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【幾何代数1】すごいぞ幾何代数

幾何代数とは何か

適用範囲と経緯

 幾何代数(geometric algebra)は、英国の数学者 W.K.Clifford(1845-1879)が1878年に発表した代数の一種である。
 以下のように紹介される。

(略)物理学(力学,電磁気学,量子力学,相対性理論など)や工学(ロボット制御,コンピュータビジョン,コンピュータグラフィックスなど)で重要な役割を果たすことが期待され、注目されている(略)

金谷健一:「幾何学的台数の要旨」,計測自動制御学会議第8回コンピューテーショナル・インテリジェンス研究会講論文集,p.19,(2015)

  It unifies all branches of physics, and has found rich applications in robotics, signal processing, ray tracing, virtual reality, computer vision, vector field processing, tracking, geographic informations systems and neural computing.
 (幾何学的代数は)物理学の各分野を統合するものである。また、ロボット工学、信号処理、光源追跡法、仮想現実、コンピュータ・ビジョン、ベクトル場加工処理、トラッキング、地理情報、ニューロコンピュータといった分野において、幾何学的代数の応用が可能であることが発見された(※拙訳)。

Eckhard Hitzer: Introduction to Clifford's Geometric Algebra, 計測と制御 第51巻 第4号(2012), p338

 「20世紀末に米国の物理学者ヘステネスがとりあげるまで,一部の数学者を除いてほとんど忘れられていた(金谷 2015)」ため、上記のような応用の広さ、有用性にも関わらず、物理数学系の初学者には正式に教えられていない

特徴

 幾何代数は、その先駆的成果であるハミルトン代数(四元数 quaternion)とグラスマン代数(外積代数 exterior algebra)を統合・包含する。複素数、分解型複素数(双曲複素数)、四元数等は、幾何代数の一部として埋め込まれる。座標に依拠せず記述できる。

 複素数には実軸と虚軸による複素平面(ガウス平面)の定義が必要であるが、幾何代数で複素数に相当するものは特別な座標系を必要としない。また、大学のベクトル解析で学ぶクロス積(これも外積と呼ばれることもある)が三次元に限定されるのに対し、幾何代数の外積ウェッジ積 楔積 wedge product)にはそのような限定はない。

 高校や大学初年度で学ぶベクトル解析と異なるのは、「幾何積」と、「多重ベクトル」の存在である。そこから単純な数学操作により回転等の幾何学的操作が導かれる。多重ベクトルは回転操作を同一平面内で完結させるため、感覚と符合する。物理的な概念が各等級のベクトルに割り当てられ、よりシンプルかつ明確な物理概念の把握を可能にしている。

名称について

 Geometric Algebraの邦訳については揺れがあり、「幾何学的代数」「幾何代数」の二つがある。
 この分野の国内先駆者である金谷健一氏(岡山大学名誉教授)は、前者「幾何学的代数」という名称を採用している。また、「幾何代数」という名称は、一般的な高校数学の分野等を指す「代数・幾何」と混同される恐れがある。
 どちらを採用するか悩んだが、本稿では、将来的にGeometric Algebraが普及した時に短く簡明な名称が望まれると考え、「幾何代数」で統一する。

講座内容

 当面の間、執筆内容や分量に応じて随時改訂する。

Ⅰ 幾何代数の基礎

  1. 概要

  2. 多項式の展開と交換法則

  3. 発想:幾何積=内積(ドット積)+外積(ウェッジ積)

  4. 幾何積の三角関数表示

  5. 発想:面ベクトル(多重ベクトル)

  6. 2次元での基底

  7. 基底の性質

Ⅱ 2次元での演算と幾何学操作1

  1. ベクトルの成分(基底)表示

  2. 単位ベクトルと逆ベクトル

  3. 分配・結合・交換法則の確認

  4. 2次元基底間の幾何学積の相互関係(表)

  5. 面ベクトル同士の加法・減法

Ⅲ 2次元での演算と幾何学操作2

  1. 正射影と反射影の作り方

  2. 内積と外積の関係

  3. 鏡像変換と作用子

  4. 回転と回転子

  5. 回転子の指数表現

  6. 2元1次連立方程式の再解釈と解法

Ⅳ 3次元での演算と幾何学的操作

  1. 3次元での基底

  2. 3次元基底間の幾何積の相互関係(表)

  3. 次元と基底数の関係

  4. 体ベクトル同士の加法・減法

  5. 正射影・反射影・鏡像変換・回転

  6. 3元1次連立方程式の再解釈と解法

Ⅴ 既存の分野との関係

  1. 幾何代数と複素数・四元数の関係

  2. 外積とクロス積の関係

  3. 双対ベクトル

  4. 行列の幾何代数との関係

  5. ベクトル解析の幾何代数による再構成

  6. マクスウェル方程式の幾何代数による表現

  7. 講座のまとめと今後の展望

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