画の展覧会です。

大きな会場ではないけれど「かつて柏にあった飛行場」「ロケット有人機・秋水」を軸に、飛行機とそれに関わる人、土地の歴史、写真…と、様々な要素があって、とにかく情報量がすごい展覧会です。

内容については、八谷さんのnote・マガジンを読んでいただくのが一番良いと感じていますが(展示を見た後にも「なるほど!」と思うこと多数です…)、初めて知ることも多数あり、感想を書いておきたいと思いました。

▼「柏飛行場と秋水 - 柏の葉 1945-2020」関連記事マガジン

1) 初めて知った「秋水」という飛行機

今回の展示の軸となるのは、太平洋戦争中に柏につくられた「柏飛行場」と、そこで飛行試験の行われた「秋水」という飛行機。

会場でその模型を目にすると、無尾翼でころんと丸いフォルム。会場には八谷さんの作品であり同じく無尾翼機の《風の谷のナウシカ》に登場するメーヴェをコンセプトに制作された《M-02》の模型も展示されていますが、姉妹のようにも見えてきます。

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「秋水」模型

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《M-02》模型

そのかわいらしいフォルムからは想像もつきませんが、「秋水」は、B29の迎撃用として昭和19年7月末から開発が進められていたという「有人ロケット機」。今から70年以上も前に国内でロケット?それも有人?と、なんだか唐突に感じてしまいますが。

わたしは戦闘機についてほとんど知識がなかったのですが、当時、「なぜB29は日本国内で迎撃されることもなく、日本の都市を焼き尽くすようなことができたのか?」というと、B29は高度1万m, 時速570kmで飛行が可能であったのに対し、当時の日本の飛行機では高度1万mまで上昇するのに40minかかり、迎撃するのが難しかったとのこと。

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そんななか、「秋水」は2tの燃料をつかってロケットエンジンを約3.5minで上昇し、残り4minで迎撃、燃料が尽きたらグライダーとして滑空して帰還するという機体。(※ 「柏飛行場と秋水 - 歴史めぐり街歩き -(後編)」より)

最終的には、未完成のうちに終戦を迎えたとのことですが、当時柏飛行場で行われたテストフライトの様子は、秋水研究家・柴田一哉さんによるCGの映像で再現されていて、こんなものが本当に70年以上前に作られていたの?という驚きでいっぱいになります。

この再現CGは、上記の映像「なぜ秋水に惹かれるのか?」のなかでも見ることができます。また、秋水が「技術的に何がすごいのか?」というところは、同動画内 「稲川貴大氏(インターステラテクノロジズ)インタビュー(37:50)」の中でもわかりやすく解説してくださっています。

2) カラー化した写真から考えること

今回の展覧会で私が個人的に印象的だったのは、「秋水」「柏飛行場」にまつわるモノクロ写真をカラー化したものでした。撮影は航空機設計者の木村秀政先生。

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「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」などの著書ももつ東京大学・教授の渡邉英徳さんの手により、AIによるカラー化の後に、さらに考察を加えて色補正を加えます。

その後、さらに「この世界の片隅に」も監督された片渕須直さんによって監修され、当時の写真が鮮やかな大判のカラー写真となって、会場に展示されています。

カラー化の過程も会場とYoutubeで公開されています。当時使用していた顔料や流行などから、微妙な色のニュアンスまでもものすごい速さで推察していく片渕須直さんに圧倒されます…

それらの写真の中でも特に印象的だったのは、特兵隊の方々がすごくリラックスした雰囲気で写っている写真。モノクロの記録写真とも、戦争映画とも全く違った不思議な感覚になります。なんというか、「戦争中の写真」として見るのではなく、「今と変わらない、ひとりの人」として見えてくるというか。

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私の祖父は、特攻に行くことが決まっていたところで終戦を迎えたそうなのですが、そんな戦争の話を聞いてもどうしても頭の中に浮かぶのはモノクロの風景だったのだけれど、なんだかこの”今と変わらない”感じを見たら、「訓練中、こんな感じだったんだろうか?」と、じわじわとそれがすごく近いものに感じられてきて、自分事になっていくような感覚でした。
(※ 柏は特攻とは関係ありませんが)

ふと、石内都さんの「ひろしま」の写真シリーズについて、花柄のワンピースやカラフルなボタンのついた服などの写真を見て、「戦争」がモノクロじゃない風景だと初めて感じられたという話を思い出しました。

動画の中でも「(戦争体験のヒアリングを行うときにも)色がつくと話す方の蘇りかたが変わる。堰を切ったように話される。」といった話もあり、「色」というのは本当に重要な要素で、だからこそ扱いも難しいものなのだということも感じられます。(こうした理由もあって、会場には、検証のための資料が不十分として、あえて彩色を断念した写真もありました。)

3) 土地を歩いて 歴史を知る

「柏飛行場」と「秋水」を軸とした展示ですが、江戸時代から現代まで、柏の土地の歴史についても、様々な側面から紹介されています。

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会場では、近隣の立体地図を使ったプロジェクションマッピングも。

柏歴史クラブの方々と、八谷さん、小林エリカさんによって、まるで「ブラタモリ」のように紹介されています。(小林エリカさんのドローイングも多数拝見することができます。)

「住んでいるこの街にあった歴史を知ることで、その街が好きになる。そういうことになればいいな、と思って企画しました。」という八谷さんの思いが伝わってきます。


「戦争」にまつわる展覧会とはいえ、不思議と重々しくはなく、「秋水」の機体にいたっては、「本当にこんな物を こんな短期間で?」とある意味興奮さえも感じるのですが。

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でも、やはり、この短期間でこれを開発するという任務を果たさなければいけなかったこと、その裏に話を聞いただけで真っ青になるような危険な作業や実験などもあったことも見えてきます。

歴史博物館や、戦争の悲惨さを訴えるような展示とは少し違った視点で、でも、今までよりも自分に近いもののようにそれを見ていくことができるような展示でした。

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【展覧会情報】 柏飛行場と秋水 - 柏の葉 1945-2020

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会期:2020年12月7日(月)- 20日(日) ※会期中無休
時間:9:00-21:00 ※最終日20日のみ17:00まで
会場:柏の葉T-SITE(千葉県柏市若柴227-1)1F
観覧料:無料


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