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カーボンリムーバル総研③海外におけるNETs/DACの政策動向(アメリカ編)

こんにちは!大気中の二酸化炭素(以下CO2)を直接回収する技術「Direct Air Capture(以下DAC)」の社会実装に取り組む日本初のスタートアップ、Planet Saversの池上です。

今回の記事では、米国におけるDACに関連した政策を深堀りしていきたいと思います。米国は、2050年にCO2排出量ネットゼロを達成するためには「排出削減」と「大気中からのCO2の除去」の2つの戦略が必要とし、DACを政策的に強く支援して産業創出に取り組んでいます。その中でも特に大きな3つの支援を中心にご説明します。

1.Carbon Negative Shot

米国エネルギー省(DOE)は、2021年11月、米国政府による初めてのCarbon Dioxide Removal(CO2除去技術、以下CDR)の大規模な取り組みとなる「Carbon Negative Shot」を発表しました。その中ではCDRの実施コストを100ドル/トン以下にし、高品質で耐久性のある貯蔵を実現することを目標として表明しています。

Carbon Negative Shotの説明動画

(動画:DOE

2022年12月には、DACを活用した事業などに37億ドル(約5,300億円)を拠出することを発表し、そのうち35億ドル(約5,000億円)が国内に4カ所設置されるDAC Hubの設置に充てられる予定です。DAC Hubは1カ所当たり年間100万トン以上のCO2を回収できるプラントが建設される超大型のDAC設備となります。
2023年8月には、総額12億ドル(約1,800億円)の第1弾採択案件を公表し、商業化を前提とした2案件に10億ドル(約1,500億円)、FS・FEED(基本設計調査)の19案件に計2億ドル(約300億円)を提供するなど企業への資金提供が積極的に行われています。
特に規模の大きいプロジェクトとして「Project Cypress」と「South Texas DAC Hub」の2つがあり、これら2つのDACハブを合わせると、毎年200万トン以上のCO2が大気から除去され、ルイジアナ州とテキサス州で合計4,800人の雇用が創出される見込みです。
「Project Cypress」には、CO2を回収・貯留する技術「Carbon dioxide Capture and Storage(CCS)」などを実施してるBattelle社、スタートアップ企業であり、2023年12月にはENEOS株式会社との実証実験を発表したClimeworks社マイクロソフト社と31万5,000トン分のカーボンクレジットの調達契約を結んでいるスタートアップ企業のHeirloom社の3社が選ばれました。「South Texas DAC Hub」には、大手石油企業Occidental Petroleum社の子会社であり、DAC施設として過去最大規模の金額でブラックロックが投資した1PointFive社、そのパートナーであるCarbon Engineering社、オーストラリアのエンジニアリング会社であるWorley社の3社が選ばれています。

(出典:https://www.linkedin.com/pulse/does-direct-air-capture-hubs-wait-theres-more-mike-matson/)

2.Inflation Reduction Act(米国インフレ抑制法、以下IRA)

DACの税制控除に関しては、2022年8月に成立したIRA(※1)において、回収したCO2の量に応じて事業者に税額控除クレジットを付与する税額控除政策「セクション45Q(※2)」が拡大され、大気から直接回収したCO2に対する税額控除インセンティブを追加しました。更に、これまでCO2回収1トン当たり50ドルの税額控除だったものが、最大180ドルにまで拡充されています。
具体的にはCO2を燃料、化学物質、製品などに変換して利用する場合には130ドル/トン、地下貯留等の除去には180ドル/トンが税額控除されます。
(※1)2022年8月16日にアメリカで成立した過度なインフレを抑制すると同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的とした法律。
(※2)条件を満たす施設において、業種・CO2回収量に応じて基本12年の税額控除クレジットを付与する制度で、CO2を回収・貯留・有効利用する技術「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(CCUS)」の導入・活用の促進のため成立。

ネガティブエミッション市場創出に向けた今後の方針について 経済産業省

3.オフテイク契約

2023年9月には米国政府として初めてオフテイク契約(※)によるCDRクレジットを国内の事業者から直接購入(企業がCDRクレジットを米国エネルギー省に直接販売)するプログラムをアナウンスしました。今年度にはパイロット版の実証実施やMRV(測定・報告・検証)手法の開発に対する資金提供プログラムのリリースを予定しています。
(※)供給者と購入者の間で、供給者が提供する予定の商品・サービスの全部または一部を購入または販売するための取り決め

応募資格
民間団体(営利・非営利を問わず)および学術機関

4つの対象技術
1:大気中のCO2を直接回収し貯蔵する技術(DACCS)
2:バイオマスを用いて大気中のCO2を回収し貯蔵する技術(BiCRS)
3:風化促進または鉱物資源化の強化
4:管理された炭素吸収源(大気中のCO2を吸収し比較的長期間にわたり固定することのできる森林や海洋などのこと)

プログラムの詳細
3つのPhaseを通して、アメリカ政府から対象技術を持つ企業に最高3,500万ドル(約50億円)を提供
Phase1:企業がCDRクレジットのコンセプト、主な契約条件等の概要について提案
Phase2:企業がオフテイク契約の詳細計画を提案、正式なオファー提出
Phase3:契約上の納期と基準に沿って、第三者認証済みCDRを企業が政府に納入
(Phase2及び3は前のPhaseでの基準通過者のみが応募可能)

(出典:Overview of DOE Carbon Management Activities and the Carbon Dioxide Removal (CDR) Mission Carbon Dioxide Removal Purchase Pilot Prize – DOE FECM HP)

以上のように米国の支援策やプログラムを背景に、世界的に急速に除去市場が形成されはじめており、将来的な需要の急拡大と、炭素除去価値の上昇が予測されます。

次回は、EUにおけるDACに関連した政策についての記事を書こうと思いますので、ご関心お持ちいただけたらご拝読ください!