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カーボンリムーバル総研②「Direct Air Capture(DAC)」とは?

こんにちは!大気中の二酸化炭素(以下CO2)を直接回収する技術「Direct Air Capture(以下DAC)」の社会実装に取り組む日本初のスタートアップ、Planet Saversの池上です。

本日の記事では、前回のnoteでも少しご紹介したDACについて、より深堀りしていきたいと思います。

DACとは?

DACとは、工学的に大気中のCO2を直接回収する事で気候変動緩和に貢献する技術の事です。回収したCO2は、地中に埋めて貯留=大気中から1,000年以上除去する他、ハウス栽培や炭酸飲料用の炭酸ガス、水素に混ぜて合成燃料、他にもドライアイス等の形で再利用(カーボンリサイクル)する等ができます。  

DACのイメージ

           

DACの歴史

DACは1999年に提唱され、2010年ごろから欧米のスタートアップによる事業化が始まりました。既にヨーロッパやアメリカでは大規模な運用を開始している企業もあり、2017年にClimework(スイス)が世界で初めて工業プラント(年間900トンのCO2の回収能力)の運用を開始しました。
他にも、ビル・ゲイツなどが支援しているCarbon Engineering(カナダ)が2015年からパイロットプラントの運用を開始、Global Thermostat(アメリカ)がDACを使用し大気中から回収したCO2をコカ・コーラ社に供給するなど、今では、世界中でDACプロジェクトが展開され、急スピードで技術の発展が進んでいます。

CCUSとDAC

この分野に詳しい方であれば、「Carbon Capture, Utilization, and Storage(以下CCUS)」というワードをどこかで見たり聞いたりした事があるかもしれません。
CCUSもDACと同様にCO2を回収して利用・貯留する技術なのですが、主に産業プロセスや発電所などからの排出源からCO2を回収する技術を指します。
CO2排出量ネットゼロを達成するためにはそうした産業活動から出てしまうCO2を回収するCCUSも重要な技術ですが、排出源からのCO2回収が困難な経済活動(例:航空機、船舶等)も存在します。そのため、大気中のCO2を直接除去するDACがどうしても必要となるのです。
CCUSとDACの関係・違いについては、今後の記事で別途より詳しい説明ができればと思います。

北海道・苫小牧市のCCS実証試験(資源エネルギー庁)

NETsの中でのDACのメリット

前回のNoteでご紹介した大気中からCO2を除去する技術「Negative Emission Technologies(以下NETs)」の中の一つの方法がDACですが、様々なNETsの方法がある中で、DACが以下の理由から世界で非常に期待されている技術となっています。

①クオリティ(品質)が高い

CO2除去分野では「Quality(クオリティ:品質)」という概念が重視されています。例えば、Alphabet、Meta、Shopify、Stripe、McKinsey等が永久的炭素除去技術の開発を加速するために設立した「Frontier」では、永続性、費用、検証可能性などを品質基準として重視しています。一例として、永続性の観点で品質基準を見た時に、植林や再生林はわずか50年しかCO2を隔離できないのに対し、DACは回収したCO2を地中に1000年以上貯留できるとも言われています。また、機械的に回収したCO2の量も記録できるため検証可能であり、実際にどの程度のCO2が吸収されているのか見えにくい自然由来のアプローチとは一線を画します。このように、DACは他のCO2除去手法と比べても、非常にクオリティが高いとされています。

Frontierの掲げる購買基準

②スケーラブルな解決策である

炭素除去は今後数ギガトンの規模で実施が必要となってきます。そのためには拡張性がある、すなわちスケーラブルな技術であることが必要となります。
この点、DACを運用するために必要な土地は、植林や他のCO2削減方法と比較して圧倒的に小さな面積ですみます。例えば、東京ドーム1個分の森林が1年間に吸収するCO2と同じ量をDACを運用して回収する場合、畳6畳分のスペースですみます。
このように、必要な土地面積が少なく、かつ電源にさえ接続すれば場所を選ばないソリューションであることから、DACはスケーラブルであり、また、CO2の貯留や利用など用途にあわせた回収場所が選択できます。

③再利用方法が豊富

DACは回収したCO2を様々な用途で再利用する事ができます。
有名な話では、コカ・コーラ社がClimeworksの回収したCO2を炭酸水の炭酸ガスとして再利用する形で、「Valser」という新たなブランドを立ち上げました。
他にも、水素と混ぜることで合成燃料の生産に活用したり、野菜や果物のハウス栽培などにも再利用されています。
このように、DACは回収したCO2を再利用可能という点でも高いポテンシャルを秘めています。

(c)Coca-Cola HBC

DACのデメリット

①回収コストが高い
大気中のCO2濃度は0.04%と非常に低いため、現状の技術では回収効率が低く、CO2回収コストがtonあたり$500-1,000と非常に高くなっています。なお、参考までに石炭火力発電所からの回収コストはtonあたり$50を切っています。今後大量のCO2を回収するには大型のDACプラントの建設が必要なため、回収コストを低減する必要があります。

②エネルギーの使用が必要
回収したCO2を吸着剤等から分離する過程で、900℃の熱等、大きなエネルギーが必要です。また、再生可能エネルギー由来の電力、熱等を利用しないでCO2分離を行った場合、エネルギーの使用によって排出されるCO2が回収したCO2を上回る可能性があります。そのため、研究開発を通して、特に分離の際に必要なエネルギーを削減する事が求められています。

以上がDACについての概要でした。参考になれば幸いです。

次回は、NETsを巡る国内外の政策動向について記事を書こうと思いますので、ご関心お持ちいただけたらご拝読ください!
なお、本記事について、フィードバック等ございましたら是非コメントお願いします!